アウディA5 2.0 TFSIクワトロ(4WD/7AT)【試乗記】
浮世離れ 2009.05.13 試乗記 アウディA5 2.0 TFSIクワトロ(4WD/7AT)……700.0万円
「A5」に新たに追加された直4エンジン搭載モデルに試乗。「A5」シリーズの廉価版かと思っていたら、よりクーペらしさを感じさせるモデルだった。
水色のワンピース
個人的に、いま新車で買えるクルマのなかで一番のべっぴんさんは「アウディA5」だ。ちょっと控え目な佇まいがいい。同クラスのライバルたちは「どないだー!」と押し出しの強さを競っているけれど、A5だけはそうした下世話な争いから降りている感がある。
たとえて言うなら、ギンギンのメイクと下着みたいな服で勝負するギャルの中に、ひとりだけ白い麦わら帽子と水色のワンピースの美少女がいるような。ま、クルマをすぐに女性にたとえる下品なオヤジ(自分です)にほめられても、デザイナーの和田智さんは嬉しくないでしょうが。
そのA5に、2リッターの直噴ターボ(211ps)を搭載した「A5 2.0 TFSIクワトロ」が追加された。2008年2月に日本に導入された3.2リッターのV6(265ps)を積む「A5 3.2 FSIクワトロ」のトランスミッションがトルコン式6段ATだったのに対し、「A5 2.0 TFSIクワトロ」は縦置きエンジン用に新開発したツインクラッチ式7段Sトロニックが備わる。
2リッターでパワーに不足はないのか? そして新しいSトロニックのできはいかに? 興味はその2点にあったわけですが、結論から書けば新しいパワートレーンはA5というクルマの性格にドンピシャだった。
まず、AVS(アウディ・バルブリフト・システム)を搭載して1500rpmという低い回転域から最大トルクを発生するエンジンの性格が合っている。
新パワートレーンの美点と不満点
信号待ちからの発進は、少し乱暴にアクセルを踏んでもガーッと飛び出ない、穏やかなもの。とはいえ、トロいのとはちょっと違う。なんというか、水色のワンピースの裾を手でおさえながら駆け出す感じで、たいそう上品なのだ。クーペはスポーツカーとは違うのだから、こういった所作は大事だ。
この手のゆったりとした高級感を演出するには、少しファジーな部分があるトルコン式ATのほうがふさわしいと思っていた。けれど、新しいSトロニックはそのあたりもうまくチューンされている。ちなみにこの縦置き用Sトロニックは、フォルクスワーゲンのDSGの流用ではなく、アウディ独自開発との由。
回転を上げても、このパワートレーンは良家の子女の趣。エンジンの回転フィールはキメ細かく、排気音の音質も「フォーン」と軽くてヌケがいいから長時間聞いても疲れない。Sトロニックの変速も、実におしとやか。あるいは、エンジンを回してもトルク感が高まらないことに不満をおぼえる方もいるかもしれない。
でも、裏を返せば低回転域からたっぷりトルクがあるということ。相対的に盛り上がりに欠けると思えるだけで、タコメーターの針がどこにあろうと、センの細さは感じない。
とまあ、「A5 2.0 TFSIクワトロ」の美点ばかりが目に付いたけれど、山道に入るとさすがにV6モデル比でマイナス54psという事実に直面する。登り坂で加速しようと、パンとアクセルを蹴っ飛ばした時の一瞬のパンチ力で劣るのだ。
スポーツカーとは土俵が違う
しかしですねえ、自分としてはこれでいいじゃないかと思った。より正確に書けば、これがいい。このクルマに乗っていると、コーナーを速く駆け抜けるよりも、美しい弧を描いて優雅にクリアすることに神経が集中するようになる。
コーナーではかなりロールをするタイプなので、ステアリングホイールをこじるような乗り方だとコーナリングフォームが美しくない。早め早めにノーズの向きを変えて、四輪をペターっと路面に吸い付かせながら涼しい顔で乗ると気分が出る。A4/A5シリーズの美点である乗り心地のよさは、このモデルにも受け継がれている。表面的にはホワンとした印象を与えつつ、芯はしっかりしている。
A5というクルマがスポーツクーペというカテゴリーに属するとして、V6モデルだとスポーツ対クーペの割合が6対4ぐらい。一方、直4のコイツは3対7ぐらいのさじ加減だ。V6のほうは、スポーツカーと速さを競わなくちゃいけないから大変だ。
よく知られているように、クーペという言葉の語源はフランス語の「couper」(切る)。箱形馬車の後部を切り落とすことで、実用性よりもエレガントなスタイルを選んだことに由来するとされる。
後席や荷室の実用性を重視しないのはもちろん、スピード競争にも巻き込まれない「A5 2.0 TFSIクワトロ」は、クーペ特有の優雅さが純化されたように思える。生活感がないというか、ぬかみそ臭くないというか、その浮世離れした存在感がステキだ。
それに、価格表を見ると「A5 3.2 FSIクワトロ」の705万円に対して、「A5 2.0 TFSIクワトロ」は582万円。123万円の差はでかいですよ。……なんて、100万ちょっとの違いに大騒ぎする自分は、生活臭さ満載なわけですが。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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