ダッジJC R/T(FF/6AT)【海外試乗記】
ダッジの今後を担う 2008.07.11 試乗記 ダッジJC R/T(FF/6AT)ダッジブランドの5車種目として日本導入が予定される「ダッジJC」。アメリカから新たに送り込まれるクロスオーバーモデルを、北欧はノルウェーで試乗した。
日本名は「JC」
米国クライスラー社が擁する1ブランドである「ダッジ」が、正式に日本に根をおろしたのが2007年6月。日本でのラインナップは、現在SUVの「ナイトロ」、5ドアハッチバックの「キャリバー」、FFセダンの「アベンジャー」、そしてハイパフォーマンスセダンの「チャージャー」と4つのモデルだ。
あれから丸1年、日本でのダッジブランドの知名度は、率直なところ「まだ一般に普及しているとは言い難い」というのが実状だろう。
しかし、現時点で「ダッジブランドは今後もメジャーになりえない」と判断を下してしまうのは早計である。何故ならば輸入元であるクライスラー日本では、この先もダッジのモデルラインナップを継続的に拡充させていくことをすでに表明しているからだ。
というわけで、2008年第4四半期に日本導入予定の「JC」も、そうした将来へと期待を繋げる1モデル。昨年のフランクフルトショーで初披露されたJCは、クライスラーみずから「ユーザーニーズの変化に対応すべく、大胆かつスポーティなパッケージに、多様性とフレキシビリティを独自の形で組み込んだクロスオーバーカー」と紹介するモデル。ちなみに、日本と中国以外では「ダッジ・ジャーニー」の名で発売される。
世界市場を狙う
「アメリカのブランド」であり、「メキシコの工場」で生産されるJCだが、国際試乗会が開催されたのは、何と北欧はノルウェー、オスロの地。
本社アメリカからやってきた広報スタッフにその理由を尋ねてみれば、「ヨーロッパからのゲストにとって、このあたりをこうしたイベントで訪れるのは比較的珍しく、それだけ印象に残して貰えるはずだから」というのがその回答だった。
そう、実はダッジは、アメリカの自動車ブランドの中でも国外販売比率が高く、なかでも、このJCはダッジブランドのさらなる世界市場への拡大を狙ったモデルといえるのだ。
なるほど、燃料代の高騰を受けて“国内”需要の大幅減退が伝えられる昨今にあっては、これまでアメリカ国内のみで完結してきた自動車の販売方法も、大きく考え直さなければならない時期に差し掛かっているというわけだ。だから、イベントそのものの運営方法にもその意気込みが滲み出るのである。
3列シート、7人乗りとはいうものの……
オスロの港町を見下ろす高台のレストランに並べられたヨーロッパ仕様の“ジャーニー”は、事前に手渡されていたスペックから想像するよりも少しばかりこぢんまりとしているように見えた。
全長は約4900mmで、全幅も1800mmをオーバー。すなわち実際は決してコンパクトなどと呼べるサイズではないのだが、第一印象が「こぢんまり」だったのは、アメリカ車は大きなものという先入観があるゆえか、はたまたオスロ周辺は道幅に比較的余裕のあるところが多かったためか。
どちらにせよ、このモデルに対するそうした印象は、そのキャビン空間がさほどボリュームがあるようには思えなかったことに起因するのかもしれない。
もちろん、セカンドシートまでは余裕があるから、大人4人が過ごす居住空間には何の不満もない。が、サードシートはレッグスペースもヒール段差も不足しており、大人が満足に座れるスペースはない。
日本の“JC”は3列仕様で導入されるが、そもそも“ジャーニー”ではサードシートはオプション扱い。むしろ広大なラゲッジスペースを備えるステーションワゴン的パッケージが売りになるというのも納得できる気がする。
自然体
テストしたのは2.7リッターの6気筒エンジンに6ATを組み合わせたモデル。率直なところ、その走りに関しては動力性能にしろフットワークのテイストにしろ、特に印象に残るものではなかった。
「当たり前に加速し、当たり前に曲がり、そして当たり前に止まってくれる」と、そんな“自然体”のドライブフィールがこのクルマの持ち味といえば持ち味かも知れない。いずれにしても、乗る人の感覚を無闇に刺激しないのがこのモデルの走り。
1人乗りの状態ではやや硬めと感じられた足腰のしつらえは、最大7名の乗員に加えて1.6トンまでのトレイラーを牽引可能、というタフな使い方までを想定していることとも無関係ではないはずだ。
ダッジブランドを示す大きな十文字のフロントグリルに、「SUVとステーションワゴン」をブレンドしたかのようなボディを組み合わせた“ダッジJC”。まさにクロスオーバーというフレーズが相応しい造形だ。そんなエクステリアデザインに拘りつつも「クルマは道具として使い倒す」という価値観を持つ人に勧めたい1台だ。
(文=河村康彦/写真=クライスラー日本)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。