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第78回:宮古島からの報告〜サトウキビと“エコ”

2008.10.12 エディターから一言 鈴木 真人
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第78回:宮古島からの報告〜サトウキビと“エコ”

第78回:宮古島からの報告〜サトウキビと“エコ”

2007年3月に、宮古島市は“エコアイランド”を宣言しました。サトウキビから作ったエタノールをガソリンに混ぜ、少しでも二酸化炭素の排出量を減らそうという試みを始めています。この小さな南の島で行われている実験は、環境保護にどのような答えを見出そうとしているのでしょうか。

宮古島市役所の玄関に大きく「エコアイランド宣言」が掲げられている。
宮古島市役所の玄関に大きく「エコアイランド宣言」が掲げられている。
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沖縄電力の太陽電池と風力発電の実験施設。宮古島では2003年に台風で風力発電機が倒壊するという惨事に見舞われたが、現在では再建されて電力供給を行っている。
沖縄電力の太陽電池と風力発電の実験施設。宮古島では2003年に台風で風力発電機が倒壊するという惨事に見舞われたが、現在では再建されて電力供給を行っている。
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沖縄本島からさらに45分のフライト

宮古島にやってきたのは、自動車文化検定(CAR検)の取材のためでした。東京、大阪、名古屋など、全国7都市の開場で試験が開催されたのですが、宮古工業高校の生徒が受験したいということで、特別に学校を開場にして試験が行われたのです。

その様子を取材しにきたのですが、宮古島といえば最近話題のバイオエタノールで有名な島だということを思い出しました。せっかく1800kmも飛行機で飛んでくるのですから、ついでに(と行っては失礼ですが)そのあたりの事情も見ておこうと思ったのでした。

東京から沖縄本島まで約2時間のフライトのあと、さらに45分ほどかけて宮古島空港に到着します。地図で見ると、あとほんの少しで台湾という場所なのです。

恥ずかしい話ですが、宮古島についての僕の知識は相当に間違ったものでした。日本の果ての小さな孤島、というイメージを勝手に作っていたのですが、実際には島のまわりをぐるりと1周すると約100kmほどにもなる大きさでした。もちろん鉄道は敷かれていないので、取材の移動はクルマに頼るしかありません。まずは、空港の近くでレンタカーを借りることにしました。

マツダレンタカーで「ベリーサ」を受け取りました。このクルマに入れられているのは、残念なことに普通のガソリンです。バイオエタノールは、実証実験として一部の公用車に使われているだけなのです。

島内のすべてのGSでE3を取り扱っているわけではなく、指定の数か所のみで販売されている。
島内のすべてのGSでE3を取り扱っているわけではなく、指定の数か所のみで販売されている。
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E3事業を展開しているりゅうせきの宮古支店。
E3事業を展開しているりゅうせきの宮古支店。 拡大

「我たが美ぎ島・みゃ〜く」

宮古島で使われているバイオエタノールは、「E3」と呼ばれるものです。日本にはなぜかもうひとつバイオエタノールの規格があって、こちらは「ETBE」という方式です。E3は環境省が、ETBEは経済産業省と石油連盟が推していて、対立はおさまっていません。お互いに言い分があるようなのですが、素人にはよくわからない議論です。もしバイオエタノールを導入することが急務なのだとしたら、このような対立を続けることがもっとも避けるべきことのような気もします。

実際にE3を使って公用車を走らせている宮古島市役所に話を聞きにいきました。市役所の正面玄関には、シーサーがにらみをきかす後ろに「宮古島エコアイランド宣言」と書かれた看板が大きく掲げられていました。この宣言は2008年3月に制定されたもので、資源とエネルギーを大切にし、ゴミを減らして「我(ばん)たが美(か)ぎ島(すま)・みゃ〜く」を作ると謳っています。

この事業を担当している部署は、「企画制作部 地域戦略局 エコタウン推進室」というところです。なぜか案内板には記載がなく、受付で場所を聞いて行ってみても見つかりません。エコ事業が広く浸透するには、まだ時間がかかるようです。

なんとかエコタウン推進室にたどり着くと、「かりゆしウェア」に身を包んだ室長以下3人の方にお話を聞くことができました。さすがに本場、かりゆしウェアが板についています。クールビズなんていう付け焼き刃の言葉を使わなくても、普通に夏の正装という感じです。

E3の実証実験を行っている宮古島市の公用車。取材中に見かけたのはこの一度だけ。
E3の実証実験を行っている宮古島市の公用車。取材中に見かけたのはこの一度だけ。 拡大

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397台のE3燃料車が走る

宮古島市で行っているE3事業への取り組みについて教えていただきました。まず強調されたのは、この事業は環境省と「りゅうせき」(那覇市に本社を持つ石油会社)が行っているもので、宮古島市はその実証実験に協力する立場であるということ。具体的には、公用車209台にE3燃料を入れて走行させているということでした。このほかに、沖縄県宮古支庁の57台、またりゅうせきやJAのクルマも入れて、全部で347台のクルマが実験に参加しているということでした。

平成17年から始まって3年が経過していますが、今のところ燃料が原因の故障や事故などは報告されていないそうです。パワーダウンに関するクレームもないということでした。このまま平成21年まで実験を継続するということで、結構気の長い話です。

エコタウン推進室の方が力説したのは、宮古島が小さな島であることから、生態系の維持に細心の注意が必要だということでした。汚染やゴミの増加は、逃げ場がないだけにストレートに環境悪化につながってしまいます。特に昔から大きな課題となっていたのが、水です。たしかに、水の確保は土地の規模が小さくなればなるほど困難になるはずです。そのことをわかりやすく展示した施設があるというので、行ってみることにしました。


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ボタンを押すと、模型の一部がせり上がって地下ダムの構造を見ることができる。ほかにも多くあった電気仕掛けの展示を独り占めして見学してきた。
ボタンを押すと、模型の一部がせり上がって地下ダムの構造を見ることができる。ほかにも多くあった電気仕掛けの展示を独り占めして見学してきた。 拡大
荒れ果てて草ぼうぼうの地下ダム公園。施設の成り立ちを解説したパネルなども展示されているだけに、残念な光景。
荒れ果てて草ぼうぼうの地下ダム公園。施設の成り立ちを解説したパネルなども展示されているだけに、残念な光景。
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“贅沢”な地下ダム資料館

その施設、「地下ダム資料館」は市役所とは反対側の島の東部にありました。カーナビのソフトが古くて機能せず、だいたいの見当をつけて向かってみました。近くに行って案内のカンバンに従えば着くだろうと思っていたのですが、案内標識がまったく見当たりません。1時間以上迷ってようやく見つけたと思ったら、これは「地下ダム公園」。草ぼうぼうで、人っ子一人いません。どうやら、地下ダムが完成した時に記念に公園も造ったものの、その後放置されて荒れ果ててしまったようです。

たまたま通りがかった市の職員の方に道を聞き、資料館にたどり着きました。こちらも、人っ子一人いないという点では同じでした。館員の方にマンツーマンで説明していただくという贅沢なもてなし(?)を受けます。

宮古島の地下の模型が電動で上下し、内部の構造がよくわかるように工夫されています。先島諸島はどこも慢性的な水不足になる傾向がありますが、宮古島が特に厳しい条件にあることが、地層断面模型を見ると一目瞭然でした。表面に水を通しやすい琉球石灰岩があり、雨が降ってもすぐに地中にしみ込んでしまうのです。それを地中に溜め込むために、水を通さない硬い岩盤が地中で谷状になっているところにダムを造り、地下水位を上げて利用しようというものでした。

ダムの工法を説明する展示もあり、宮古島の地層から採られた岩のサンプルまで置いてあって、充実した構成となっていました。それだけに、観光客を呼び込む努力があまりなされていない様子が残念に思えました。

島の37%がサトウキビ畑

宮古島の道を走っていて窓から眺める風景には、常にサトウキビ畑があります。水が少ないこと、台風が襲来することなどの条件から、栽培に適する作物はさほど多くはありません。最近ではマンゴーなどの果物をハウス栽培する試みも始まっていますが、島中を走ってもほとんど見かけませんでした。宮古島では、サトウキビ生産は大きな産業です。なにしろ、225平方kmの島の面積のうち、約37%をサトウキビ畑が占めているのです。売り上げの規模は80億円から100億円で、これは観光事業の約180億円に次ぐ規模ということになります。

強靭なサトウキビにしても、渇水にはやられてしまいます。畑のあちらこちらでスプリンクラーが水を撒いている様子を見ることができましたが、これこそが地下ダムから汲み上げた水の利用なのでした。この水は飲用にも供されていて、近年問題になっているのは水質の悪化だそうです。長年化学肥料を使用していると地下水が汚染され、飲用には適さなくなってしまいます。小さな島だけに、ちょっとしたことが大きな変動を招いてしまうのです。「宮古島エコアイランド宣言」は時流に乗ったパフォーマンスではなく、ひとつの生態系としてある程度完結している島という環境では、エコロジーに対する関心が深くなるのは自然なことなのでしょう。

バイオエタノールの実験も、そんなわけで重要な意味を持っています。もし、サトウキビから作られるエタノールだけで自動車を走らせることができるなら、島内でエネルギーの流れを完結させることができることになります。

島のクルマさえ賄えない

バイオエタノールというと、最近話題となっている食料危機の問題が気にかかります。ただ、トウモロコシと違い、このサトウキビから作られるエタノールにはそのような問題は存在しません。原料となるのはサトウキビそのものではなく、砂糖を製造した後に残る「糖蜜」と呼ばれる物質で、これまでは飼料などとして利用されていました。廃棄物とはいえ糖分を40%以上含んでいるので、エタノール生産の原料となるわけです。

でも、残念ながら島内でエネルギーをすべて賄うなどという夢のような話は、とても実現しそうにありません。宮古島でも年々自動車の数は増えていて、5万5000人ほどの人口に対して2万台を超える自動車が島を走っています。全島のクルマの燃料をすべてE3化するのには、年間約3000トンの糖蜜が必要です。しかし、1年の間に供給が可能な原料糖蜜の量は約7000トンにすぎません。E100、つまり純粋エタノールですべての自動車を走らせるには、まったく足りない量なのです。

バイオエタノールはエネルギー問題や環境問題の緩和にいくらかの貢献をできるのかもしれませんが、それだけですべてが解決するわけではないでしょう。宮古島は小さな島なので、実感として受け止めやすいというところがありました。でも、規模はずいぶん違うとはいえ、日本全体だって所詮は島なのです。環境保全を真剣に考えなければ、早晩大きな問題が生じることは避けられません。


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サトウキビ畑でスプリンクラーによって豊富に撒かれている水は、地下ダムから供給されている。
サトウキビ畑でスプリンクラーによって豊富に撒かれている水は、地下ダムから供給されている。
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エタノールの原料となる糖蜜は、沖縄製糖の宮古工場が供給している。
エタノールの原料となる糖蜜は、沖縄製糖の宮古工場が供給している。 拡大

二酸化炭素81.84kg分の“エコ取材”

燃費に気を遣ってクルマを運転したり、なるべくゴミを出さないように気をつけることはもちろん大切なことです。ただ、そうするだけで自分がエコな生活をしているなどと誇る気には到底なれません。武田邦彦や養老孟司の論を信じるなら、環境保全に資すると思って励んでいる行動がむしろ環境悪化をもたらしている可能性すらあります。

おそらく、簡単な解決法などないのでしょう。石油の大量消費を前提とした豊かな暮らしをしていながら、小手先でエコを気取るなど、不可能なのは想像がつきます。ではどうすればいいか、と考えても、急によい知恵が湧いてくるわけもありません。なにしろ、この“エコ記事”を書くのにも、明確に環境破壊が伴っているのです。宮古島取材のためにクルマで390km走り、ガソリンを35.43リッター消費しました。二酸化炭素を81.84kg、つまり2リッターのペットボトルで2万829本分も排出したことになります。

宮古島の道を走っていて、こぎれいなコンパクトカーを見ると、ほとんどのナンバーに「わ」の文字がありました。観光客向けのレンタカーが窓を閉めてエアコンをきかせて走り、行楽地への迅速で快適な移動を提供しています。一方で、窓から新鮮な空気を取り入れながら、ゆったりと道を行く軽トラックも多く見かけました。乗っているのは、島の人なのでしょう。過剰な快適さやスピードを求めなければ、環境への負荷は最少限に留められるはずです。

実は、島で出会った地元の方々にE3燃料の実証実験について聞いてみたところ、その詳細を把握している人は誰もいませんでした。だからといって、島の人々がエコ意識に欠けている、と判断するのは正しくないでしょう。ことさらにエコバッグを“買い足す”ような行為がエコなのではなく、普通の暮らしの中に無駄を抑えるヒントはあるはずです。宮古島まで“エコ取材”に来て得たものが、そのような自明な理路であったことに恥じ入りつつ、サトウキビ畑の島を後にしたのでした。

(文=別冊単行本編集室 鈴木真人)

宮古島本島と来間島を結ぶ橋。もうひとつの離島である池間島とも橋でつながっており、クルマでの移動を可能にしている。
宮古島本島と来間島を結ぶ橋。もうひとつの離島である池間島とも橋でつながっており、クルマでの移動を可能にしている。
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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