スズキ・スプラッシュ(FF/CVT)【試乗速報】
自動車業界の「海外組」 2008.11.11 試乗記 スズキ・スプラッシュ(FF/CVT)……123万9000円
テーマパークの乗り物みたいなネーミングから「カワイイ」を狙ったクルマかと思いきや、どっこい「スプラッシュ」は骨太な実用車だった。
まさにヨーロッパ車
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W杯のアジア最終予選が佳境に入るサッカー日本代表で必ず話題になるのがヨーロッパでプレーする選手、いわゆる「海外組」だ。
自動車の世界でも、「海外組」がひとり、じゃなくて1台、日本に入ってきた。スズキの新型コンパクトカー「スプラッシュ」だ。
試乗会会場付近の路面の荒れた道を走ると、「カツンカツン」というショックがかなりダイレクトに伝わってきて、「むむむっ」と思う。いっぽう、スピードを上げても足まわりはビシッ! としていてコーナリングも安定している。「おおおっ」と思う。
クルマから降りてタイヤをチェック。コンチネンタル社の「コンチ・プレミアムコンタクト2」などという国産コンパクトカーではほとんど見かけない銘柄を履いていて、「ほほー」と思う。
生まれも育ちもヨーロッパだと話には聞いていたけれど、スプラッシュを走らせてみると、たしかにヨーロッパの小型車っぽいと感じる部分が多々ある。このクルマ、内装の色遣いはポップで可愛らしいけれど、そのゴリッとした手応えは明らかに国産コンパクトとはテイストが異なる。
スズキ・スプラッシュは、基本的なプラットフォームこそ同社の「スイフト」と共用するけれど、商品企画もテストも製造もハンガリーの「マジャールスズキ」で行われている。ちなみに「マジャールスズキ」はハンガリー市場において約20%のシェアを占める大手だ。
そしてこのクルマは、オペル・ブランドからも「オペル・アギーラ」という名称で販売される。したがって開発にあたってはオペルの基準を満たすために、オペル側よりさまざまな口出し、じゃなくて内政干渉、でもなくて提案があったということだ。
サッカー日本代表も「海外組」と「国内組」の融和が注目されるけれど、この「スプラッシュ」というクルマも、はたして日本市場になじめるのでしょうか?
走らせればヨーロピアン
ヨーロッパ製小型車の美点はいくつかあるけれど、まず「しょぼいエンジンなのによく走る」というのがあげられると思う。で、「スプラッシュ」もその例にもれない。エンジンは1.2リッターの直列4気筒のみで、最高出力88psだからスペック的には大したことはない。それでも低回転域からしっかりしたトルクがあり、実用で不足を感じない。
タコメーターが備わらないので具体的な回転数はわからないけれど、高回転域まで回すと「ガーガー」うるさくなることも比較的廉価なヨーロッパ車にありがちな特徴だ。ま、うるさいにはうるさいけれど耳障りな音質ではないし、いかにも頑丈そうな手応えでブン回しても壊れそうにもない。だから、ちょっとぐらいのノイズは「元気がいい」と好意的に解釈したい。
サスペンションのセッティングからタイヤまですべてヨーロッパと同じ仕様の「スプラッシュ」にあって、唯一日本仕様だけの装備となるのがCVT。ヨーロッパでは5MTだという。このCVTは可もなく不可もなく、といった印象。特に印象に残らないのは、黒子的な役割を上手にこなしているということかもしれない。少なくとも、イタリアやフランスの小型車が日本仕様に採用している2ペダルMTに比べれば月とスッポン、はるかに優れている。
乗り心地と操縦安定性については冒頭に記したとおり。「少し硬すぎるかな〜」と思う自分と、「しっかりしていいいじゃんか」と思う自分が激論を戦わせた。結果として、「これくらい硬いほうがいい」という結論に達した。フワフワの足まわりを求めるのであれば、そういうクルマはほかにいくらでもあるからだ。
ヨーロッパ製小型車のもうひとつの美点は、居住空間が広々としているパッケージングだとされてきた。「スプラッシュ」のサイズは、「トヨタ・ヴィッツ」よりも全体にほんの少し小さいもの。後席には大人2人が座ることができるし、荷室の広さもまずまず。レバー操作ひとつで後席を倒せるあたりの気配り設計も気が利いている。けれど、それが武器になるほどスペースが広いわけでもない。パッケージングに特筆すべき点はないように感じた。
このサイズのクルマのパッケージングに関しては、「トヨタ・ヴィッツ」や「ホンダ・フィット」、少しセグメントは違うけれど「トヨタiQ」など、日本のメーカーのほうがヨーロッパ車より進んでいるかもしれない。このあたり、サッカーの「海外組」が「テクニックは日本人のほうが上」などと言うのにもちょっと似ている。
マニアにウケそうな予感
「スプラッシュ」というクルマ、まったくのニューモデルなのに、どこかで乗ったような気がしてならなかった。記憶の糸を辿っていくと、足まわりやエンジンの印象など、いろんな部分がちょっと前にドイツで乗ったレンタカーの「フォード・フィエスタ」に似ているのだった。
それだけヨーロッパっぽいとは思うけれど、だからといって日本で受けるかどうかは別問題。われわれ日本のクルマ好きの多くがヨーロッパ車が好きだというのは間違いない。でも、忘れてはならないのが「フツーのヨーロッパ車」ではなく、「ちょっと高級なヨーロッパ車」を好むという事実だ。
スズキの営業の方によると、社内でもスプラッシュを日本に導入するかどうかでもめたのだという。けれど、スイフトは売れているけれど男性客が7割と体育会系のイメージがついたので、女性客を狙って「スプラッシュ」の導入に踏み切ったそうだ。
でも、どうでしょう? 「スプラッシュ」は「スイフト」と同等かそれ以上に体育会系のクルマで、空いた郊外の道をがんがん飛ばすと持ち味を発揮する。「海外組」と「国内組」の棲み分けについて考えると、キャラがカブっているような。
無責任な外野の意見としては、しっかり走ってしかも安い、なんだか不思議なクルマが導入されるのは大歓迎なわけです。123万9000円という値段はヨソではあり得ない大変なお値打ち価格、ってなぜか日本直販のテレビショッピングみたいな原稿になってしまった……。
ま、サッカーでもイタリアとかスペインとかイングランドといったメジャーどころではなくて、スペイン2部リーグやオランダ・リーグに注目するマニアもいるわけじゃないですか。ハンガリーからやって来た「スプラッシュ」も、その可愛いネーミングや陽気なインテリアとは別のところで、かなりのマニア案件になりそうな予感。
(文=サトータケシ/写真=荒川正幸)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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