トヨタiQプロトタイプ(FF/CVT)【試乗速報】
新しいエコカー 2008.08.25 試乗記 トヨタiQプロトタイプ(FF/CVT)トヨタの新世代スモールカー「iQ」がいよいよ発売となる。3メートルほどのボディに大人3人+子供1人を乗せる。発売前にプロトタイプでその走り、ハンドリングを試した。
大人3+子供1を可能にした秘密は
今年2008年3月のジュネーブショーは、忘れられないモーターショーになった。「トヨタiQ」のプロトタイプを見ようと集まった報道陣の数が、尋常じゃなかったからだ。あれに比べれば東京モーターショーでの“GT-R祭り”など、カワイイもんである。たった1台にあそこまで人が集まるなんて。トヨタの影響力の大きさ、CO2排出量99g/kmというプリウス以上のエコ性能への関心の高さを思い知らされた。
そのiQが、この秋発売される。それを前に、プロトタイプにテストコースで乗りませんかという案内が舞い込んだ。このテの試乗会は何度も経験しているけれど、今回ほど進んで乗りに行きたいと思ったクルマはなかったかもしれない。
“全長2985mmに大人3人+子供1人のキャビン”をモノにできた秘密は、パワーユニットの配置を前後逆転させ、エンジンの後ろにあったフロントタイヤを前に出し、ペダルを前進できたことが大きい。さらにエアコンユニットを小型化しセンターに押し込んで助手席の前を広げ、燃料タンクを床下にもぐり込ませて後席の位置までリアタイヤを前進させ、ステアリングギアボックスは上に移動してエンジンとの干渉を避けたという技もある。ブレークスルーの集合体だ。
そのぶん荷室は定員乗車ではアタッシェケースを差し込むぐらいしかないが、後席はたしかに助手席側なら身長170cmの自分が座れる。直後にリアウィンドウがせまるのが気になるけれど、衝突安全性は世界初となるリアウィンドウカーテンエアバッグ(!)で対処しているという。
続いて運転席へ。右ハンドルでもペダルのオフセットはない。高くて奥行きがあるインパネは、マンタ(世界最大のエイ)をモチーフにしたチタンカラーのアクセントがセンターパネルやメーターカバー、ドアトリムに使われる。シートカラーはプラム。でも色調が抑えてあるので、飛びぬけて個性的というわけではない。外部のプロダクトデザイナーなどとのコラボモデルも期待したいところだ。
マイクロプレミアム
iQの主戦場はヨーロッパ。パワーユニットは、「99gカー」の1リッター3気筒ガソリン+5段MTのほか、これのCVT版、1.4リッターディーゼルターボ+6段MTの3タイプが用意されるというが、日本はガソリン+CVTのみ。10・15モード燃費は基本が同じ「ヴィッツ」の1リッターモデルより少し上に落ち着きそう。欧州と日本で燃費測定モードが異なることもあり、母国でのプリウス越えはむずかしそうだ。
スターターボタンを押してエンジンを始動させ、セレクターをDレンジに入れてアクセルを踏み、速度を上げていくところまではヴィッツとほぼ同じ印象。軽いボディのためもあって加速は活発で、むしろ発進の瞬間は「もう少し落ち着いてもいいのに」とさえ思ってしまうほどだった。
気になったのは3気筒サウンド。「マイクロプレミアム」というコンセプトにそぐわないんじゃない? と最初は思った。でも速度を上げてその音が気にならなくなると、考えが変わった。3気筒より4気筒が上という思考は古いんじゃないか。高級より効率を突き詰めるのもプレミアムじゃないかと思うようになったのだ。ボディが短いからエンジンも短いほうが似合うんだと。
問題はこの短さがハンドリングにどう影響するかだ。なにしろホイールベースは2000mmしかない。でもさすがトヨタ、かなりの安定志向に仕立ててあった。チーフエンジニアが「ずっと長いクルマに感じるはず」と言っていたように、ターンインはおだやかで、アンダーステアは強め。キビキビ感でいえば「フィアット500」のほうが上だ。
もっとも前後重量配分は他の横置きFWDよりマシなはずだし、ボディの剛性感は文句なし。サスペンションはロールを抑えたセッティングだから、身のこなしそのものは素直。小さく軽いクルマならではの人車一体感はある。タイヤをエコタイプでないものに換えればリニア感が強まって、気持ちいいハンドリングが楽しめそうだ。
無限の可能性に期待
といろいろ書いてきたけれど、あらためて考えれば、こういうクルマがトヨタから出ること自体、大事件だと思う。なにしろ全長3m以下。軽自動車より短いのだ。気持ちいいほどヒエラルキーを無視している。軽いのにマイナスではないという価値観も、従来のトヨタ車の逆を行っている。
しかもiQがハイブリッドカーや電気自動車などと違うのは、ガソリンエンジンというおなじみのパワーソースで走ることだ。おまけに小さくて軽い。つまり楽しいエコカーにもなり得るのである。
今回乗ったのはプロトタイプだったので、素材感が強かったけれど、その素材は無限の可能性を持っている。売り方しだいでどうにでも化けると思う。環境意識が高く、合理主義が根づいた欧州ならこのままでもヒット確実だろうが、日本ではどうだろうか。革新的なパッケージに負けない、革命的なセールスが必要とされるかもしれない。
(文=森口将之/写真=トヨタ自動車)

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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