アウディTTクーペ 2.0 TDI クワトロ(4WD/6MT)【海外試乗記】
驚きの味 2008.06.06 試乗記 アウディTTクーペ 2.0 TDI クワトロ(4WD/6MT)ディーゼルでルマン24時間レースを戦うアウディが、ディーゼルの市販スポーツカーを作ったら……? 「TT」の新グレードに本国ドイツで試乗した。
スポーツカー×ディーゼル=?
「なんじゃこりゃ〜!!」と思わず松田優作口調になってしまったのは、アウディTTSの試乗会の案内に「ディーゼルエンジン搭載のTT TDIもお試しいただけます」とあったからだ。
ディーゼルを積む欧州製のセダンやSUVはいくつか経験しているけれど、スポーツカーとディーゼルの組み合わせを想像すると、頭上に大きなクエスチョンマークが灯る。
だって、高性能スポーツカーを評価する常套句は、「エンジンは高回転まで小気味よく回る」や、「レッドゾーン付近のエンジンの咆哮」というもの。TT TDIには小気味や咆哮は期待できないのではないか!?
(……あくまで想像だけど)
というわけでアウディTTの高性能バージョン、TTSを試乗した際に、このTT TDIもチョイ乗りする機会を得た。日本への導入はまったくの未定ということもあり、限られた時間での試乗ではあった。けれど、この興味深いクルマについて知り得たことを、少しでもお伝えしたいと思う。
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力持ちの美女
リアの「TDI quattro」のエンブレムさえ見なければ、外観はフツーのアウディTTだ。
ドライバーズシートに乗り込んで、クラッチを踏んでエンジン始動。ちなみに、2リッターの4気筒DOHCターボディーゼルユニットは、ドイツ本国のVWティグアンなどに積まれるのと同じものだ。静かでアイドリング振動もないのは、最新の欧州製ディーゼルの文法通り。埃っぽい感じはまるでない。
6段MTを1速にエンゲージ(Sトロニック仕様は存在しない)、アイドリングのままクラッチを繋ぐと、べらぼうにスムーズにタイヤが最初の1回転をする。要は低回転域のトルクがぶっといということだけど、粘り強く、たくましいエンジンを積むスポーツカーというのは、自分より力持ちの美女みたいで新鮮だ。
周囲の交通量が少ないのを見計らってアクセルペダルを踏み込むと、タコメーターの針がスムーズに回転を上げる。決してシャープネスを感じさせるものではないけれど、かといって重々しいわけでもない。確かな重みがあるものが、確実に回転を上げているという感触が伝わる。
高回転域にいたってもバイブレーションとは無縁だから、うっかりすると5500rpm+に達し、カットオフを効かせてしまう。1時間弱の試乗で、何度リミッターに当ててしまったことか……。
ライトウェイトスポーツのよう
交通量の少ない、80km/h前後で流れる気持ちのいいワインディングロードを走る。このフィーリングは独特だ。エンジン回転を上げなくても思っただけの加速が手に入り、ひらりひらりとコーナーを舞う。カタログでの0-100km/h加速は7.5秒で、『CG』誌巻末のテストデータによればこれは「ミニ・クーパーS」や「ケイターハム・スーパーセブン・クラシック」などと同レベルなのだ。
スポーツカーといえば、ボンネットの中でドラマが起こる乗り物だったけれど、「TT TDI」のボンネット内で起こるドラマは、ドライバーには伝わらない。何しろ、シリーズ中最もパワフルな「TTS」と同じ35.7kgmという最大トルクを発生するのは、わずか1750rpmなのだ。エンジンを回さなくても速いのである。
静かで、速い――ある意味でアウディを象徴しているモデルかもしれない。
このクルマは、どうカテゴライズすればいいのだろう。新種のスポーツカーにも思えるし、シティコミュータの発展型と捉えることもできるかもしれない。1370kgの車重に35.7kgmの大トルクが組み合わされると、アクセル操作に敏感に反応するかつてのライトウェイトスポーツカーに通じる乗り味になるのだ。この不思議な感覚に、ステアリングホイールを握りながら小さな声で「なんじゃこりゃ?」とつぶやいた。
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新しい選択肢
ま、ディーゼルの未来がぴっかぴかに輝いているかと言えば、必ずしもそうとは言えない情勢だ。ディーゼル軽油の需要が多いイタリアやオーストリアではガソリンと軽油の価格が逆転したというし、今後さらに排ガスへの規制が厳しくなった場合にはディーゼル開発のコストが上がるとアウディのエンジニアも認めている。
でもスポーツカー(ひいては自動車)の将来を考えるにあたって、選択肢が多いことはもちろん悪いことではない。たくさんの選択肢があれば、それだけ環境問題やエネルギー問題の解決策が生まれる可能性が高まるからだ。
ディーゼル搭載のTTは、燃料電池車やEVに初めて乗った時と同じような驚きがあった。ディーゼルのスポーツカーという、“新しい選択肢”。ドイツ本国では2008年6月からデリバリー開始、日本への導入は未定とのことである。
(文=サトータケシ/写真=アウディ・ジャパン)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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