トヨタ・プリウスS(FF/CVT)【試乗記】
買える、夢 2009.06.17 試乗記 トヨタ・プリウスS(FF/CVT)……276万700円
デビュー前から注文が殺到し、6月の時点で年内納車が危ぶまれるほど人気の新型プリウス。クルマの完成度は、期待通り、いやそれ以上の出来だった。
乗れば一発でわかる
歴史に前例がないほど「事件なクルマ」になった新型「トヨタ・プリウス」。とにかく2009年4月1日に予約受け付けを開始してから、5月18日の正式発売までの7週間だけで8万台を超える注文が舞い込んだのだから、驚くというより呆れるしかない。試乗どころか現物も見ずに買うと決めたのが8万人! さらに6月上旬までに3万台以上も受注して、今オーダーしても年内に納車できるかどうかという騒ぎらしい。これが事件でなくて何だろう。
そんな新型プリウスの良さは、乗れば一発でわかる。注目の燃費もそうだが、ハイブリッドかどうかなど関係なく、まず快適なセダンとして出来がよろしい。全長4460mm、全幅1745mmのボディはこれまで(2代目)よりわずかに太ったが、まあファミリーカーとして使いやすいギリギリのところ。座ってみると後席の頭の上に余裕が増えた。ルーフラインのてっぺんを微妙に後ろに移したのが効いている。
インテリアの質感も、いかにも次世代志向らしいサッパリ感と、そこそこの高級感を巧みに織りまぜてある。乗り心地もずっしり重厚だし、荒れた舗装路も気持ち良くフラットに通過できる。思い切ったコーナリングでも徹底した安定ぶりだし、各種の安全装備も充実している。電動パワーステアリングの感触も非常に緻密だ。
そのうえで独特の未来感覚が色濃く漂うのが新型プリウス。高膨張比方式の4気筒エンジンが1.5リッター(76ps)から1.8リッター(99ps)へと大型化され、そのぶん力強くなったのは、エコカーとして逆方向みたいだが、余裕が増えたぶん頑張らずにすむので、走りと燃費の両方とも良くなっている。たとえば100km/hでの回転数も、これまで2300rpmだったのが2100rpmまで低くできた。小さい差でも、こういう積み重ねがモノを言うのだ。
加速感は2.5リッター級
いや、そんなことより、このエンジンの生かし方に新型プリウスの値打ちがある。もちろん走ることにも使うのだが、それと同時に発電機を回し、その電力を受けたモーターが強烈に働くのが凄い。モーターは回転ゼロからの立ち上がりに最大のトルクを生むのだが、それがなんと21.1kgmもある。これとエンジンを単純合計すると35.6kgm つまり普通の3.5リッター級に匹敵するのだから、どんなに強力かわかるだろう。
実際にアクセルを踏んでみても、エンジンよりモーターが主役なのが感じられる。まず発進はモーターだけが受け持ち、そこからはエンジンと交代したり、必要なら両方が力を合わせたりというトヨタ・ハイブリッド・システムの構図は広く知られているが、初代(97年)より2代目(03 年)、さらに今度の3代目と、代替わりのたびにモーターの受け持ち領域が広くなり、電気感が濃くなっている。まだまだ発電機付きの電気自動車とは呼べないにしても、「ガソリン補助動力付き電気自動車」の域にかなり近づいたとは言えそうだ。
そのグイッと行く感じを3通り選べるのも新型プリウスの特徴。コンソールに3個のボタンがあり、どれも押さなければノーマルモードで、特に何も意識せずスイ〜ッと走れる。エコモードを押すとエンジンやモーターの出力が抑制され、そのぶん燃費が良くなるが、普通におとなしく使うなら、これでも性能に不満は感じない。たぶん誰でも燃費が最大の関心事だから、実際にオーナーになったら、こればかり使うかもしれない。
一方パワーモードを押すと驚くほどパンチが出て、エンジンの響きが逞しくなるだけでなく、ちょっと無理な追い越しも楽々とできてしまう。体感としては、普通の2.5リッター級と同じぐらいだ。
満タンで1000km行ける
そのほかにEV走行モードのボタンもあって、これで穏やかにアクセルを踏むとまったくエンジンを使わないまま、本当の電気自動車として走れる。2代目にもあるにはあったが、今度は50km/h以上まで伸びて1kmは行ける(バッテリーの残量が足りれば)から、深夜の住宅地などで重宝するに違いない。
そして燃費は、ベーシックグレードのLで38.0km/リッター!(その他は35.5km/リッター)。あくまでカタログ上の数字だが、それが35.5km/リッターだった2代目でも、普段の生活で22〜25km/リッターというユーザーは多いから、もっとモーターが活躍する新型なら確実に25km/リッターは超えるはず。
実際にいろいろな走行パターンを試したら、普通の市街地で22〜28km/リッターを簡単に記録した。おもしろいことに、パワーモードで元気に走ってもほとんど悪化しない。丁寧なユーザーなら、次の満タンまで1000kmは堅そうだ。
こんな燃費に加え、強烈な電気フィーリング、計器盤の情報表示をステアリングスイッチで簡単に操作できるキーボード感覚、さらにルーフのソーラーパネルからの電力で駐車中に換気を促すシステム(SとGにオプション)など、これでもかとばかり未来を描いてくれるのが新型プリウス。あれこれ欲しいものを付けると安くはないが、「まるごと夢を買う」と思えば、魅力は限りなく大きい。
(文=熊倉重春/写真=峰昌宏)
![]() |
![]() |

熊倉 重春
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。