トヨタ・クラウンハイブリッド(FR/CVT)【試乗速報】
クラウンに興味がなくても 2008.06.05 試乗記 トヨタ・クラウンハイブリッド(FR/CVT)……637万6900円
2008年2月の新型「クラウン」発売から遅れること3ヵ月、ハイブリッドモデルがラインナップに加わった。燃費だけでなく、静粛性にもこだわったモデルだが、走りも見るべきものがあったという。
一段上の静粛性
代を重ねるごとに上がっていくユーザーの平均年齢に歯止めをかけるべく、革新を果たした先代「ゼロ・クラウン」の好調を後目に、あっさり保守路線へと回帰した新型「クラウン」。プラットフォームを継承したハードウェアは、たしかに完成度を大いに高めているが、それは驚くほどのことではない。ゼロ・クラウンの“志”に共感した新しいユーザーは、ではどうやって受け止めるのか。そういう意味で個人的に期待していた新設定のクラウンハイブリッドが、いよいよ登場した。
そのハイブリッドシステムは、同じプラットフォームを用いる「レクサスGS450h」と共通のものだ。つまり3.5リッターV6の直噴エンジンに、FR専用2段変速式リダクション機構付きTHS-IIという組み合わせで、345psというシステム最高出力をはじめとするスペックも変わらない。
目につく相違点といえば、EV走行モードの設定、そして、このご時世では見逃せないところだが、燃費が10・15モードでGS450hの14.2km/リッターに対して15.8km/リッターと、大幅な向上をみていることくらいだ。
しかし、走り出すとそこに広がるのは紛れもなくクラウンの世界である。まずパワートレインは静かで滑らか。元々このハイブリッドシステムは、アクセルを踏み込んだ瞬間から力強いトルクを発生し、しかも加速にも継ぎ目がない、とても上質な味わいを誇っているが、特に静粛性に関してはさらに一段上のレベルに達したと言っていい。
フットワークに嬉しい驚き
その秘密は、まずは室内のこもり音に対して逆位相となる信号を発することで騒音を打ち消すアクティブノイズコントロール。そして専用品が奢られたタイヤである。そのサイズはシリーズ随一のパワー&トルクに対応させるべく、アスリートと同じ225/45R18とされているが、中身は内部に吸音スポンジを仕込んだハイブリッド専用品とされた。これによって、ロードノイズを大幅に減少させているのだ。これは「クラウンシリーズ中、もっとも静かなモデルとしたい。」という開発陣のこだわりである。
乗り心地は、ロイヤルとアスリートの中間よりややロイヤル寄りの、しなやかなタッチに仕上げられている。後2輪が同時に段差を超えたときなど、想像以上に大きな衝撃に驚かされることもあるが、快適性はおおむね上々といえる。
嬉しい驚きをもたらすのがフットワークである。車重は3.5リッターのアスリートより200kg近く重く、しかもサスペンションは柔らかいのに、小さめのコーナーが連続する場面でもこちらの意思に背くことなく、正確なレスポンスで応えてくれるのだ。
これには、ギア比可変ステアリングのVGRSやアスリートと同サイズのタイヤも効いているに違いないが、実は新型クラウンのウリのひとつである電子プラットフォームの刷新も大きく貢献しているという。減衰力可変式ダンパーとナビを協調させたNAVI・AI-AVSは、地図情報からコーナーの曲率などを読み取り、予め最適なダンパー減衰力を発生させるシステムだが、電子系の計算速度がGS450hより遥かに高まったことで、その制御をさらに緻密に行うことができるようになったというのである。
戦略にぬかりなし
快適性に優れ、それでいて思ったとおり気持ちよく向きの変わるフットワークと、踏めば即座に豊かなトルクを発生させるハイブリッドパワートレインが織りなす走りっぷりには素直に感心させられた。欲をいえば、中立付近の座りが甘いステアリングは要改善といえる。多少操舵力が重くなっても、ここが落ち着いた方が結果的には快適なはずだ。
また、全面カラーTFT液晶のメーターのグラフィックや前後のブルー基調のライトカバー類など、仕立ての随所で上質感、高級感を欠くのも気になる。いかにもトヨタっぽい、クラウンっぽいとは思うが、とてもクールと評せるものではない。
それでも、その走りの完成度の高さと、それと同時に実現された好燃費は、これまでクラウンに食指を伸ばさなかった層にもアピールするだけの十分な魅力になっている。実際、受注も好調で、いま注文しても納車は秋になるという。
かつて「エスティマ」が2世代目で平凡なFFミニバンになってしまったときも、ハイブリッドの存在がイメージを押し上げた。クラウン・ハイブリッドも、そんな役割を担うことになる気がする。その戦略、悔しいけれど本当にぬかりないのである。
(文=島下泰久/写真=荒川正幸)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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