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第82回:「ジュネーブショー2009」風雲!カロッツェリア、でもキラリと光る話題が

2009.03.14 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第82回:「ジュネーブショー2009」風雲!カロッツェリア、でもキラリと光る話題が

「劇場仕立て」だったのに

ジュネーブショーの会場は、劇場仕立てである。
入口のエスカレーターに乗って上がってゆくと、無数のライトに照らされた本会場の様子が次第に明らかになってくる。舞台の幕が開くかわりに、みずからがステージに迫ってゆく心境。今年はどんなクルマが待っているのか? 心ときめく瞬間だ。

そしてエスカレーターを降りてすぐのところに、スター然として構えているのがイタリアのカロッツェリアたち。その最前列には長年、ピニンファリーナ、ジウジアーロ、ベルトーネの、いうならばトリノ御三家がスタンドを構えるのが通例だった。華やかなショーの序曲を彼らが奏でる、というムードが漂っていたものである。

「いたものである」と書いたのは、近年そうした情景が変わりつつあるからだ。

カロッツェリア・ベルトーネは、2008年はじめに倒産したため、同年のジュネーブから姿を消した。デザイン部門のスティーレ・ベルトーネは存続したが、残念ながらショー会場には戻ってこない。
ピニンファリーナも変容した。現在フィアットやフォードから受託生産している「アルファ・スパイダー」や「フォード・フォーカスCC」などを並べたものの、ショーカーの公開は見送った。2007年後半から続く経営不振がもろに現れたかたちだろう。その他の大小のカロッツェリアも、今ひとつ元気がない。

それにしてもショーカーのドアというと、なぜガルウィングやセンターピラーレスにしないといけないのか? その昔、ボディ剛性の高さを自慢した名残なのかもしれない。だが、センターピラーのない初代「日産プレーリー」が出て27年が経過し、近所のチューニング兄ちゃんが「プジョー206」をガルウィングに改造する今となっては、もはや誰も驚かないのではないか。

モーターショーをボディビル大会に見立て、そうしたドアを「ボディビルダーのお決まりポーズ」と解釈すると納得できないでもないが……。

秀逸なフィオラヴァンティ

とはいってもイタリアのカロッツェリアたちに光明が見出せないかといえば、けっしてそんなことはない。それどころか、今年はキラリと光る提案がいくつかあった。
たとえば、ピニンファリーナ在籍時代に数々の名作フェラーリを手がけたレオナルド・フィオラヴァンティの会社は、「LF1」と名づけた近未来のF1を提案した。
フィオラヴァンティは、ピニンファリーナで未来のF1「シグマ・グランプリ」プロジェクトに携わり(ただし本人によればデザイン作業には関与していない)、1969年のジュネーブで発表している。それから40年隔てたF1への再提案である。

今日のF1カーのレギュレーションは65ページに及び、すべてがミリ単位で規定されている。フィオラヴァンティ氏は「エンジニアではなく、コンピューターが設計しているといってよいのです」と筆者に語る。

2012年に改定されるF1のレギュレーション(1800ターボ)を土台に、もっとコンバクトかつ低コストでありながら、空力的洗練を目指したのがLF1だという。タイヤも現在のF1が13インチなのに対して、高性能量産車に近い、すなわち価格低減が可能な18インチを採用している。

ちなみにフィオラヴァンティの会社は、1987年の創業以来今日までに35件もの特許を取得している。だが生産設備はおろか試作用の大規模設備も持たず、数々の外部コラボレーターとの連携によって製作活動を行っているのである。

ジュネーブでは「空力効果と表面加工でワイパーの要らない自動車」など、毎年的確な課題を自らに課して挑戦している。

大手カロッツェリアが過剰な生産設備に足を引っ張られている昨今、フィオラヴィンティの選択は、まさにイタリアのデザイン産業のあるべき姿を20数年前から先取りしていたといえよう。

レオナルド・フィオラヴァンティ(右)と彼をサポートする子息たち、そして最新作の「LF1」。
レオナルド・フィオラヴァンティ(右)と彼をサポートする子息たち、そして最新作の「LF1」。 拡大
エアロダイナミクスの洗練が各部にみられる。
エアロダイナミクスの洗練が各部にみられる。 拡大
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同様にピニンファリーナ在籍経験をもつエンリコ・フミア氏がスタンドを訪問。
同様にピニンファリーナ在籍経験をもつエンリコ・フミア氏がスタンドを訪問。 拡大

夢を叶えるザガート

今年創業90周年を迎えたミラノのザガートもジュネーブに新しい風をもたらしてくれた。
新作の2シータークーペ「ペラーナZ-One」は、南アフリカの企業「ペラーナ・パフォーマンス・グループ」で近日生産が開始され、欧州では年内にもオーナーの手に渡るという。

スタイリングは、ザガートの戦後作品を彷彿とさせる伸びやかなロングノーズ、限りなくドアに近づけられたリアホールのアーチが際立っている。本格的なチューブラー+ボックスセクションのフレームをもち、フロントに搭載したGM製6.2リッターV8、442馬力エンジンで後輪を駆動する。前後重量配分は理想値の50:50に限りなく近い。
生産台数は年間999台。驚くべきはその価格。アンドレア・ザガートによれば税別5万ユーロ(約625万円)以下で販売される。

ザガートは、昨年インド系企業に49%の支援を仰いだが、ペラーナ計画はその以前から始動していたものという。自らも南アフリカを往復したという、チーフデザイナーの原田則彦氏は「南アフリカのスタッフは皆、けっして飾ることのない、きわめて純粋な人たちだった」と、彼らを高く評価する。

近年も富裕な顧客のために一品製作をヴィラ・デステなどで発表してきたあの名門ザガートの作品が、メルセデスEクラスほどの価格で手にすることができる。ファンにとってこれ以上ない朗報であろう。

ザガートによる「ペラーナZ-one」。
ザガートによる「ペラーナZ-one」。 拡大

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「ペラーナZ-one」の構造図。
「ペラーナZ-one」の構造図。 拡大
「ペラーナZ-one」とアンドレア・ザガート会長。
「ペラーナZ-one」とアンドレア・ザガート会長。 拡大

ピニンファリーナの未来、買いませんか

前述のピニンファリーナの名誉のために記すが、ショーカーを出さなかったからといって何もしなかったわけではない。
本欄でもその過程をたびたび紹介し、2008年パリサロンで公開されたフランス・ボロレ社との共同開発による電気自動車「Bluecar」の、より詳細なスケジュールを公表した。
2010年からトリノのピニンファリーナ工場(どの拠点かは未定)で生産に着手、2011年から17年に量産体制を堅固なものにしてゆく計画で、その間2015年までに6万台規模にまで持ってゆくというものだ。

さらに、驚いたことにBluecarの仮予約も会場で開始していた。広報担当者は脇のデスクを指す。見て見ぬふりをするボクに、担当者は笑いながら「レンタル制度で月330ユーロ(約4万円)ですよ」と畳み掛けた。今年はインド・タタ社をはじめとする新しい株主のもとで本格的な再生計画が始まる転換の年である。

感動のあまり「あなたたちの未来、ひとつ買いましょう」と口から出かかった筆者だが、帰りの旅費が不足していることに気づき「あ、小切手忘れました」とジョークを残して逃げてきた。

でも遠くで振り返り、「がんばれ、新生ピニンファリーナ」と巨人の星の明子姉ちゃんのような面持ちで声援をおくることを忘れない、心やさしい筆者だった。

(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA/写真=ZAGATO、Pininfarina、大矢アキオ)

会場で仮予約が開始された「ピニンファリーナ・ボロレ Bluecar」。
会場で仮予約が開始された「ピニンファリーナ・ボロレ Bluecar」。 拡大
パオロ・ピニンファリーナ会長
パオロ・ピニンファリーナ会長 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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