ジャガーXKR(FR/6AT)/XFR(FR/6AT)【海外試乗記】
これぞジャガーの熱い走り 2009.03.04 試乗記 ジャガーXKR(FR/6AT)/XFR(FR/6AT)最新のエンジンを搭載する、最新のハイパフォーマンスジャガー「XFR」「XKR」。2月にして、はや暖かい陽光降り注ぐ、スペインはセビリアの地でテストドライブした。
Jゲートに代わるアイコン
ジャガーのハイパフォーマンスモデルを意味する「R」シリーズに、新たな仲間が加わった。セダンの「XFR」は、XFシリーズに追加設定されたホッテストモデル。そしてクーペ/コンバーチブルの両ボディが揃う「XKR」は、従来型のマイナーチェンジ版という位置付けだ。
両モデルが搭載する心臓は、V型8気筒ユニットの90度バンク内に水冷インタークーラー付きのルーツ式スーパーチャージャーを収めた5リッターユニット。センター噴射式のスプレーガイド式直噴システムや軽量コンパクトなブロック構造、高効率の冷却システムなど、いかにも最新設計らしい各部デザインを採用している……というのは、すでにお伝えしたとおりの内容だ。
メッシュグリルが与えられたフロントマスクに、エアアウトレット付きのボンネットフード。リップ式リアスポイラーに4本出しのテールパイプを採用、といったあたりは、XFR/XKRに共通するエクステリアのディテール。そして、そんな“R”ならではのドレスアップに加えて、いかにもダイナミックな走りを予感させるのが、足元を引き締めるファットで大径なシューズである。
装備のハイライトは、これまでXFシリーズのみに用いられてきた「ドライブコントロール」がXKRにも採用されたこと。イグニッションONでダイヤルがせり上がり、出発準備が整った事を視覚的にアピールする「ドライブセレクター」をメインに構成されるセンターコンソール上のこのアイテムは、これまでのJゲート式のフロアレバーに代わって、最新ジャガー車を象徴するインテリアのポイントとなりつつあるようだ。
世界一級のスポーツサルーン
まずは初デビューとなったXFRで走り始める。と、その圧倒的加速力以前に驚かされたのは、際立ってしなやか、かつフラットな、フットワークのテイストだった。
さすがに20インチのシューズを標準とするだけあって、路面の細かな凹凸を拾う感触はそれなりにダイレクト。しかし、サスペンションの動きそのものはとてもスムーズで、それでいながらボディの無駄な動きが抑えられた、高いフラット感が素晴らしい。ドライブコントロール内にあるチェッカードフラッグマーク付きのスイッチをプッシュすると、スロットルやトランスミッションの制御パラメーターがよりスポーティになると同時にダンパー設定の制御もハード寄りになるものの、それでも相変わらず「快適性は良好」と表現できる状態にあるのには恐れ入る。
そうしたコンフォート性能を確保した上で実現された、ダイレクト感あふれるハンドリングも、XFRが世界一級のスポーツサルーンである事を証明する。4輪の接地感はどのようなシーンでも色濃く、オーバー500psという出力を備えるFRモデルだというのに、コーナーでもガンガンとアクセルペダルを開けていけるのは、新開発となる電子制御式LSD「アクティブ・ディファレンシャル・コントロール」の威力が大きいに違いない。
フラッグシップスポーツの面目躍如
そんなたぐいまれなる運動性能の持ち主であるXFRから乗り換えても、“さらに軽やかな走り”を実感させてくれるのだから、一方のXKRはやはり生粋のピュアスポーツカーだ。
XFRでも十分に凄まじさを体感できた加速力は、こちらではさらに一段増しの印象。実はデータ上では、XFRとXKRは0-100km/h加速タイムがコンマ1秒しか変わらないのだが、それでも体感上は明確な違いを受ける。それは、アルミモノコックボディを採用するXKRの重量がスチールボディのXFRより明確に軽いこと。そして排気系チューニングの違いで、XKRに、より迫力あるエグゾーストサウンドが与えられていることなどに起因していそうだ。
いずれにしても、メカニカルチャージャー付きゆえに、低回転域から太いトルクを味わえるのは、従来のXKR同様の印象。しかしながら、そんな旧4.2リッター車と大きく異なるのは、高回転域にかけての圧倒的なパワフルさだ。3速や4速ギアでも衰えないそうした感覚は、もはや空恐ろしいほどでもある。ちなみに、トランスミッションは構造的にはオーソドックスなトルコン式ATなのだが、トルクの伝達感が極めてタイトで、パドル操作時のシフトレスポンスも昨今流行のDCT(デュアルクラッチトランスミッション)車ばりにシャープという点も、そんな動力性能の好印象に繋がっていることを付け加えておこう。
XFR以上にロングノーズが強調されたプロポーションから、むしろやや鈍重なハンドリング感覚が予想された。しかし実際には、その回頭感が明らかによりシャープ。軽量構造に加え、ホイールベースが160mmほど短い影響も大きいに違いない。
XKRはどこをとっても「XFRに輪をかけてスポーティ」。ジャガーのフラッグシップスポーツの面目躍如というところだろう。
それにしても、日本では“高級サルーン”というイメージが強いジャガーというブランドのモデルが、ここまでの熱い走りを実現してくれるのは驚きという人も多いはず。「AMGやBMW“M”シリーズ、なにするものゾ!」という実力を秘めたクルマが、“ジャガーのR”なのである。
(文=河村康彦/写真=ジャガー・ランドローバー・ジャパン)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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