ホンダ・インサイト L(FF/CVT)【試乗速報】
ハイブリッドを広めたい 2009.02.24 試乗記 ホンダ・インサイト L(FF/CVT)……259万3000円
実際に走って計測した燃費はリッター25km。発売から10日あまりで1万台を超す受注を受けたという、期待の新型「インサイト」のファーストインプレッションをお届けする。
プリウスの一人勝ちじゃ、つまらない
「ホンダ・インサイト」がフルモデルチェンジを受けて2代目となった。初代は2007年夏に生産中止となっているから、約2年半ぶりの復活ということになる。
2人乗りだった初代とは異なり、新型は定員5名の5ドアハッチバック。だからインサイトがお休みしていた間にハイブリッド専用車の代名詞になった「トヨタ・プリウス」とガチンコだ。で、長〜い目で見れば、「プリウス」にとっても新型「インサイト」の登場は慶事ではないかと思うわけです。
たとえばF1も、シューマッハーひとり勝ちの時期よりセナとプロストが火の出るようなバトルをしていた頃のほうが注目が集まった。プロレスだって、全日本プロレスと新日本プロレスの両方が元気だった時期にブームが起きた。寒流と暖流がぶつかるところがよい漁場になるように、ハイブリッド車市場も「インサイト」と「プリウス」の激突によってさらに活性化するのではないか。
という期待を抱いて向かった試乗会会場で、新型「インサイト」と対面してちょっとがっかり。写真でもそう感じたけれど、実車を自然光の下で見てもルーフからボディ後方にかけてのラインや、リアハッチの処理などが「トヨタ・プリウス」に酷似しているから。
F1がどれも似たような格好になるのと同じで、空力を追求するとこの形になるのかもしれないし、リアハッチの一部を透明にしてシースルー化する手法は初代「インサイト」や1980年代の2代目「CR-X」のほうが早かったという意見もあるでしょう。
けれども、そうは言ってもせっかくの新型車なのに「プリウスに似てるね〜」なんて言われたらつまらない。そう言わせないための工夫の余地もあったのでは……。
そういえば以前に読んだインタビュー記事で、北野武は「ほかの監督の映画は観ますか?」という質問に「似た映画を作らないために観る」と答えていた。
初代のデザイン的特徴であったリアタイヤを覆うカバーは、整備性向上などの理由で採用を見送られた。タイヤ交換時などにカバーを外す必要があるのだという。維持費も含めて、なるべく「インサイト」を親しみやすいクルマにしたいという狙いの表れだ。そして、「とにかくハイブリッドを広めたい」という意図は、いろいろな部分から感じられた。
助手席には“教官”が座っている
ハイブリッドシステムを起動して走り出す。すいすいと速度を上げる加速感は自然で、力も充分だ。おそらく、普通のエンジン車から乗り換えても違和感はないでしょう。「インサイト」のハイブリッドシステムはパラレル(並列)式と呼ばれるもので、モーターは補助する役割で主役はあくまでエンジン。運転感覚は、エンジン車と大差ない。
ごく自然に「インサイト」の運転に馴染みつつ、考えたことはふたつ。
まずひとつ目、「新しモノ感には欠ける」と思った。インサイトには、「プリウス」のようにエンジンが完全に停止してモーターだけで走る無音・無振動のEV(電気自動車)走行がないのだ。
実は低いスピードで巡航する時など、「インサイト」もモーターだけで動く場面もある。ただ、気筒休止システムによってバルブ作動が休止しながらも、完全にエンジンが停止しているわけではない。ホンダのエンジニアがモーターだけで走る状態を「エンジンが空回りしている状態」と表現していたのが面白かった、というのはまったくの余談です。
いっぽうで、「インサイトのほうが広まるかもしれん」とも思った。仕組みが複雑になる「プリウス」の方式に比べるとシンプルな「インサイト」のほうが安くできるはずで、それが189万円からという価格設定を可能にしたのだろう。
価格や性能のフェアな比較は、間もなく登場する新型「プリウス」を待ちたいけれど、複雑なメカで燃費を追求する「プリウス」と、安くして広めようという「インサイト」の違いは興味深い。昔の「ターボとDOHC、どっちがエライか?」とか「あなたはFR派? それともFF派?」みたいな激論が戦わされると、ハイブリッド業界も熱気ムンムンになるはずだ。
ドライバーの正面、タコメーターの上方には独立した窓を備える速度計がある。そして、デジタル表示される数字の背景色が、運転スタイルに応じて変化する。強くアクセルペダルを踏んで急加速するとブルー、少し強めの加速をする時はブルーグリーン、そしてアクセルペダルをそれほど踏み込まないエコな状況ではグリーンになる。また、タコメーターの円周内部のマルチインフォメーション・ディスプレイでは、エコな運転を行うとリーフ(葉っぱ)が成長する。速度計の背景色が変わる演出と同様、視覚でエコドライブが理解できるようになっている。
ホンダが「コーチング機能」や「ティーチング機能」と呼ぶこういった教育的な機能に囲まれてのドライブは、教習所の教官とドライブしているみたいで最初は窮屈だった。けれど、“教官”のおかげで「へぇ〜ここでアクセルを戻すと燃費に効くのね」的な新しい発見があったことも事実。ここでも、「エコドライブを広めたい」という狙いははっきりしている。
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ハイブリッドのほうがスポーティ?
まったりした乗り心地よりも、小気味よいドライなフィーリングを重んじるホンダっぽいテイストはハイブリッド専用車種である「インサイト」でも健在。タイヤと路面が接するざらざらとした感触や路面からのショックは割と正直に伝わってくるいっぽうで、カツーン、カツーンと軽快に走る。前後の足まわりは、「フィット」用を改めてセッティングしたものだというから、乗り味がホンダっぽいのは当然かもしれない。
興味深いのは、高速コーナーをペターっとクリアする感覚。ちょっとスポーツカーっぽいという印象すら受ける。最近のホンダはミニバンばかりになったからなぁ……。そのあたりをシャシー担当エンジニア氏にうかがうと、「実はフィットより重心が低くなって、前後重量配分もよくなったのでスポーティになりました」とのことだった。
バッテリーやPCU(パワー・コントロール・ユニット)などのハイブリッドシステムの中核をひとまとめにしたIPU(インテリジェント・パワー・ユニット)という重量物を、後席の後方床下に配置したことが理由だという。
また、ライバル(つまり「プリウス」)と明確な差別化を図る意味でも、運転して楽しいスポーティな操縦性を大切にしながら開発したとのことだ。確かに、軽やかに走るホンダらしさは感じられる。パワーステアリングの感触も爽やかで、ダイレクト感があるもの。減速時には減速エネルギーをバッテリーに蓄えるけれど、このときのブレーキのタッチもカッチリしたもので、違和感はない。
後席は、体格のいい人だと髪の毛が天井に触れる。スタッフで試してみたところ、180cmだと確実に触れ、170cmであれば姿勢良く座ることができた。
トランクはかなり広く、使い勝手もよい。ハイブリッドシステムを積んではいるものの、普通のホンダ製小型車っぽいというのが「インサイト」の第一印象だ。良く言えばいままでのクルマから乗り換えても違和感が少ないし、悪く言うと「エンジン車とは明らかに違う」というありがたみは乏しい。
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大阪まで2000円ちょっと
試乗会の最後に、各メディア対抗の燃費競技が行われた。25kmの市街地コース(比較的交通量の少ない首都高速が6割、まずまず混んでいる一般道が4割)で燃費を競うというもの。Tカメラマンと『webCG』のスタッフと3名乗車でチャレンジしてきました。
スタート前に開発のとりまとめを行った関康成LPL(ラージ・プロジェクト・リーダー)より「だらだらゆっくり走るよりも、ある程度グッと速度を上げて、そこからモーターのみの走行モードに入れたほうが燃費がよくなります」というアドバイスをいただく。
より燃費を向上させるための制御を行う「ECONモード」のスイッチを押していざ路上に出てみると、モーター走行モードに入れるのが思ったより難しい。「プリウス」のハイブリッドシステムと違って、「インサイト」の方式だとエンジンは発電を行わないからだ。
モーターを回す電力は、減速エネルギーを蓄えたものだけだ。だから「インサイト」では、「減速で電気をちょこっと貯める」→「モーター走行でちょこっと使う」という、ちょこまかとした出し入れを繰り返すことになる。ただ、おこづかい帳をマメにつけるような工夫は決して嫌いではないので、なかなか楽しかった。
また、後続車両に迷惑をかけるような低速よりも、ある程度スピードを上げたほうが効率がよいというのも関LPLのおっしゃる通りで、40〜50km/hぐらいまでスピードを上げてからアクセルをオフ、そこからじわじわとアクセルを踏み込むとモーター走行モードに入りやすい。こうしたテクをマスターすると、コーナリングがばしっと決まった時と同じ達成感が得られる。
で、結果はリッターあたり25.2km走って、10チーム中4位。自分はもともとケチなので、この数字はすごく嬉しい。トップチームは リッターあたり27km超だったから、その調子で走ると東京から大阪まで20リッターぐらいの燃料で行けることになる。ウチの近所だとレギュラーはリッター106円ぐらいだから、燃料費2000円ちょっとで大阪まで行けることになる。すごい! 未来感に乏しいと思ったことを反省する。
特筆すべきは、このエコラン競技がかなりの盛り上がりを見せたことだ。参加者はあの手この手を使って、超真剣。F1日本グランプリの日に、ホンダはどこか別の場所でECO1日本グランプリを開くといいのではないでしょうか。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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