ホンダ・フリードスパイク ハイブリッド ジャストセレクション(FF/CVT)【ブリーフテスト】
ホンダ・フリードスパイク ハイブリッド ジャストセレクション(FF/CVT) 2012.01.11 試乗記 ……292万800円総合評価……★★★
乗用車販売ランキングベスト10の常連「ホンダ・フリード」シリーズ。ハイブリッド仕様の登場で、さらに実用車の理想像に近づいた? 「フリードスパイク」の方でその実力を試した。
黒子に徹するハイブリッドシステム
ハイブリッド車が珍しい時代ではなくなった。いろいろな種類があり、いろいろな区分ができるが、「プリウス」や「インサイト」などのハイブリッド専用モデルと、「フリード」や「フィット」のようにハイブリッド“も”選べるモデルに分けることもできる。トヨタは専用モデルが得意なのに対して、ホンダは既存モデルのハイブリッド化(当然、実際には設計当初からハイブリッド化を見据えているが)がうまいというイメージがある。
その区分でいくと後者の「フリードスパイク ハイブリッド」は、フリードから派生した「フリードスパイク」からさらに派生したハイブリッド車だ。フリード自体がフィットの派生モデルと言えなくもないから、フリードスパイク ハイブリッドは、フィットファミリーの最終トランスフォーム系と言えるだろう。具体的には、フィットベースの6〜7人乗りハイトワゴンであるフリードから3列目を取り去って5人乗りとし、フリードよりも若者向けのスタイリングをまとったフリードスパイクのハイブリッド版ということになる。ああ車名が長い。
ひとことで言えば、フリードスパイク ハイブリッドは動力的にもスペース効率的にもハイブリッドシステムが主張しないで黒子に徹した、ユーティリティーの高いハイトワゴンだった。荷物をたくさん積んで遠出して、「そういえば燃費もわりとよかったね」という感じである。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
ショーン・レノンが「ちょうどいい!」と連呼するCMが話題になったフリードのデビューは2008年5月。一方、“可能性搭載コンパクト”をうたう派生モデルのフリードスパイクが登場したのは約2年後の2010年7月。両モデルの発表時期は意外や隔たりがある。
しかし、5ナンバーサイズのミニバンとしては初となるハイブリッド仕様については2011年10月、両モデルで同時デビューとなった。またこの時、フリードおよびフリードスパイクのガソリン仕様も装備内容の見直しなどのマイナーチェンジを受け、フリードシリーズ全体の商品力向上が図られている。
採用されたハイブリッドシステムは、ホンダお得意の1モーターパラレル方式。モーター自体のスペックは「フィットハイブリッド」と同じ14psおよび8kgmだが、フィットでは1.3リッターだったi-VTECエンジンがフリードシリーズでは1.5リッターとされ、システム全体の出力には違いがある(フィット:98psおよび17.0kgm、フリード:99psおよび16.6kgm)。JC08モード燃費は、フィットが26.0km/リッターであるのに対し、フリードは21.6km/リッターと発表される。
ちなみに、ハイブリッド仕様の追加とマイナーチェンジが同時に行われたフリードシリーズは、発売後2週間の累計受注台数が月販目標の2倍に当たる2万台を超え、モデルライフ半ばにして強力な上昇気流をつかまえた。2万台のうち、ハイブリッド車は67%を占めたという。2011年11月度の新車販売ランキング(自販連発表)も、前月の10位から6位に返り咲いている。
(グレード概要)
フリードスパイク ハイブリッドのラインナップはとてもシンプル。標準車と「ジャストセレクション」と呼ばれる装備充実グレードの2種類しかない。テスト車は後者。ディスチャージヘッドランプ、パワースライドドア(左リア)、ステアリングのテレスコピック機構、助手席アームレスト、角度調節ができるカーゴスポットライトなどが標準で装備され、価格は標準車より14万6000円高い229万5000円となる。
なお、フリード ハイブリッドでは今回、8人乗りが廃止され、6人乗りと7人乗りに整理された。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
ホンダは先代「オデッセイ」あたりから、立体的な造形と半透明のスイッチを多用してフューチャリスティックな印象のインパネデザインを好むが、フリードスパイク ハイブリッドも立体的で大胆なデザインのインパネを採用する。
人によっては安っぽいと感じるかもしれないが、この価格帯のクルマが無理に高級に見せようと頑張るより、このくらい遊んでくれたほうがユーザーも楽しいのではないか。機能的にも配置が適切で使いやすい。
(前席)……★★★
前席まわりのあらゆるところに小物入れ、小物置き場、ドリンクホルダーがあり、どれも乗員が手を伸ばせば届くように配置されているので、携帯電話をはじめ小物が増える一方の現代人にはありがたい。最近でこそ欧州車にも“走るため”だけでなく“過ごすため”の工夫が見られるようになってきたが、このクルマを見る限り日本車のお家芸は健在だ。
シートは大ぶりでゆったりできる。かけ心地に特筆すべき部分はないが、ネガも見当たらない。前方視界は良好。
(後席)……★★★
前席より少し座面が高く見晴らしがよい。スパイクは5人乗りに特化しているため、後席でもひざまわりが窮屈ということはない。前席同様、かけ心地はよくも悪くもないが、シートアレンジのために座面長が足りなかったり形状がおかしかったりというような本末転倒はない。
デザイン上の理由でリアクオーターウィンドウがボディー同色パネルになっているので、採光が少なく車内後ろ半分が少しだけ暗い。せめてリアサイドウィンドウをクリアにすればよいのに……と思ったが、このクルマは停車してリアスペースで長時間過ごしたり着替えたりすることもあるだろうから悩ましいところ。
(荷室)……★★★★★
荷室はリアシートを使っても556リッター、倒せば1130リッターもあるからどう使い倒してやろうかとワクワクする。荷室のフロアボードを反転させるとスロープ状になり、前輪を外さずに自転車を積み込む際などに便利。
ハイブリッドはバッテリーを積む分ノーマルモデルよりも荷室の天地寸法が35mm小さいのだが、ハイブリッド化によって犠牲になったスペースがここだけなのは立派だ。フィットのセンタータンクレイアウトやオデッセイのクルッと回って格納する3列目シートなど、ホンダはスペース効率を高めるカラクリが実にうまい。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★
1.5リッターエンジン+モーター+CVTのパワートレインは実用一辺倒。走って楽しむんじゃなく走っていった先で楽しむクルマだからこれでいいと思う。ノーマルモデルに比べ、ピークパワーはほぼ同じながらモーターアシストのおかげトルキー。80kg前後プラスされた車重をものともせず力強く発進できる。
ただし、ハイブリッドのパワー面での恩恵を感じるのはスタートからしばらくのみで、高速巡航などではほとんど違いを感じられない。また、それを好ましいか物足りないと思うかどうかは別にして、フリードスパイク ハイブリッドはエンジンが苦しむのを感知して初めてモーターがアシストする典型的な1モーターハイブリッドだから、プリウスのように走行の半分は空走しているような感覚はなく、普通にエンジンで動くクルマを運転しているのと同じ乗り味だ。
10・15モード21.6km/リッターというカタログ燃費についても、14.7km/リッターという3人+カメラ機材を載せた試乗での実測燃費(車載燃費計)についても、悪くはないが、近頃は内燃機関のみのクルマも頑張っているので「もう一声」と言っておこう。
(乗り心地+ハンドリング)……★★
このクルマに唯一難癖をつけるとしたらハンドリングの退屈さだろうが、評価は難しい。前述したように、このクルマは走って楽しむ人じゃなく走っていった先で楽しむ人向け……ではあるのだが、スポーツドライビングじゃなくたってハンドリングは退屈なより楽しい方がいい。楽しいとまでいかなくても快適なほうがいい。もう少しステアフィールを豊かにしてくれたら、カーブで突っ張る足ももう少ししなやかにしてくれたら、クルマ全体へのだいぶ印象が変わるだろう。
けれど「このハンドリングだからこのスペックのクルマを200万円強で買えるのだ」と言われれば我慢すべきかもしれない。価格が高くてはハイブリッドで稼いだ燃費も帳消しだから。それにハンドリングや乗り心地が悪いわけではない。退屈なだけだ。それなら運転中は音楽でも聴いて、行った先で楽しめばいいのかもしれない。
(写真=高橋信宏)
【テストデータ】
報告者:塩見智
テスト日:2011年12月9日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2011年型
テスト車の走行距離:2171km
タイヤ:(前)185/65R15(後)同じ(ヨコハマ・ブルーアース E50)
オプション装備:車体色[スーパープラチナ・メタリック](3万1500円)/Honda HDDインターナビシステム+リンクアップフリー+ETC(27万9300円)/1列目シート用i-サイド&サイドカーテンエアバッグ(11万5500円)/Lパッケージ(19万9500円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2):高速道路(8)
テスト距離:312.3km
使用燃料:23.5リッター
参考燃費:13.3km/リッター ※満タン法による計測値
