トヨタiQ 130G“プラス”(FF/CVT)【試乗記】
小さな大本命 2009.09.17 試乗記 トヨタiQ 130G“プラス”(FF/CVT)……172万8700円
発売から1年を経た小型車「iQ」に、より大きなエンジンを積んだ新グレードが誕生した。3割の排気量アップがその走りにもたらした変化とは……?
されど、300cc
「トヨタiQ」に、1.3リッターエンジンを積んだ新グレード「130G」が追加された。この130Gこそ、トヨタが意図していたであろう“本命のiQ”だ。
全長3m未満の小さなクルマを考えるとき、それは必ずしも小排気量で安普請のクルマでなくともよい。絶対に安価である必要もない。欲しい性能や特性をちゃんと確保したうえでの話なら、それなりの価格は承認されるべきものであり、安モノだけを無理強いされるいわれはないのだ。クルマの経済性は比較論であり、絶対的な燃費の数値だけが、車体を小型化する理由にはならない。
個人的にこのクルマを買いたいとは思わないのだが、クルマとして支持したい気持ちにはなる。乗れば、納得。前置きはこれくらいにして、実際に走りだしてみよう。
まずこれまでの1リッター3気筒エンジンに比べ、1.3リッターの4気筒エンジンは、当然ながらアイドル振動も少なく滑らかに回る。全幅1680mmは普通の小型車サイズだから、少なくとも室内幅や前の景色はミニカーのそれではなく、5ナンバーサイズの小型車感覚である。それに、ブルブルと振動が伝わることもない。静かになっただけでも、軽自動車やドイツの「スマート」などとは明らかに違う。内装も趣味性にさえ言及しなければ、鉄板が剥き出しのクルマにくらべて豪華に見える。グリーンハウスを小さめにしたデザインもまた、下方の視認性を問わなければ、包み込まれて守られているような感覚を覚える。小さいゆえの不安感は少ない。
意外にドッシリ!
いざ動き出せば、滑らかで力強い加速が得られる。広いトレッドのおかげで安定感もある。ショートホイールベースゆえの、ややピッチング気味のヒョコヒョコした軽挙は、これはもう物理的な限界からくるもので、チューニングでカバーできる範囲を超えている。だがしかし、それはそれでメリットもある。軽快な旋回性や回転半径の小ささだ。実際にUターンなどを試みては、クルッと小さく回り込めることに感心する。最小回転半径=3.9mというのは、iQの性能を象徴的に示すものなのだ。
エンジンの排気量がボディサイズのわりに大きいので、加速や高速性能で有利な点があるものの、ある意味ジャジャ馬的な暴挙を想像されるかもしれない。しかしそれは杞憂にすぎない。速過ぎるという実感はないし、トルクステアなどの弊害もない。それほどのパワーでは、ない。
パワーに関しては――大型で大排気量の高性能車にも同じことが言えるけれども――誤解を恐れずに言うなら、パワーは、いくらあってもいい。
なぜなら、トラクション性能は安定性に直結するからだ。パワーの使い方はドライバー次第であり、ホイールスピンさせないためのデバイスも、いまではいくつか用意される。
15インチタイヤもまた、さほど高性能タイヤといえるグレードではないものの、効果を発揮する。見た目のカッコよさだけでなく、ボディサイズのわりに高めな重心に対して、ロールセンターを高く採る意味でも正解だ。もちろん950kg(前輪荷重は590kg)の車重は、この15インチタイヤに十分な接地荷重を与え、94psと12.0kgmのパワーとトルクを有効に路面に伝える。だからナリは小さくとも、意外にドッシリとした走行感覚で、十分に速く走らせることができる。
1年磨いた成果もみえる
また、エンジンなど駆動系以外の部分についても、2008年10月に1リッターモデルが発売されてからの量産効果や微妙な改良などによるものか、当初のような試作車然とした粗さや雑な感覚がとれている。すべての動きはスムーズで、フィーリングはより自然。完成度を高めている。
小さなクルマというものは、とかく安価な経済車と決めつけられがちで、安ければ安いほどいい、多少のところは我慢せよ、とされる風潮がある。が、ボディサイズだけ小さくて、それ以外の点については普通の感覚で乗れるクルマ、という選択肢も当然ありうる。
ただ、それには、内外装を豪華に装うだけでは十分な魅力が得られない。今回iQが、1.3リッターという排気量の4気筒エンジンを搭載した意味は大きい。事実、このクルマの価値は高まったと思える。
何かしら気になる点を挙げるなら? 外観にひとつ。無理矢理小さく押し潰されたように感じるのは、テールランプの処理がどこか窮屈で歪んでいるように感じられるからか。たとえば、ランプを赤白3分割する斜めのラインを水平にしただけでも、スッキリするのではないだろうか……? ここらには、じっくり煮詰めないまま送り出した初期の促成栽培ぶりが伺われる。
(文=笹目二朗/写真=峰昌宏)
