アウディTTSクーペ(4WD/6AT)/TTクーペ2.0TFSIクワトロ(4WD/6AT)【試乗速報】
洗練のコンパクトスポーツ 2008.09.10 試乗記 アウディTTSクーペ(4WD/6AT)/TTクーペ2.0TFSIクワトロ(4WD/6AT)……695.0万円/544.0万円
アウディのコンパクトクーペ「TT」に、最強の直4エンジンを搭載したハイパフォーマンスグレード「TTS」が加わった。ハイパワーと環境性能を両立させたというそのエンジンと、スポーティな味付けの足まわりをさっそくチェックした。
TT初のSモデル
アウディの「Sモデル」とは、メルセデスの「AMG」やBMWの「M」にあたるハイパフォーマンスカーのことで、「S4」「S5」「S6」「S8」という具合に、各モデルの最上級グレードとしての役割も果たす重要な存在だ。そんなとびきりスポーティなモデルが、2代目にしてついにTTにも登場。名前こそ「TTS」だが、れっきとしたSモデルである。
ドイツ本国ではクーペとロードスターが用意されるTTSだが、日本に導入されるのはクーペのみ。その特徴として真っ先に挙げておきたいのが、段違いにハイパワーな2リッター直4ターボエンジンだ。2.0TFSI、すなわち、2リッターの直噴ターボエンジンは、大径タービンの採用に加え、各部の見直しなどにより、ベーシックグレードの2.0TFSIに対して72ps(53kW)と7.1kgm(70Nm)アップの、272ps(200kW)と35.7kgm(350Nm)のパフォーマンスを手に入れているのだ。
このパワーを地面に伝えるのは、ハルデックス・カップリングを用いたフルタイム4WDのクワトロシステム。トランスミッションはデュアルクラッチの2ペダルシステムである6段Sトロニックで、メーカーによれば、0-100km/hの加速タイムはわずか5.2秒。ライバルのケイマンS(MT)を凌ぐ駿足ぶりである。
主張しすぎないのがSモデルの流儀
TTクーペやTTロードスターにオプション設定される電子制御ダンパーの「アウディ マグネティックライド」は、このTTSクーペには標準装着。TTS専用のチューンが施され、車高がTTクーペ/ロードスターに比べて10mm低められるのも要チェックだ。
エクステリアやインテリアもTTS専用のデザインが採用される。縦のバーを強調したシングルフレームグリルやアルミ調のドアミラーカバー、LEDポジショニングランプを内蔵したヘッドライト、4本出しのテールパイプなどがその一部だが、比較的上品にまとまっているのはSモデルの流儀といえる。
キャビンを覗くと、標準の本革&アルカンターラのコンビシートに代えて、オプションの本革シートが装着されていた。初代TTロードスターで印象的だった、野球のグラブをイメージしたデザインがなんともなつかしい。さっそく、大きく張り出したサイドサポートのあいだに我が身を滑り込ませ、イグニッションをオンにすれば、ドライバーに向けられた速度計と回転計の針がゼロ点とフルスケールを一往復。試乗の準備が整った。
格が違うエンジン
エンジンに火を入れると、低音が効いたエグゾーストノートがキャビンに流れ込んでくる。従来の2.0TFSIとの違いを意識する瞬間だ。期待を胸にスタートを切るが、2000rpm台前半くらいまではむしろいままでの2.0TFSIのほうが活発に思える。大径タービンターボの影響だろう。しかし、右足に力をこめてやると、3000rpmを超えたあたりから背中を押されるような加速に襲われ、TT2.0TSFIとの格の違いを思い知らされた。リニアで力強い加速はレブリミットの6800rpmまで続き、電光石火の早業で上のギアにバトンタッチ。一連の動作に荒っぽさはない。
FFのTTでは、(急)発進時にトラクション不足に見舞われることがあったが、クワトロを味方につけたTTSにはまるで無縁。特殊な状況で試すチャンスはなかったが、ふだんの運転でも、272ps、35.7kgmのポテンシャルを持て余すことはない。
コーナーでのマナーは軽快そのもの。アウディ マグネティックライドをスポーツモードに設定すれば、姿勢変化は少なく、安心してペースが上げられる。一方、ノーマルモードを選べば、スポーツモデルを忘れさせる快適さに驚くばかり。スペックだけを見ると“じゃじゃ馬”かと思えたTTSクーペは、予想とは裏腹に実に洗練されたコンパクトスポーツに仕上がっていたのだ。
気になる新グレードにも試乗
TTSクーペとともに、2008年のジュネーブショーでデビューしたTTクーペ2.0TFSIクワトロが日本に上陸。この新グレードにも試乗することができた。名前からもわかるとおり、このTTクーペ2.0TFSIクワトロは、エントリーモデルであるTTクーペ2.0TFSIの4WD版で、FFのTTクーペ2.0TFSIと、フルタイム4WDのTTクーペ3.2クワトロとの間を埋める待望のモデルだ。
当然、TTSクーペほどの鋭い加速は味わえないものの、TTSクーペ同様、トラクションの高さはFFの比ではない。4WD化に伴う重量増が軽快感をスポイルこともない。2000rpm以下の低回転からレスポンスよく豊かなトルクを発揮するのは相変わらずで、これで一部装備が簡素化されたFFのTTクーペ2.0TFSIとの価格差が60万円ということを考えると、今後、販売の主役になるのは容易に予想できる。
TTSクーペという頂点と、TTクーペ2.0TFSIクワトロという実力派を一気に投入したことで、コンパクトスポーツ市場における存在感をますます高めそうなアウディTT。ライバルの多くが6気筒エンジンを搭載するのに対し、あえて4気筒でハイパフォーマンスと低燃費を両立するあたりも、TTの人気を後押しするに違いない。
(文=生方聡/写真=郡大二郎)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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