ホンダ・ライフシリーズ【試乗速報】
おとなっぽい箱 2008.11.19 試乗記 ホンダ・ライフシリーズおよそ5年ぶりにフルモデルチェンジした、ホンダの軽乗用車「ライフ」。背を高くした新しいパッケージングは、モノを載せるのではなく人が乗るのに主眼を置いたという。果たしてその乗り心地は?
新型ライフは3箱に
新型「ライフ」の試乗会で驚いたことがあった。エンジニアがプレゼンで、クルマを1箱、2箱と数えていたのだ。ホンダは従来、「ライフ」「ゼスト」「バモス」という3箱の軽自動車を持っていたが、それぞれにベーシックモデルとドレスアップモデルがあったから合計6箱、という具合に。
近年の軽自動車は同一のプラットフォームから多くの車種を生み出している。ゆえに「箱」で呼ぶようになったそうだ。それになぞらえれば、今度のライフは2箱から3箱になった。ベーシックな「G」(とC)、スポーティな「ディーバ」に、女性を意識した「パステル」というグレードが加わったからだ。
そのボディは、フロントマスクにこそライフらしさを残していたものの、背は30mmも高くなり、ルーフはリアまでまっすぐ伸び、キャビンは6ライトになって、偶然にも箱っぽくなっていた。
旧型では逆に背をあまり高くせず、あえて4ライトとして、「スズキ・ワゴンR」などとの違いをアピールしていた。それでなくてもホンダの軽自動車は、かつての「トゥデイ」やミドシップの「Z」など、わが道を行くモデルが多かった。
だからこそ新型は見た目のホンダらしさが薄れた感じがした。このカタチでスズキ、ダイハツの二強と戦っていけるのか、心配さえしたほどだ。
使えるパーキングアシスト
でも乗って走り出せば、ライフはライバルにはないアピールポイントをたくさん持っていた。とくに数字で表しにくい実用性能を重視している点が印象的だった。
キャビンに入ってまず感じるのは視界のよさだ。外から見てわかるとおり、ウエストラインが低いし、例の6ライトも実は死角を少なくするためだった。しかもAピラーは旧型より10mm細くされているから、とにかくよく見える。おまけにヘッドランプの端を盛り上げたマーカーのおかげで、ボンネットの隅も確認しやすい。
後方視界も万全で、リアウィンドウは1m後方にいる身長1mの子供が確認できるほど。しかもバックモニターはナビを選ばなくても装備可能で、パステルにはわずか5万円でパーキングアシストもつけられる。旧型では安全性の見地から、後退時のアクセルとステアリングはドライバーまかせだったが、今回は全自動。「これなら自分でも選ぶかも」と思うほどデキがよかった。
しかもそのキャビンは低いサイドシルのおかげで乗り降りしやすく、シートは厚みがあって座り心地がいい。とくにクッション厚100mm(ライバルの3倍!)を誇る後席はフカッとしていて感動するほど。広さでこれを上回る軽自動車はいくつかあるけれど、総合的な快適性ではライフに軍配が上がりそうだ。
かなりの粘り腰
乗り心地もいい。ただサスペンションをソフトにしただけではなく、基本となるボディやシャシーの剛性感や作動感がしっかり確保してあって、大きなショックでもしっとりストロークし、じわっと吸収してしまう。今回乗ったのは自然吸気エンジンを積むGとディーバのターボだったが、足を固めたディーバでもツラくはなく、Gでは荒れた路面でも平和そのものだった。試乗の舞台が湘南だったのでコーナーを攻めたりはできなかったけれど、軽自動車らしからぬストローク感を持つこの足は、かなりの粘り腰を発揮してくれそうだ。
エンジンは自然吸気、ターボともに、2バルブ2プラグの3気筒i-DSIを旧型から受け継ぐ。トランスミッションは軽自動車では少数派になりつつあるトルコン式4段ATだが、自然吸気でも不満のない加速が手に入った。吸気系の改良やフリクション低減による2000〜3600rpmでのトルクアップ、40kgの軽量化などが効いているようだ。
余裕という点では3000rpmあたりでおだやかにトルクを盛り上げるターボのほうがもちろん上だが、個人的には自然吸気でじゅうぶんだと思った。エコインジケーターは速度計の両脇にあるバーがアンバーからグリーンに変わる方式で、運転中でもチェックしやすかった。
そんなライフを運転しながら感じたのは、ホンダにしてはエンジンの主張が薄いクルマだということ。ガッカリする人がいるかもしれないが、これはホメ言葉である。視界、シート、乗り心地など、実用車にとって大切な性能を新型はひたむきに追求していた。見た目はライバルに近づいたかもしれないが、目指す世界はちょっと違う。ホンダの箱は、おとなっぽい箱だった。
(文=森口将之/写真=高橋信宏)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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