アウディA4 2.0 TFSIクワトロ(4WD/7AT)【ブリーフテスト】
アウディA4 2.0 TFSIクワトロ(4WD/7AT) 2009.05.15 試乗記 ……657.0万円総合評価……★★★★
新型「A4」の発売から1年、待望の新グレード「2.0 TFSIクワトロ」が追加された。新エンジンに新トランスミッションを組み合わせ、クワトロシステムを採用するという魅力あふれるモデルは、まさに「真打ち登場」となるのか?
待たされただけのことはある
2008年3月より日本に導入された「アウディA4」は、1.8 TFSIと3.2 FSIクワトロという2モデルをラインナップしていたが、実際のところ、真打ちはまだ登場していなかったと言っていいだろう。1.8 TFSIも実力は十分ではあったが、「アウディ=クワトロ」という人にとっては食指の動く存在ではなかったはずだし、かと言って3.2 FSIクワトロとの価格差は実に223万円もあったのだ。この2車の間を埋めるモデルの登場は、買う側にとっても売る側にとっても、待ち望まれていたに違いない。
そんななか、いよいよ登場した2.0 TFSIクワトロ。その登場が遅れたのは、新世代となった2.0 TFSIエンジンと7段Sトロニックというふたつの新アイテムを搭載するためだったのだが、結論を言えば、待たされただけの意味はあった。動力性能に文句がないだけでなく、その感触が良いのだ。実用域からトルクフルで、速度域を問わずスポーティな走りを楽しめるエンジンに、歯切れよい変速を実現するデュアルクラッチギアボックスの組み合わせは、実に小気味よい走りを味わわせてくれる。
しかも、そこにはアウディに期待するハイテクイメージがあふれ、さらには時代の要請であるエコ=省燃費性という要素まで兼ね備えている。アウディ初心者も、熱心なファンあるいは他車との比較の上で選ぼうという厳しいユーザーに対しても、アピール度は大きいはず。そのうえ価格もセダンで495.0万円と、たとえば「BMW325i」(538.0万円)や「メルセデス・ベンツC250エレガンス」(584.0万円)といった直接のライバルに比べて、お買い得感が際立つ設定とされているのだから、あと何が必要と言うのだろう?
もちろん最終的には好みの問題である。しかし、この2.0 TFSIクワトロの登場で、A4がこのセグメントでさらに存在感を増すことになるのは間違いない。アウディの快進撃をおおいに後押しする、重要なモデルの登場と言えるはずだ。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
アウディの基幹車種であり、日本で最も人気のあるアウディ車でもあるミディアムセダン/ワゴンが「A4/A4アバント」だ。現行型は2008年3月に日本でデビュー。先代よりスポーティなキャラクターが強められ、ホイールベースの延長やサスペンションレイアウトの見直し、新しいステアリング機構などが採用されたことにより、操縦安定性の向上やダイレクトなハンドリングなどをアピールポイントとする。ライバルとなる「BMW 3シリーズ」「メルセデス・ベンツCクラス」などより大きな体躯を持つことも特徴だ。
(グレード概要)
発売時は3.2リッターV6のクワトロモデルと、1.8リッター直4ターボのFFというラインナップであったが、2009年3月の「S4」追加とともに、2リッター直4ターボのクワトロモデルが加わった。テスト車はこの新設定モデル「2.0 TFSIクワトロ」。可変バルブリフト機構「アウディバルブリフトシステム」を採用した、先代A4の2.0 TFSIとは異なる2リッターターボエンジンを採用する。新開発の7段Sトロニックが組み合わされることで、省燃費にも貢献。車両特性を任意に変更できる「アウディドライブセレクト」はオプションで用意される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
シートに腰を下ろした瞬間、「いいクルマだな」と感じさせるのは、このクオリティ感高い運転席まわりのおかげだ。素材そのものや成形のクオリティの高さ、シボの入れ方、スイッチ類の繊細な意匠など、見せ方は非常に巧い。
使い勝手も基本的には悪くない。スイッチ類が多過ぎて、結局は下を向いて操作しなければならないMMI(マルチメディアインターフェイス)の操作性には、やはり高い点数はつけられないし、ナビゲーションシステムがDVDで絵柄が寂しかったり等々と細かな不満もないわけではないけれど。
試乗車はオプションのバング&オルフセン製オーディオが装着されていた。クリアな、というかクリアに演出されたサウンドは悪くないが、A8用のようにツイーターがせり出してきたりはしないので、見た目はちょっと面白くない。本質的な話ではないが、安い装備ではないだけに、そういう満足感も考えてくれてもいいはずだ。
(前席)……★★★★
1825mmという全幅の広さは、室内空間にそのまま反映されている。特にドアとの間の空間の余裕は、居心地の良さに大きく貢献しているポイントである。
ドライビングポジションは全体に低めという印象。比較的、足を前方に投げ出すような姿勢はスポーティで悪くない。もちろん電動パワーシートの調整範囲自体は広いから、体格を選ぶことはないはずだ。
トランスファーが張り出しているために、現行A4はセンターコンソール側のフロアが盛り上がっている。そのため、最初乗り込んだ時には左足のあたりが窮屈に感じられるかもしれない。しかし実際にはドライビングポジション自体が圧迫されているわけではないので、走るうちに気にならなくなるということは付け加えておく。
(後席)……★★★
サイズアップの恩恵がもっとも顕著なのが、この後席の広さ。先代ではライバルに対して大いに見劣りしたが、その居住性、快適性はもはや不満の無いレベルに達している。シートの座面サイズには余裕が生まれたし、頭上にも十分な空間が残る。横方向の広さも、開放的に感じさせるところだ。
膝まわりは決して広くはないが、前席シート下につま先を入れることができるため、いったん身体を収めてしまえば、案外快適。自ずときちんとした姿勢を取ることになるため、ずっと乗っていても疲れは少ないのである。
(荷室)……★★★★
ラゲッジスペースの容量は480リッター(VDA法)。ライバルである3シリーズやCクラスよりも広いと謳うこの空間は、実際にも十分使いでのあるものとなっている。もっとも、これらよりひと回り大きなボディサイズを考えれば、当然でしかないわけだが。フロア面は開口部より低くなっているが、余程重いものを積み降ろしするのでなければ、開口部自体は大きいため難儀することはないだろう。
更に大きなスペースが必要な時には、分割可倒式のリアシートを倒せば相当な量の荷物を積み込むことができる。積載量のみで判断するならば、アバントでなければならないというシチュエーションは、そうそう無いのではないだろうか。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
排気側に可変バルブリフトシステムを組み合わせることで排気効率を飛躍的に引き上げたという、新しい2リッター直噴ターボユニットは、35.7kgmという最大トルクを1500〜4200rpmという幅広い範囲で発生する。A3スポーツバックが積むAVS(アウディ・バルブリフト・システム)なしのものが、最大トルク28.6kgm/5000rpmだから、トルクアップぶりは著しい。実際、低速域からアクセルペダルに軽く足を乗せるだけで、クルマがスッと前に出る力強さには唸らされる。しかも新採用の7段Sトロニックは、当然トルコンATのようなスリップ感とは無縁だから、つまりエンジン回転数や速度域を問わず、思いのままの加速を得ることができるのだ。一方、トップエンドの爽快感という点では、AVSなしのもののほうが上だったかもしれない。最高出力211psは、トルクピークを越えた直後の4300〜6000rpmで発生され、この回転域ではたしかに気持ち良い加速を楽しめるが、そこから先まで回したところで、性能的にも感覚的にも特に意味は見出せないし、エンジン音、排気音のいずれも全体におとなし目だ。スポーツ心臓と考えるとちょっと残念ではあるが、一般的な使用環境でどちらがより速く、より楽しいかは言うまでもないだろう。期待には十分応えてくれるはずである。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
前輪位置を前に出した新しい駆動系レイアウト、基本前後トルク配分を40:60としたクワトロシステムに、V型6気筒より抑えられたエンジン重量が相まって、その操縦感覚は、以前のアウディでは考えられないほどのニュートラルステアに近いものに仕上がっている。それでいて1.8 TFSIのように追い込んだ先で不安な動きを見せるようなこともなく、安心感は絶大。豊かなパワーを存分に引き出して楽しむことができる。これで初期応答とその後のレスポンスの繋がりが、もう少しリニアになれば……と思うところだが、それはA4シリーズ全体の問題である。
特にアナウンスはされていないものの、登場以来細かな熟成が確実に進められているようで、乗り心地も随分良くなっているように感じられた。「しっとり」という言葉を使ってもいいくらいの柔らかなダンピングの一方で、必要なところではしっかり踏ん張る。これぐらいの乗り味が実現できているなら、アウディドライブセレクトはなくてもいい。ちなみに別の機会に試乗したS-lineも、当然硬めではあるものの、それは以前のように耐えられないほどのものではなく、シャキッとした感触を楽しめる悪くないセッティングを見出していたということを付け加えておく。
(写真=高橋信宏)
【テストデータ】
報告者:島下泰久
テスト日:2009年4月15日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2009年型
テスト車の走行距離:1800km
タイヤ:(前)225/50R17(後)同じ(いずれも、ブリヂストン POTENZA RE050A)
オプション装備:SEパッケージ=40.0万円/APS(リアビューカメラ付き)=22.0万円/電動チルト式2ウェイガラスサンルーフ=17.0万円/バング&オルフセンサウンドシステム=15.0万円/アウディドライブセレクト=42.0万円/アダプティブクルーズコントロール=26.0万円
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(1):山岳路(6)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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