MINIクーパーS ペースマン(FF/6MT)【海外試乗記】
MINIファミリーの拡大解釈 2012.11.29 試乗記 MINIクーパーS ペースマン(FF/6MT)MINIファミリー7番目の「ペースマン」は、「クロスオーバー」のビッグシャシーに2ドアボディーを与えたモデルだ。その走りや、いかに? 地中海に浮かぶスペイン・マヨルカ島からの第一報。
「クロスオーバー」の2ドアクーペ的存在
MINIにとって7番目のモデルになるというクルマ、「Paceman」=「ペースマン」が登場した。それにしても、MINIの現行モデルに7種類もバリエーションがあるのだろうか。ということで、5ナンバーサイズのオリジナルシャシーを持つクルマから順に数えてみると、「ハッチバック」「コンバーチブル」「クラブマン」「クーペ」「ロードスター」の5種類、それに3ナンバーサイズのいわばビッグシャシーのモデルをあげると、ヨーロッパ名「カントリーマン」、日本名「クロスオーバー」があるからこれが6番目になる。となるとペースマン、たしかに7番目のMINIである。
このペースマン、その成り立ちを簡潔に表現すれば、クロスオーバー系のビッグシャシーに2ドアクーペ風スタイルのハッチバックボディーを与えたクルマ、ということになる。
メーカーはペースマンを、プレミアムスモールカーおよびプレミアムコンパクトカーのセグメントにおける初のスポーツアクティビティークーペであり、都会のジャングルを切り開くパイオニアである、と表現している。
したがって、ホイールベースは2596mmと事実上クロスオーバーの2595mmと同じだし、前後トレッドもほぼクロスオーバーと変わらず、フロントがマクファーソンストラット、リアがマルチリンクというサスペンションの形式も、クロスオーバーと共通する。
一方、その上に架装されるボディーは「クーパーS ペースマン」の場合で全長×全幅×全高=4115×1786×1522mmと、クロスオーバーと比べると全長が若干長く、全幅は事実上同じで、ルーフラインのルックスからも想像できるように、全高は39mm低くなっている。しかもそのルーフライン、後ろにいくほど低くなるデザインが施されているのが特徴的である。
スポーティーなのに実用的
そのルーフラインに加えて、強いウェッジシェイプを描くウエストラインが後ろにいくほど高さを増すから、キャビンはちょうど「レンジローバー イヴォーク」のように、後方にいくほど天地が狭くなるデザインが施されている。したがってその室内は、同シャシーのクロスオーバーと比べると、リアシートのヘッドルームが明らかにタイトになっている。
ペースマンのパワーユニットはガソリンが2種類、ターボディーゼルが3種類用意されている。当面、日本市場に関係のある前者は1.6リッター4気筒の自然吸気(NA)とターボで、他のMINIに積まれているものと変わらず、122psのNAがクーパーに、184psのターボがクーパーSに搭載される。組み合わせられるトランスミッションは6段MTおよび6段ATで、駆動方式は前輪駆動と「ALL4」と呼ばれる4WDが選択できる。
MINIペースマンの国際試乗会は地中海のスペイン領マヨルカ島で開かれたが、僕らのためにそこに用意されていた試乗車はクーパーSの前輪駆動モデルで、すべてMT仕様だった。早速その1台に乗り込むと、ルーフの低いスポーティーなフォルムでありながら、着座位置が比較的高いのがペースマンの特徴のひとつだという説明が、納得できた。
たしかにドライビングポジションは高からず低からずで、適度なポジションに決まる。僕自身は個人的に低いドライビングポジションが好みで、普段乗っているMINIクラブマンのシートもハイトアジャストを最も低い位置にセットしているが、ペースマンくらい高い方がたしかに前方の見晴らしはいい。
問題のヘッドルームが制限されたリアシートも、身長171cmの筆者の場合、頭が天井に触れることはなく、普通の姿勢で座っていられる。ちなみにペースマンのリアシートはラウンジ形状の左右独立型で、定員は4人になる。
素直なハンドリング
海岸線や山間部のワインディングロードを含むテストルートは、それなりに舗装の荒れた道を走るが、そこでペースマンの特徴のひとつを感じ取ることができた。意外と乗り心地がいいのである。実はペースマン、スタイリングのイメージにハンドリングをマッチさせるべく、クロスオーバーより車高が10mm低いローダウンサスペンションを標準装備しているのだが、それにもかかわらず脚がよく動く印象をうける。
鋭い突起を越える際には17インチのピレリP7タイヤがやや硬質なショックを伝えてくるが、郊外のうねりのある道路をハイペースで走ると、意外なほどスムーズで快適な乗り心地を味わえる。2ドアゆえに4ドアのクロスオーバーよりボディー後半部の剛性が高いことも、スムーズな乗り心地に貢献していると思われる。
その一方、島の西側の山間部を縫うように走るアップダウンの強いワインディングロードでは、ハンドリングの素直さを実感することができた。ローダウンサスペンションという割にコーナーでは比較的はっきりとロールし、タイトベンドを立ち上がる際などには内側前輪が駆動力を失いがちになってトラクションコントロール系のインジケーターが点滅したりする。そのあたりが、車高の低いスモールシャシー系MINIとは歴然と違うところだが、もちろんそれでも危なげなく、スムーズにコーナーの連続をクリアしてみせた。
クーパーS ペースマンの車重は、DIN表示で1305kg、EU表示で1380kgと決して軽くないが、2000rpm前後の低回転からも軽快にトルクを湧き立たせる1.6リッターターボはそこに十分な活力を与えていて、このクルマのパフォーマンスを爽快なものに仕立てている。
さてこの7番目のMINI、正直なところぴったりハマる用途が見えにくいクルマだが、それだけにこれを自分流に使いこなすことができれば、先陣を切ってペースを作る男を意味するというペースマンの名のふさわしい、キレる乗り手になれるのではないだろうか。
(文=吉田 匠/写真=BMW)
