メルセデス・ベンツC63 AMG(FR/7AT)【試乗記】
守旧派(?)スーパーセダン 2009.04.02 試乗記 メルセデス・ベンツC63 AMG(FR/7AT)……1052万4000円
2008年、過去最高の販売台数を記録したメルセデスAMG。その中でも一番人気なのが末っ子モデル「C63 AMG」。「Cクラス」に6.2リッターV8エンジンを積んだハイパフォーマンスモデルに試乗し、その魅力を探る。
人気の理由は穏やかさ
米国発の金融危機が世界中を大不況に陥れた2008年、AMGのグローバルの販売台数は2万4200台で、前年比19%増を達成したという。なかでも新興国での伸びが著しく、ブラジルはなんと565%、中国では260%アップを記録したそうだ。
1000万円以上の超高価格車が不況と無縁だったのは過去の話で、今回は大きく業績を落としているブランドもある。なのにAMGにとっては「どこ吹く風」だった。とりわけ今回乗った「C63AMG」の販売台数は8100台で、AMG全体の3分の1を占める。
なにが人々を引きつけるのか。週末をともにすることで、理由はある程度理解できた。そのひとつが、6.2リッターV8、457ps/61.2kgmという壮絶なエンジンを積みながら、フツーの「Cクラス」と同じ感覚で運転できることだ。
4720×1795×1440mmというサイズは、他のCクラスと比べて少しだけ長く、幅広く、低いだけ。エアロパーツやワイドフェンダーで武装しているが、同レベルの性能を持つスポーツカーに比べれば圧倒的におとなしい。
キャビンはステアリング、メーター、シートなどを専用仕立てにしているけれど、基本的にはCクラスの延長線上にある。バケットシートの座り心地はガチガチではなく、サイドの張り出しもほどほどで、乗り降りしやすいし快適に過ごせる。
超高性能車っぽくない!?
それ以上に衝撃的だったのは街での乗りやすさだ。1.8mを切る幅とよく切れるステアリングで狭い道も苦にならないし、乗り心地は硬めだが金庫のように堅牢なボディのおかげでダイレクトな衝撃はなく、カドマルに仕立ててある。これならアシに使えると多くの人が思うだろう。
7段ATは、C(コンフォート)モードでは環境性能重視なのか低回転をホールドし続け、変速の反応もゆったりしている。しかもスロットルレスポンスはメルセデスの例にもれず渋いから、右足に力を込めない限り、いい意味で超高性能車っぽい危うさを感じないのである。
でもこんな風に流すだけなら「C200コンプレッサー」で十分なので、前が空いたところでフルスロットルを試す。雷鳴のような音が轟いた瞬間、ESPのインジケーターが点滅し、1800kgのウエイトを無視するような突進が始まった。AMGだけに用意されるESPスポーツモードを選んで発進したら、後輪がしばらく空転を続け、交差点ではいとも簡単に横を向いた。窓を開けたら、タイヤの溶ける匂いが漂ってきたほどだ。
もっとも、ATのモードがCのままでは、時間差をおいてこの大トルクが押し寄せてくるので扱いにくい。反応が自然になるだけでなく、コーナー手前で自動的にダウンシフトしてくれるS(スポーツ)モードのほうが適役だった。M(マニュアル)モードは、アルミ製パドルのひんやりした触感と剛性感あふれるタッチが心地よく思えたものの、なにしろ力がありあまっているので7段もいらないというのが正直な感想だった。
6.2リッター、いりますか?
高速道路でもC63AMGは、Cクラスであり続けた。他のメルセデスと同じ、おだやかなステアリングフィールが、リラックスした時間を届けてくれる。それでいて山道では、ノーズに巨大なV8を積むとは思えない素直なハンドリングを演じてくれる。踏みすぎて滑ったかな? と感じた直後にはESPがリカバーし、ESPスポーツにすれば穏やかなスライドを楽しみつつコーナーをクリアできる。巨大な手のひらで火遊びしているような感覚だ。
でもその走りは、ドライバーがアクセルを慎重に操作し、踏みすぎた場合はESPに調整してもらって得た結果でもある。6.2リッターは無用の長物であり、感覚的には持てる力のせいぜい3分の2しか使えない。しかも外野に目を向ければ、環境問題はますます深刻になりつつある。そんな状況が思い浮かぶたびに、なぜ大排気量の自然吸気エンジンを? という気持ちになった。
現にライバルの1台「アウディS4」は、新型でエンジンを4.2リッターV8自然吸気から3リッターV6+スーパーチャージャーにダウンサイジングしてきた。最大トルクは旧型を上回っているが、最高出力はダウンしている。でもそれが21世紀の高性能車のあるべき姿のひとつだと思う。
無名の新興メーカーの作品なら笑って許してもいいだろう。でもメルセデスはガソリン自動車のパイオニアであり、安全や環境の第一人者であると自認している。そんな会社のプロダクトだからこそ、たとえハイパフォーマンスバージョンであっても、スピードやパワーでプレミアムを誇示する前時代的な手法から率先して脱却する姿勢を見せてほしかった。
(文=森口将之/写真=峰昌宏)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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