プジョー207SW(FF/4AT)【ブリーフテスト】
プジョー207SW(FF/4AT)【ブリーフテスト】 2008.05.13 試乗記 ……269.0万円総合評価……★★★★
コンパクトハッチ「207」をベースにしたスタイリッシュな“ショートワゴン”、207SW。高速から峠道まで、その乗り味を試した。
お買い得じゃない!?
かつて、2年間ほどステーションワゴンと暮らした時期があった。
大きな荷物を運ぶ予定があったわけではなく、ハッチバックよりちょっと広くて、多少便利そうだからという理由だけで買ったクルマだった。そんないい加減な動機だから、リアシートを倒して荷室を一杯にしたのは引っ越しの時くらいで、ふだんはトノカバーをきちんと閉めたまま、荷室の広さを持て余しながら走ることがほとんどだった。
容量だけを考えるとハッチバックやセダンでも間に合いそうだが、荷物の出し入れが簡単なのはワゴンならでは。荷室の奥のほうにある荷物も取り出しやすいし、いろいろなものを無造作に置いても収まってしまうから、一度味をしめるとワゴンはやめられない。
そんなワゴン贔屓の私にとって、207SWは気になるモデルである。207Cieloに対して重量増はわずか40kg。運転したところで、ワゴン化により失った部分はこれといって見あたらず、一方、荷室の使い勝手や後席の居住空間は向上。これで207Cieloとの差は5万円だけだから、迷わず選んでしまいそうだ。ほどほどのサイズのワゴンというのもまた、自分にはあっているし。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
世界的ヒットをとばした、プジョーのコンパクトハッチ「206」の後継モデルが「207」。そのワゴンバージョンたる「プジョー207SW」は、2007年3月のジュネーブショーでデビュー。1年後の2008年4月14日に日本上陸を果たした。
サイドまで回り込んだリアウインドウや広大なパノラミックガラスルーフを特徴とするボディは、ベースのハッチバックより120mm長く、40mm高い。
インテリアは基本的にハッチバックと共通ながら、リアシートを後退させてレッグスペースを拡大。5名乗車時337リッター、リアシートを折り畳んで1258リッターの荷室を有する。後部座席から操作できるパーセルシェルフや、ガラス部のみ開閉できるリアゲートなど、荷室へのアクセスもセリングポイント。
6エアバッグと、5名分の3点式シートベルト、ESPを安全装備として標準採用。欧州の衝突テスト「ユーロNCAP」では5つ星を獲得した。
(グレード概要)
試乗車は、1.6リッターNAユニット(120ps、16.3kgm)と4段ATを組み合わせるベーシックグレード。
2008年6月にはターボチャージャー付きの1.6リッターユニット(150ps、24.5kgm)を搭載する「GTi」が追加される予定で、こちらは5段MTが組み合わされる。価格は前者が269.0万円、後者が335.0万円だ。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
ハッチバックの207Cieloとほとんど変わらない207SWのダッシュボード。なだらかに広がるダッシュボード上部は質感が高く、メーターのデザインも含め、シンプルなデザインが心地いい。それに比べると、ダッシュボードの下半分は、デザイン、質感ともにやや見劣りするが、全体としては悪くない。
207Cieloから省かれた装備は、センターコンソール上部にあった“パフュームディフューザー”くらい。専用の芳香剤を拡散させる機構だが、正直、あまり必要性を感じなかった私としては、なくなっても気にならない。一方、207SWには207Cieloよりもさらに大型のパノラミックガラスルーフや凝ったつくりのテールゲートが備わることを考えると、ハッチバックと比して5万円アップという価格はとても魅力的に思える。
(前席)……★★★★
207Cieloがハーフレザーのシートを標準装着するのに対し、この207SWは207のベーシックモデルと同じファブリックシートを採用する。このあたりに“価格マジック”のタネがありそうだが、かといって機能が劣るわけでもなく、座ってみると、適度に張りがあって身体全体を支えてくれる感じがとても快適。シートの形状はサイドサポートの大きいスポーツタイプだが、窮屈だったり、乗り降りが不便ということがないのは助かる。
ステアリングホイールが本革巻きで、ステアリングコラムがチルト、テレスコピックともに可能なのもうれしい。
(後席)……★★★★
207SWのホイールベースは2540mmでハッチバックと同じ。しかし、天井の高さをいかして、後席の設置位置は15mm後ろに下げられ、座面も20mm高くなった。おかげで、ハッチバックでも十分な広さと快適さを誇っていた後席にはさらなる余裕が生まれている。
ファブリックのシートはフロント同様、身体に馴染む感じで、走行中の乗り心地も快適。ルーフのパノラミックガラスルーフは207Cieloよりさらに大きく、開放感もワンランク上だ。中央席は狭いながらもシートバックに硬さはなく、ヘッドレスト、3点式シートベルトが備わるから、いざというときには重宝する。
(荷室)……★★★★
ハッチバックと比較して全長は120mm長く、その延長分はすべてリアオーバーハングの拡大に充てられた。おかげで荷室の奥行きは約10cm長い80cmほどになり、ひとクラス上のハッチバックと同程度になった。もちろん、リアシートを倒せばさらに広くフラットなフロアが現れる。
バンパーの位置が下げられ、開口部とフロアの段差がなくなったことから、荷物の出し入れはさらに容易に。ガラスハッチがあるので、テールゲートを開けずに荷室にアクセスできるのも便利だ。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
搭載されるエンジンは、207Cieloと同じ1.6リッターの自然吸気ユニット。オートマチックのギア比も同一だが、重量増は40kgと小さいから、ハッチバックに比べて遅いという印象はない。もちろん、最高出力120ps、最大トルク16.3kgmというスペックゆえ、余裕たっぷりというわけにはいかないし、山道に持ち込むと上り勾配が不得意なのがバレてしまうが、ふだん乗るにはレスポンスはいいし、可変バルブタイミング&リフト機能のおかげでトルクバンドも広くエンジンはとても扱いやすい。
4ATも昔に比べると、“なかなかシフトアップしない”といった嫌な動きはだいぶ目立たなくなっている。しかし、Dレンジで100km/h巡航時の回転が2800rpmと高めであったり、街中を流すときでも回転が下げられないなど、燃費を考えると不利な点は多い。効率のいいエンジンだけに、さらに効率的なオートマチックが組み合わされることを望む。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
ワゴンの場合、ハッチバックよりもリアの荷重が大きく、荷物も多くなりがちだから、リアサスペンションを強化して、その結果、乗り心地が悪化するということが少なくない。その点、207SWは基本的にはハッチバックと変わらない印象。決してソフトではなく、荒れた路面で多少ショックを伝えてくることもあるが、しなやかさが感じられるサスペンションはプジョーの名に恥じない快適さがあり、高速走行時のフラットさや直進性の高さも申し分ない。
ワインディングロードでも適度なロールをともなって軽快にコーナーを駆けぬける207SW。回頭性でハッチバックの207Cieloにわずかに引けを取るのは事実だが、それでも乗り心地とハンドリングのバランスは依然高く、SWの評価を下げることにはならないだろう。
(写真=初沢亜利)
【テストデータ】
報告者:生方聡
テスト日:2008年4月8日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2008年型
テスト車の走行距離:1389km
タイヤ:(前)195/55R16(後)同じ(いずれも、ミシュラン・パイロットプライマシー)
オプション装備:--
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1):高速道路(7):山岳路(2)
テスト距離:319.5km
使用燃料:33.0リッター
参考燃費:9.68km/リッター

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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