マツダ・アテンザスポーツ25Z(FF/6MT)【ブリーフテスト】
マツダ・アテンザスポーツ25Z(FF/6MT) 2008.04.24 試乗記 ……278万5900円総合評価……★★★
2008年1月にフルモデルチェンジを受けた「アテンザ」は、ホイールベースの延長とともにひとまわり大きなボディを手に入れた。
5ドアハッチ「アテンザスポーツ」の最もスポーティな「25Z」をMTで操り、その走りを試す。
隠し味が欲しい
新型アテンザの外観を見て、まず思うのは「ずいぶん立派になったな」ということではないだろうか。しかし実際のところ拡大分は全長で65mm、全幅で15mmと、それほど大きくなったわけではない。サイズ以上の存在感をもたらしているのは、滑らかな曲面と鋭いエッジを融合させた流麗なフォルムである。狙ったのは、先代が取りきれなかったセダンユーザーのコア層である50代以上へのアピールだ。
一方で、先代を支持した若いユーザーを見据えているのが、スポーツワゴンとこの5ドアハッチバックのスポーツ。フロントマスクがセダンよりアグレッシブなデザインとされていて、落ち着いたセダンとは違うイメージを打ち出している。その試みはうまくいっていると言っていいのではないだろうか。当然、ユーティリティ性はセダンの比ではないし、ワゴンとは違った軽快感、スポーティな存在感はほかにはなく魅力的だ。MTの用意も、実際の売り上げへの貢献以上に、イメージアップに有効に働きそうである。
しかしながら新型アテンザ、実際乗ってみると、先代が持っていたわかりやすい刺激性が薄まり、キャラクターがやや見えにくくなってしまった感は否めない。走りの面では、それが特に顕著。荒っぽさやヤンチャぶりが陰を潜め、格段に洗練されたのは事実ながら、強いアピールにも乏しいのだ。
それは、ラインナップのなかでは特に若い層の方を向いている、このアテンザスポーツ25Zでも変わらない。せっかくこのクラスで5ドアハッチバック、そして6段MTという通好みなパッケージなのだから、アテンザのスポーティさを体現する存在として、もう少しスパイシーに味つけをしてもいいのではないだろうか。
素材がよければそれでいいというわけでは決してない。甘みを引き立てるためには、あえて軽く塩を振ることも必要。本質を伝えるためには、巧みな演出だって必要なのが今の時代なのである。
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【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)マツダのミドルクラス「カペラ」に代わるモデルとして、2002年5月に発表されたのが「アテンザ」。4ドアの「セダン」、5ドアの「スポーツ」、ステーションワゴンの「スポーツワゴン」と、3種の車型で世界展開するグローバルカーである。
2008年1月、フルモデルチェンジして2代目に。ホイールベースが50mmも延長されるなど、ボディサイズはひとまわり拡大された。
エンジンは、オールアルミ製直4のMZRユニットで、2リッターと、従来の2.3リッターに代わる2.5リッターの2種類。トランスミッションはグレード別に、5段AT、6段AT、6段MTが組み合わされる。
(グレード概要)
テスト車は5ドアハッチバック「スポーツ」の最もスポーティなグレードである「25Z」。アンチスピンデバイスのDSC、トラクションコントロール、エアロパーツなどのほか、同グレード専用装備として、大径のブレーキローター、18インチホイール&タイヤなどが与えられる。インテリアもスポーティに仕立てられ、本革とウーブンのハーフレザーシートに、アルミペダルも奢られる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
先代アテンザのインテリアは登場当初は特にチープな印象が拭えず、途中のマイナーチェンジで大幅な改善が施されることとなった。そんな流れを受けて新型ではデザイン、クオリティともに最初からおおいに力が入れられている。基本的にはスッキリとまとめられて上質感もあるが、ブルーとレッドのメーター照明など、このクラスとしては子供っぽい演出も見られるのは残念なところ。率直に言って、目標とした「フォルクスワーゲン・パサート」のレベルにはまだ届いてはいないが、それでも全体の雰囲気は悪くない。これなら大きな不満の声が上がることはないだろう。
ステアリングのスポーク部分に設けられたスイッチで空調やオーディオなどの各種機能を簡単に操作できるCF-Netや、運転席/助手席独立温度調整式のオートエアコン、夜間の室内を楽しく演出する多彩な照明など、装備も充実している。しかし、そのCF-Netなどは、見た目に地味過ぎて、iDriveやCOMANDシステムのような目をひく商品性に繋がっていないのが残念。こういうところはヨーロッパのライバルの方が、やはりまだまだ狡猾だ。
(前席)……★★★★
全幅の向上代は先代プラス15mm。しかも開発担当主査の梅下隆一氏によれば、そのほとんどがデザインに費やされているというから、室内幅は数mmしか増えていないはず。それでも従来以上の開放感を覚えるのは、つまり空間設計が巧みだということだろう。
新規で起こしたフレームを使ったというシートは大振りなサイズで身体を心地良く包む。クッション部分のチューニングも吟味されており、表面の当たりはしなやかながら腰のあたりをしっかりサポートしてくれる。快適性はなかなかのものだ。
さらにありがたいのはポジションの自由度の大きさ。前後スライドは260mm、座面高さは52mmの範囲で調整することができる。ステアリングの位置もチルトが45mm、テレスコピックが50mmと、やはり調整幅は大きく、体格に合わせたベストな姿勢をとるのが容易になっている。
(後席)……★★★
サイドサポートやヘッドレストなどの表皮に本革を、そしてクッション部分にフラットウーブンと呼ばれるざっくりと波打ったファブリック生地を使っているのはフロントシートと同様。この見た目、座り心地ともにスポーティなシート地は、25Z専用である。
ホイールベース延長の効果で足元は広く、またハッチバックでも頭上には十分な空間が確保されている。ただしシート自体は倒した時に荷室と段差無く繋げるためか座面、背もたれともに平板な形状で、本革使いも災いしているのか座っていてなかなか身体にしっくりこない。時間が経てば、もう少しフィットするのかもしれないが、やはりここは形状自体をもう少し人間重視にしてほしいところだ。
(荷室)……★★★★
ラゲッジスペースの容量はリアシートを起こした状態で510リッターと、セダンの519リッターに対してわずかに小さいが、実質的にはほぼ同等だし、いずれにしても十分に満足できる広さであることは間違いない。開口部も、当然セダンよりはるかに広い。スポーツワゴンと違って開口部下端とフロアには段差ができてしまうが、それでもかさ張る荷物の積み込みは随分と楽になるはずだ。
もちろん、必要とあらば分割可倒式のリアシートを倒して、さらに広いスペースを確保することもできる。ワゴンと同じく荷室側のレバーを引くだけでワンタッチで座面が沈み込み、背もたれが前に倒れるカラクリフォールドを採用しているのも目をひくポイント。片手で、しかも力を入れずに操作できるので、特に女性ユーザーは重宝するに違いない。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★
先代の2.3リッターから2.5リッターへと排気量を拡大したエンジンは、最大トルクこそ21.9kgmから23.0kgmへと向上しているものの、最高出力は意外にも8psダウンとなっている。実はこれ、ガソリンが従来のハイオクからレギュラー指定へと改められたからである。これは今のご時世では嬉しい話。燃費はMT同士で13.0km/リッターから12.6km/リッターと悪化しているが、これぐらいは運転次第で十分取り返せるはず。
しかし、その反面で排気量、そして最大トルクから想像するほどには力強さを感じられないのも事実である。80kgの車重増が効いているのだろうか、やはり全体にもう少し力感が欲しい。たとえば100km/h走行時、6速2000rpmあたりからの加速には現状、1段ないし2段のシフトダウンが必須なのだ。
それでもMTであれば、もどかしさはいくぶん解消される。サウンドはとりたてて気持ち良いわけではなく、しかも高回転域では伸びが早期に頭打ちになってしまうため、回してもあまり意味はないのだが、右足と駆動力が直結したようなダイレクト感はやはり魅力。3速で1000rpmを割り込んでも、ゆっくりながらまだ再加速できるくらい粘りはあるから意外と運転もしにくくない。シフトレバーの位置まで吟味したというだけあって操作フィールは歯切れよくクラッチも軽い。飛び切りスポーティだとまでは言わないが、クルマを自分の手で操るという醍醐味でMTを選ぶのは、十分“アリ”の選択だろう。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
新型アテンザでもっとも残念なのが乗り心地である。特に40〜50km/h程度の速度で舗装のさほど良くない一般道を走るような状況が、コツコツと突き上げてくる上にフラットさも欠いて、気持ち良くないのだ。ダンパーの減衰力の立ち上がりが鋭すぎるのかもしれない。
ちなみに、その傾向がもっとも強く出るのはセダン、次がスポーツワゴン、そしてスポーツの順となる。要するにボディ剛性が高いほど、逃げ場がないのか影響が大きく出てしまうのだろう。またタイヤに拠っても乗り心地に差が出るのは当然だが、実は17インチと18インチを較べると、18インチの方が当たりがしなやかで快適性が高い。逆に17インチの方が剛性感があって、走っていて信頼をおける印象が強いため、どちらを好むかは人によって違ってきそうである。難しいところだが個人的には17インチを推す。
そうした今後のファインチューニングに期待したい部分を除けば、シャシーのポテンシャル自体は確実に、大幅に高まっているのが実感できる。先代は演出過剰なほどにフロントの初期応答が良く、リアも早期に逃げる方向のセッティングで、楽しくはあるが上質とは言えなかった。それが新型では、ステアリング操作に対してスムーズに向きを変える一方で、リアはどっしりと安定した質の高いフットワークを満喫できる。
また、初採用の電動パワーステアリングやブレーキなど、クルマとドライバーのインターフェイスになる部分の手応えのよさも特徴と言える。いずれも反応のリニアリティが高く、思ったとおりの操作が可能になる。この当たり前のことが未だできていないクルマがいかに多いことか。マツダの真骨頂である気持ち良い走りは、しっかりと磨かれているというわけだ。
(写真=荒川正幸)
テストデータ
報告者:島下泰久
テスト日:2008年4月4日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2008年型
テスト車の走行距離:2247km
タイヤ:(前)225/45R18(後)同じ(いずれも、ダンロップSP SPORT 2050)
オプション装備:クリアビューパッケージ+LEDドアミラーウインカー+Boseサウンドシステム+プッシュボタンスタートシステム+アドバンストキーレスエントリーシステム(16万5900円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3):高速道路(5):山岳路(2)
テスト距離:307.6km
使用燃料:34.1リッター
参考燃費:9.02km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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