アルファ・ロメオ8Cコンペティツィオーネ(FR/2ペダル6MT)【海外試乗記(後編)】
快感中枢を刺激する(後編) 2008.02.12 試乗記 アルファ・ロメオ8Cコンペティツィオーネ(FR/2ペダル6MT)……2259万円(車両本体価格)
アルファ・ロメオのリアルスポーツカー「8Cコンペティツィオーネ」。イタリアで試乗した『NAVI』加藤哲也は、いたるところに“アルファらしさ”を感じたという。
『NAVI』2007年12月号から転載。
カーボンだらけ
(前編からのつづき)
目に見える部分のほとんどがカーボンファイバー。それが何より8C一番の特徴だ。スチール製のフロアパネルこそ用いられているが、ボルトと接着によって剛結されるモノコックはカーボン製だし、エアロダイナミクスの改善を目的に採用されたアンダーフロアも、あるいは2000スポルティーヴァにモチーフを求めたに違いない曲面的なフォルムを形成するアウタースキンにも、軽量高剛性で知られる同素材がふんだんに用いられている。この量産にまったく向かない凝った骨格と衣装に目を向けるだけで、限定500台という生産量にも頷けてしまう。
いやそれだけじゃない。インテリアを見てもダッシュボード、シートシェル、ドアトリム等々、とにかくカーボンファイバーが多用されているのだ。プロジェクトリーダーに聞いたところ、ごく初期のプロトタイプではアルミの使用量が約100kgに達していたが、開発を重ねるうち、結局はインストルメントパネルのインサート等たった5kg分しか残らなかったという。
ただし車重は88リッターの燃料タンクを満たし、すぐに走り出せる状態で1585kgと、思ったほどには軽くない。前後重量配分は49:51。0-100km/h加速は4.2秒。最高速の公表値は292km/hだが、実際には300km/hを超えるはずだという。
アルファならではのトリップ感
短い時間ではあったがポルトローナフラウのレザーに覆われたバケットに身を埋め、数々の名車を生み、育んだ聖地バロッコをドライブしている間中、楽しくて仕方がなかった。そうだ、これがアルファなんだよな、と改めて感じ入ったからだ。“アルファらしさ”というものを思い出させてくれたからだ。
単に出来がいいとか速いとか、そういった次元のことをいっているわけでは決してない。絶対的にパフォーマンスが高いことはいうまでもないが、車重とパワーの関係からも想像がつくように、フェラーリやマセラーティ等基本が同じV8を積むモデルと比べると、その特性はむしろマイルドな部類に属する。論理的に考えれば、400ccの排気量増に見合うだけの爆発力を、残念ながら8Cは持たない。コースインするとすぐに長い直線に臨むことになるが、そんな場面ではもう少しトルクとパワーが盛り上がってもいいかな、と物足りなさを覚えることも事実だ。
しかしとにかく気持ちがいいことは保証する。甲高い叫び声を上げながら7500rpmのリミットまでストレスフリーに吹け上がるその感触は、快感中枢にダイレクトに訴えかけてくる。あまりのパワーの奔流に思わず現実に引き戻されてしまうフェラーリより、うっとりとトリップ感に浸っていられるぐらいだ。実用トルクを確保したうえで高回転を好むユニットが、あたかももっと回せとせがむような素振りを見せることも、伝統通りといえる。スポーツマインド溢れるドライバーなら、きっと誰もがその声に抗えない。望みを叶えてやろうとスロットルを床まで踏み込み、5000rpm以上の美味しい領域にレヴカウンターの針を釘づけにしたくなるはずだ。クロースレシオのセミATのギアリングも、そんな乗り方に適している。
アルファらしさを発揮するのは何もストレートに限らない。コーナーに飛び込めばさらにその魅力が際立ってくる。
何よりの美点は、あくまで自然な姿勢変化を許すことだ。今回の試乗はテストコース2ラップのみ。したがって最もハードな走行に向いたスポーツ/マニュアルモードのみを選んで走行したが、8Cにはフェラーリやマセラーティのように可変ダンパーは備わらない。つまりVDCの介入度やシフトスピード、エグゾーストパイプ内のバルブを開閉させてスロットル・レスポンスを変化させるだけで、サスペンションのセッティングは1種類しか用意されないということだ。
熱い思いが秘められている
しかし、いやだからこそというべきか、あくまで自然な姿勢変化を許すのが好ましい。ハードブレーキングすると(前:360φ+モノブロック6ピストン・キャリパー/後:330φ+4ピストン・キャリパー)、まるで野性動物が獲物に襲い掛かろうとする瞬間のように身を沈め、ステアリングを切れば、軽く素直なロールを伴いながらクイックに身を翻す。進入スピードさえ誤らなければタイトコーナーでさえアンダーステアを意識する場面は少なく、その上限界が掴みやすいため自信を持って振り回せるのが美点だ。
事実これだけの絶対的トルクとパワーを誇ればパワードリフトの体勢に持ち込むのは簡単で、低いギアで深く踏み込めばすかさずテールスライドが始まる。しかしさすがはトランスアクスル・レイアウト。リアが流れている際も、ミドエンジンほどではないにせよ必要にして充分な接地感とトラクションが確保されているため怖くない。あくまで自分の支配下に置きながら、挙動変化を積極的に楽しめるのが印象的だった。
実際にはあまり軽くなくても、カーボンモノコック/ボディのメリットを感じたことも報告しておこう。その恩恵を最も感じたのは中速のSベンドを切り返したとき。上屋が軽く、重心が低いせいだろう、しなやかなサスペンションがロールを許すにもかかわらず、路面をなめるように軽やかにクリアしていけることに驚いた。イタリアのモータースポーツの聖地モンザの有名な高速コーナーに似せて作ったことから同じ“レズモ”の愛称で呼ばれるようになったファストベンドで安定した足取りを示したのも、同じ理由によるものだ。
スポーツカーの古典的な名車を現代の技術で磨き上げ、徹底的にアップデートした感の強い8Cコンペティツィオーネ。日本市場に輸入される予定の70台分のオーダーリストは瞬く間に埋まってしまったという。その幸運な70人の未来のオーナーたちには、貴方の決断が間違っていなかったことをぜひ伝えておきたい。2260万円というスターティングプライスに見合うだけの価値はたしかにある。
と同時に彼らには、このスポーツカーが誕生した背景に数多くのクルマ好きと、アルファ・ロメオ開発陣のリアルスポーツカーに対する熱い思いが秘められていることを、決して忘れないでいて欲しい。
(文=加藤哲也/写真=フィアット・オート・ジャパン、Wolfango Spaccarelli/『NAVI』2007年12月号)

加藤 哲也
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