ホンダ・アコード24iL(FF/5AT)/アコードツアラー24TL(FF/5AT)【試乗速報】
チャレンジングでバタ臭い 2008.12.24 試乗記 ホンダ・アコード24iL(FF/5AT)/アコードツアラー24TL(FF/5AT)……411万5000円/362万7750円
1976年の初代誕生から30余年。ホンダの世界戦略車「アコード」は、8代目となってどう変わったか?
時代の要求がアコードを変える
1970年代に30代だったリポーターの世代にとって、アコードというクルマは、まさに「あらまほしき生活」の象徴のようだった。コロナやブルーバードの日本的風景からは決別しているし、外車のように背を伸ばすことは要求しない。当時はやっていた「ニューファミリー」という言葉にぴったりの、ちょっと気取って構えつつも、社会の先端で真面目に挑戦していくような人間に相応しいクルマとして目に映った。
それから何世代か経て、90年代に入った頃まで、このアコードの位置は変わらなかった。世界中で比較的リベラルで前向きな中産階級向けの、スポーティで品のいい社会ツール、そういった感じがした。ニューヨークで見るアコードも、ベルリンで出会うアコードもみな、同じメッセージを発していた。
でも、それから多くの月日が流れ、世界は大きく変化している。
そして今、発表されたばかりの8代目アコードと出会って、やや複雑な気持ちになった。図体はレジェンド並みに大きく、たくましく盛り上げた筋骨を彫刻刀でえぐり、鋭い刃物でエッジを付けたような挑戦的なイメージで固められた、妙にアグレッシブなクルマと対面することになったからだ。
このクルマを手がけたエンジニアの話を聞くと、とても緻密に考えられ、細かい配慮とともに精緻に作られていることを知る。でも実際に走ると、繊細さや上品さよりもスポーティさやダイナミズムを、より直接的に訴えようとしていることが分かる。
いうまでもなく他のクルマと同様に、アコードもまた、時代とともに生きなくてはならない。現代社会の要求が、8代目アコードを作り上げていた。
ヨーロッパを向いて開発された8代目
8代目アコードは、日本でセダンが冬の時代に苦しんでいる中で生まれたクルマである。同時に、アメリカにはより大きな「インスパイア」(現地名では「アコード」)があるために、ヨーロッパ市場をメインターゲットに企画されるという状況で作られたクルマでもある。
日本ではセダンの市場は劇的に縮小している。20年前なら全乗用車の半分はセダンだったのに、去年の統計ではわずか15%前後に減っている。セダンベースのワゴンも5%に過ぎない。さらにアコードが属するクラスに限れば、1998年には20万台あった国内市場は、昨年は4万台にまで激減している。
この流れの中で、アコードも苦戦しており、先代は最近では月間販売は数百台に落ちているという。初代アコードが時代の象徴になっていたような頃とはまったく状況が違っているのだ。
一方で、ホンダにとってアコードはヨーロッパでは大切なモデルである。いわばDセグメントという中型車クラスになるが、この市場は競争激甚だ。プレミアム・クラスになるとメルセデスのCクラス、BMWの3シリーズ、アウディA4らが揃っている。マス・マーケット向けでは「VWパサート」「フォード・モンデオ」「オペル・ベクトラ」などという強力な敵がある。このほかにラテン系もあるし、しかもその下から韓国車が急速に伸びてきている。
この市場でアコードは巧みに自身の市場を開発し、守り、さらにはヨーロッパ・ホンダの中枢モデルとしてイメージを保ち続けなくてはならない。
8代目アコードはこんな状況下で生まれた。だからそれが主として見ているのはヨーロッパ市場であるのは仕方がない。それでも日本でなんとか地位を回復し、できれば月販1000台ベースに乗せることを願って企画された。
国内では子離れした40〜50代の、比較的余裕がある男性をターゲットにしているという。このユーザー層はクルマに対する要求レベルが高く、豊かな移動時間、移動空間を求めるとホンダは分析するが、それは多分、ヨーロッパにおけるアコードの潜在顧客層とかなり似ている部分が多いと思う。だが同時に、日本のユーザーの要求とヨーロッパの要求は微妙に異なる。
実際に新型アコードに乗って知ったのは、予想以上にヨーロッパと日本の要求が違っているということと、このモデルがあくまでもヨーロッパを主体に開発されているということだった。
真価は速度を上げてこそ
路上に出て感じるのは、やはりボディの大きさである。65mm長い4.73mの全長はともかくとして、80mmも広がった1840mmの全幅は、一昔前ならプレミアムサルーンの幅である。しかも日本の道の幅は変わっていないのだ。一ついいことはAピラーが細く見えるように造形されて、前の視界が良くなったことだが、高いスカットルと低いノーズゆえにドライバーからは左先端が確認できない。だから自信を持って左に幅寄せしにくい。
都内をゆっくり走っているときは、サイズだけでなく、機械の反応にも最初はあまり好印象を受けなかった。エンジンは期待したほど気持ちよく回らず、なんとなくザラッとした感じがするし、車内に伝わるノイズも予想外に大きい。最初試乗した18インチのミシュランを履いていたセダンは、リアタイヤが結構どたばたしている様子をフロアに伝えてくる。
だが、首都高速を横浜に向かい、次第に速度を上げるに連れて、このクルマの良い面が明らかになってきた。エンジンは実用トルクが豊かで、瞬時に力の山をピックアップするし、そこからスムーズに加速させる。5ATにはパドルシフトが付くが、個人的にはそれは不要に思えるほど、変速機の応答がいいし、コーナリング中に不要な変速を抑えるGシフトも組み込まれているように、ドライバーの気持ちを巧みに汲み取ってくれる。
速度が上がるとともにステアリングの感覚もよりしっとりとしてくるし、優れたスタビリティの持ち主であることが分かるようになる。ルーフ周辺のスポット溶接を徹底して見直すことで、ボディ剛性そのものが高められたというが、それは明瞭だった。比較的サイズは大きいが、サポートが改善されたドライバーズシートや、フィールの優れたステアリングを通じて、高い剛性は理解できた。
帰路は今回英国式にツアラーと呼称されることになったワゴン版に乗ったが、こちらの方がセダンより良い印象を受けた。一つにはノーマルの17インチホイール/タイヤを履いていたためか、18インチのセダンで感じられたリアからの突き上げがはるかに弱かった。ワゴンボディゆえの重量配分もこれには効いているだろう。
ワゴンボディゆえに不利になりがちな剛性不足やロードノイズの侵入も、特に際だっては感じることはない。しかも従来はセダンよりかなり長かったボディは、今回それほど変わらぬサイズになったから、どうせ大きいクルマなのだと割り切れば、個人的にはツアラーの方を選ぶ。
現代アコードの宿命
良くも悪くもヨーロッパでの戦いをあくまでも念頭に置いて開発されたクルマ。8代目のアコードはそれをより強めている。だから大きなボディサイズや低速での全体的なリファインメントの不足など、日本の路上ではハンディとしてみられる部分も抱えている。
だが、一度速度を上げるなら、ヨーロッパ人でも納得するはずのロードマナーや、日本人が期待するホンダ特有のダイナミズム、スポーティさは十分に発揮され、他の日本製ミドルサイズカーとは根本的に違った姿を発見できる。
個人的には造形的に過剰で、かなりビジーに感じられたインテリアデザインは、ヨーロッパのライバルに比べるなら、ひと味違った別のテイストを持っていると理解されるだろうし、挑戦的なエクステリアのテーマとマッチしていることは認める。それにヨーロッパのユーザーは、ボディパネルのきれいなフィッティング、ドア断面までプラスティックでカバーされた入念で綿密な仕上げなど、日本車ならではのきめ細かさを評価するだろう。
そういった日本よりも海外に目を向けたクルマ、それが現代のアコードの宿命だし、それが結果としてもたらしたチャレンジングでちょっとバタ臭いイメージこそ、小さくなった国内市場を活性化するための、新型アコードの武器なのだろう。
(文=大川悠/写真=荒川正幸)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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