第271回:空前の“SUSHIブーム”到来! 「スズキ」や「水戸黄門」との関係とは?
2012.11.16 マッキナ あらモーダ!第271回:空前の“SUSHIブーム”到来! 「スズキ」や「水戸黄門」との関係とは?
名門自動車メーカー跡地にすしレストラン!?
今回はイタリアやフランスにおける最新の日本カルチャー事情をお話ししよう。
「スタンゲリーニ」といえば、モデナにある往年のレーシングカー工房であり、今日では地元におけるフィアットとBMWの大ディーラーである。その旧本社跡地に少し前、北部イタリアを中心にチェーン展開しているすしレストラン「ZUSHi」がオープンした。
ボクが住む街シエナでも、新しいすしレストランが近日オープンするようだ。これで市内に3軒目だ。いずれもボクとは面識のない中国系オーナーの経営によるものである。だが日本食レストランは日本人経営と思い込んでいるイタリア人は、他の店が開店したときと同様に「あのリストランテ・スシ、味はどうよ?」とボクに聞いてくるに違いない。
ボクがイタリアにやってきた16年前と今日との決定的な違いのひとつに、“SUSHI”の浸透がある。早くからSUSHIカルチャーが浸透していた米国にお住まいの読者は不思議に思うかもしれない。だがイタリアでは少し前まで、すしを食べたことがある人というのは、大都市に住む一部の人々か、パリやロンドンもしくは米国の大都市を旅して興味本位に食してみた人が大半だった。
ところがヘルシー志向の追い風と、飽和状態にあった既存中華料理店が差別化を模索したことから、ここ数年、イタリアですしレストランの数が一気に増えた。フランスでも既存の中華料理店やベトナム料理店が「SUSHI」の看板を掲げるようになった。
“SUSHI御殿”を見た!
すしレストランの普及にあわせて、スーパーでも魚売り場の横にSUSHI専門の冷蔵ショーケースが置かれるようになった。周囲には日本食用調味料が並べられていたりすることもある。しょうゆはわかるが、なぜかすし酢まで売られていたりするのが面白い。
そうしたイタリアやフランスのスーパーで売られているすしの味は、日本におけるスーパーのお惣菜コーナーのすしには到底敵わない。すし種はともかく、ごはん(しゃり)がいかにもオートメーションで握られている形状なのである。
だが最近ボクは、取材の疲れで脂っこい料理が食べたくないとき、出張先のスーパーに行ってすしコーナーを探すことがたびたびある。
そうしたスーパー販売系のすしは、イタリアの「YAMA SUSHI」、フランスの「マルコポーロフーズ」が作る「YEDO SUSHI」といったブランドが有名である。商品名もファンタジーに富んだものが多い。例えば、YAMA SUSHIには、「IZUMI」といった女性名シリーズのほかに、なんと「NARITA」という商品もある。「どっかで聞いたような日本語」というのがネーミングの基準なのだろう。
ちなみに少し前、クルマの撮影のためにフランス・ロワール地方にある邸宅の庭を拝借したことがあった。あまりに立派な建物なので、持ち主の職業を聞いてみると、その豪邸のあるじはスーパーに納めるすしビジネスで成功したフランス人だった。今後も、各地に“SUSHI御殿”が誕生するのかもしれない。
支えているのはアニメ世代
すしブームの背景にあるもうひとつのものといえば、日本の「アニメ」であろう。すしレストランに好んで行くのは、こちらでも放映されている日本製アニメで育った世代である。子供の頃から映像の中の日本に親しんでいたことから、実際の好き嫌いは別にして、日本食にも取りあえず興味を示す。
そうしたムードのなか、すしとは直接関係ないが、クルマ界でポップな日本風情で攻めているのは、スズキのイタリア法人「スズキ・イタリア」である。もともとスズキは新聞広告にいきなり「乗車」と大きな漢字を使ったり、日本国旗をモチーフにした「ジムニー」の特別仕様を企画するなど、日本ブランドであることをたびたび前面に打ち出していた。
加えて最近は「ルパン三世」をイメージキャラクターに使用している。例えば、ハンガリー製コンパクトカー「スプラッシュ」の広告には、楽器の「ドラ」をたたく峰不二子という、なんともオリエンタルな図があしらわれている。わが街のスズキディーラーのウィンドウにも、少し前から巨大な峰不二子デカールがお目見えした。ちなみにその横には和服女性ステッカーも貼られている。
“SHOGUN空港”はいかが?
日本アニメといえば、先日イタリア人と夕食をしているとき、一緒にいた30代の若者ドメニコ君がいきなり「“ミツクーニ・ミート”を知ってる?」とボクに切り出した。「アルファ・ロメオ ミト」のチューニング仕様か何か? と思ってよく聞けば、なんのことはない。水戸藩主の徳川光圀(みつくに)、つまり水戸黄門のことであった。1980年代初頭に日本で制作された『まんが水戸黄門』が、流れ流れてイタリアでも放映されていたらしい。
そういえば、前述のイタリアのYAMA SUSHIにも「MITO」という商品がある。ネーミングした人は、イタリア語の「Mito」(伝説の意)と同じつづりであることと同等、もしくはそれ以上に水戸黄門が頭の中に焼きついていたのかもしれない。
ちなみに、イタリア人にとっては、なぜ最初から威力のある印籠を出さないのかが不思議らしい。ドメニコ君には印籠がその昔、薬入れであったことは説明しておいたが、実写版で由美かおるが演じる「かげろうお銀」の入浴シーンが人気であることは、少々ハイレベルな話題なのでやめておいた。なお、『まんが水戸黄門』のイタリア語タイトルは『L'invincibile Shogun(無敵の将軍)』だったという。
ところで米国や欧州では空港に、土地にちなんだ歴史上の人物名をつけるのが通例だ。フィレンツェやピサのような地方空港でさえ、それぞれ「アメリゴ・ベスプッチ空港」「ガリレオ・ガリレイ空港」という別名がある。いにしえの人たちばかりではない。リミニにも「フェデリコ・フェリーニ空港」という別名がついている。日本でも高知に「高知龍馬空港」という例があるものの、もう少し弾みをつけたい。
そこで、いまひとつ盛り上がらない茨城空港を「MITO黄門空港」にしてしまうのはどうか。いや、いっそのこと「SHOGUN空港」にしてしまおう。国際的に知名度が高い日本語単語を使わない手はない。羽田空港は東京湾岸ということで「SUSHI空港」にするという手もある。それに闘志を燃やした成田空港が「長嶋茂雄空港」とか「森田健作空港」と命名してしまう事態も考えられ得るが……。
(文と写真=大矢アキオ/Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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