メルセデス・ベンツSL63AMG(FR/7AT)/SL350(FR/7AT)【試乗速報】
メルセデスの意気込み 2008.06.25 試乗記 メルセデス・ベンツSL63AMG(FR/7AT)/SL350(FR/7AT)……1971.0万円/1190.0万円
フロントグリルを大きく変更。エンジンの改良と快適・安全装備の追加も受け、新しくなった「SLクラス」。「SL350」と新設定されたAMGバージョンで、マイナーチェンジの効果を検証する。
大胆に変身!
ナマで見るニュー「SLクラス」は、写真の印象とはずいぶん違う。ひと言で表現すると実に精悍! スリーポインテッドスターから左右に広がる一本ルーバーのフロントグリルに、キツイ目つきのヘッドライトが組み合わされたフロントマスク。旧型の面影はなく、本当はマイナーチェンジなのに、フルモデルチェンジといったらおそらくほとんどの人が信じるだろうなぁと思えるくらい、見事なイメージチェンジを遂げているのだ。
一本ルーバーに加えて、エラ状のサイドエアアウトレットやボンネットに伸びる2本のラインなどは、往年のガルウィング「300SL」をイメージしたもので、伝統と革新とを融合して生まれた新しいスタイルだ。
トランクリッドやテールランプの形に見覚えのあるリアスタイルも、ディフューザーデザインのリアスカートが加わったことで、迫力が格段にアップした。ディフューザー部分がブラックのAMGモデルは、スポーティさがさらに際だっている。
「R230」と呼ばれる現行SLクラスが登場したのは2001年のこと。7年目の今年、ようやくマイナーチェンジを迎え、エクステリアばかりかその中身も、フルモデルチェンジに迫るくらい大胆に変身。モデルサイクルの長いSLクラスだけに、後半戦にかける意気込みが伝わってくる。
中身の変更も盛りだくさん
日本でのラインナップは、3.5リッターV6を積む「SL350」に始まり、5.5リッターV8の「SL550」、5.5リッターV12ツインターボの「SL600」に加え、AMGモデルの「SL63AMG」と「SL65AMG」の計5モデルが用意される。
全車に共通の変更点としては、「キーレスゴー」と呼ばれるキーレスエントリーシステム、ヘッドレスト部分にセラミックヒーターを組み込み温風を送り出す「エアスカーフ」、地デジ対応のHDDナビゲーションシステムなど、装備の充実が挙げられる。また、走行状態に応じてヘッドライトの照射軸を横方向だけでなく縦方向にも変化させる「インテリジェントライトシステム」や、緊急ブレーキの際にブレーキランプを点滅させる「アダプティブブレーキライト」など、安全面の取り組みも見逃せない。
一方、モデル別の変更としては、SL350とSL63AMGのパワートレインに注目したい。SL350では、搭載される3.5リッターV6がパワーアップ。高圧縮比化(10.7→11.7)、インテークマニホールドやバルブ機構の見直しなどによって、従来より44ps、1kgmアップの316ps/6500rpm、36.7kgm/4900rpmを達成する。
組み合わされる7ATの7G-TRONICにはシフトダウン時のブリッピング機能が備わった。SL63AMGは、AMGがゼロから開発した6.2リッターV8が搭載されることに加え、新開発の7AT「AMGスピードシフトMCT」が組み合わされるのが新しい。
そんな注目の2台をさっそく試すことにしよう。
AMGの底力
まずはSL63AMGから。搭載される新しいオートマチックは、従来の7AT「AMGスピードシフト」をベースに、ATになくてはならないトルクコンバーターの代わりに、湿式多板クラッチを採用することで、ダイレクトなフィーリングと素早いシフトを可能にするというもの。ちなみにMCTは“Multi-Clutch Technology”を意味する。
新しいATの動きはスムーズなのだろうか? ドラマに出てくる姑のように、意地悪な目でチェックしよう。
シフトレバー上のボタンを押して、AMG自慢のV8を叩き起こし、まずはC(コンフォート)モードを選択。いつもどおりDレンジに入れてブレーキペダルから右足を離すと……てっきり“クリープ”はないと思っていたら、トルコンATのようにゆっくり動き出した。ギクシャクしないそのスムーズさにまず驚く。軽くアクセルペダルを踏めば、ブロロロという勇ましいV8サウンドとともに溢れるトルクが印象的だ。
細かいことをいえば、トルコンをスリップさせることでトルクを増強する効果が得られないので(そのぶん、伝達ロスは低くなるのだが)、他の63AMGに比べると低回転のトルクが細く感じられるのだが、それはあくまで比較級の話で、SL63AMG単独で見れば十分に力強い。スピードを上げるにつれてギアはポンポン上がっていくが、その滑らかなシフトには文句のつけようがない。黙って乗せられたらどれだけの人が気づくか……。そういう私も気づく自信がないほど、AMGスピードシフトMCTは洗練されている。
シフトプログラムをS(スポーツ)やS+(スポーツプラス)に切り替えたところで、スムーズなシフトは変わらず、その一方でシフト時間が切り詰められているのがわかる。感動的なのがシフトダウンで、パドルやシフトレバーで低いギアを選ぶと、派手な音とともにレブカウンターの針は瞬時に跳ね上がり、あっというまにシフトダウンが完了するのだ。
M(マニュアル)モードならレブリミットに達しても自動でシフトアップしないから、まさに自在にエンジンを操ることができる。低速から豊かなトルクを発生するV8ユニットは、回転が上がるにつれてますます力が漲り、演出過剰のサウンドに乗せて怒濤の加速を見せる。エンジンの力強さといい、ATの完成度といい、ラグジュアリースポーツの名に恥じない仕上がりに、AMGの底力を見た。
SL350も負けてはいない
SL63AMGに比べて、パワーやトルクは約4割減、値段も4割安いSL350に乗り換えると、物足りなさを感じるどころか、これはこれで上手くまとまっているのがわかる。
1780kgと決して軽くないボディを相手に、専用チューンの3.5リッターV6は十分な低速トルクを発生する。そして、3500rpmを超えたあたりからは心地の良いサウンドを奏でながらスムーズかつスポーティに回転を上げるのが、なんとも魅力的である。
AMGスピードシフトMCTほどではないが、ブリッピング機能によりシフトダウンも気持ちよくキマり、軽快さが前面に出るワインディングロードを駆け抜ければ、SL350こそベストチョイス!と確信するに違いない。
10数秒で開閉可能なバリオルーフを開け放てば、すぐに堪能できるオープンエアモータリング。キャビンへの風の巻き込みは、サイドウィンドウの上げ下げや、ウインドディフレクターで自在にコントロールできる。窓を上げ、ウインドディフレクターを立てれば、ほぼ完璧に風の巻き込みは抑えられるうえ、強力な空調とシートヒーター、そして、エアスカーフが備わるSLクラスなら、冬でも躊躇せずルーフを下ろすことができるはずだ。
そのうえ、SL350はいうまでもなく、SL63AMGでも乗り心地は実に快適。さらに、充実の機能に上質な内装など、これといって不満が見つからないニューSLクラス。ビッグマイナーチェンジの効果は想像以上で、後半戦の盛り上がりが期待できそうだ。
(文=生方聡/写真=亀山ののこ)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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