ラディカル SR4(MR/6MT)【試乗記】
脳内起爆装置 2008.01.17 試乗記 ラディカル SR4(MR/6MT)……1098万円(車両本体価格)
純粋なレーシングカーのフォルムをまとう英国車「ラディカル SR4」に、『CG』大谷秀雄が公道で試乗した。
『CAR GRAPHIC』2007年11月号から転載。
“公道を走るレーシングマシーン”
ラディカルという聞き慣れない名前。この英国のメーカーのことは、2006年のルマンに1台だけ出場した、LMP2クラスのラディカルSR9ジャッド(決勝20位)を憶えているレースマニアでもなければ、そう広くは知られていないはずだ。ところがラディカルによるワンメイク・レースは、いまや各国で盛んで、マシーンの完成度と高い戦闘能力が評判を呼んでいるらしい。
そのワンメイク・レースというやつ、英国の各サーキットで数種のチャンピオンシップが存在するのだが、それとは別にニュルブルクリング、ヴァレンシア、スパ、シルヴァーストーンを舞台に繰り広げられる「ラディカル・ワールド・カップ」が頂点に君臨するという図式が、ヨーロッパでは確立されている。
いっぽう国際色もゆたかで、アメリカ、オーストラリア、南米、南アフリカ、バーレーン、アラブ首長国連邦、マレーシアなどの各国でもチャンピオンシップがそれぞれ展開されているのだが、驚くべきはその実力。たとえばここで取り上げるSR4の上級モデルに当たるSR8(2.6リッターV8エンジン 363bhp)は、ブランズハッチとカドウェルパークのコースレコードを塗り替えたそうだし、ニュルブルクリングの北コース、ノルドシュライフェをなんと6分台でラップして、ロードリーガル・モデルのラップレコードを樹立したのだという。
そう、いまロードリーガル・モデルと記したように、われわれがステアリングを握ることができたSR4も、登録ナンバーを備えたれっきとした公道仕様で、使い古された言葉を用いれば、これは“公道を走るレーシングマシーン”なのだ。
鍵はスーパーバイク
ラディカル・モータースポーツ社がフィル・アボットとミック・ハイドのふたりによって、英国ケンブリッジ州のピーターバラに設立されたのは1997年というから、比較的まだ若い会社である。ワンメイク・レースがいまや各国にまたがることを考えれば、急成長を遂げているとも換言できよう。
現在は従業員80名以上に拡大し、エンジンからシャシーといった主要部品をすべて社内で設計・製作する能力を有しているというから驚かされる。これには少々説明が必要で、CNC制御による機械加工を行なうアミコンと、二輪のスーパーバイクのエンジン・チューナーであるパワーテックの2社を、急成長を遂げているラディカルは吸収し、2社から設備と技術者を取り込んだことでインハウスによる設計と製作が可能となったのだ。
では、なぜスーパーバイクのエンジンなのか? ここに創業者のひとりであるフィル・アボットが、ラディカル社を立ち上げようと思い立った動機が隠されている。さすがに2001年からEC圏では300km/h規制が布かれてしまったが、150ps以上の高出力と300km/hオーバーを誇ったカワサキのニンジャ、スズキの隼、ホンダのブラックバードなど、日本メーカーの1100〜1300cc級輸出モデルが海外で繰り広げた“世界最速スーパーバイク戦争”は記憶に新しい。おそらくアボットはこう考えたのだろう。
日本製バイクの直4エンジンはハイパワーでコンパクト、おまけに出来の良いクロースレシオ6段ギアボックスまで備えている。そのエンジンとギアボックスをまとめて、ミドシップに搭載してレーシングカーは製作できないものか。そうすれば非常に軽量で戦闘力の高いマシーンに仕上がるはずだ、と。それにバイクのエンジンは生産数が多く、また安価なので、万が一ブロウさせても部品の入手には困らないだろうし……。
そこで一介のエンスージアスト、アボットが抱いたコンセプトを実現させるべく、エンジニアのミック・ハイドと組んでレーシングカー・メーカーを設立するに至ったわけだ。
息をつく暇もない
いきなり話は1週間前に直撃した台風9号のせいで、荒れた雰囲気の伊豆山中へ飛ぶ。当日も雨が降ったり止んだり不安定な空模様で、霧も出ており、おまけに山側から土砂が流れ出ているコーナーも散見されて、およそこの手のマシーンに乗る条件とは思えない。
そんな憂鬱な気持ちを押し殺して、とにかく安全を第一に、と唱えながらコクピットに乗り込む。着座姿勢とドライバーから見える地上をなめるように低い風景は、まさしくレーシングカーのそれで、個人的には昔乗ったレーシングスポーツのRJロータリーを思い出してしまった(サーキットによって筑波ではRJ、鈴鹿ではRSと呼ばれた)。全長3660×全幅1630×全高1080mmのボディサイズからもたらされる車両感覚が、ちょうどRJをひと回り小さくしたように感じられるのだ。ラディカルのデザイナーであるピーター・エラレイは、2003年ルマンで優勝したLM-GTPのベントレー・スピード8にインスパイアされてデザインを決定したというが、要するにあれからルーフを取り去ったのだから、どおりでLMPマシーン風に仕上がっているわけだ。
ダッシュボード上の、カットオフ・スイッチの右脇にあるスターターボタンを押すと、フォン! ボーと低い音でアイドリングを始めた。二輪のインライン・フォア、それも排気量の大きなリッターバイクの典型的なエグゾーストノートで、SR4はスズキの1300ccかカワサキの1200ccを選べることになっているが、試乗車はカワサキZZR1200用の1164ccを搭載していた(正確に言えばキャブレター仕様のZZR1200用をベースにパワーテックがインジェクション化してラディカル向けに改めたもの)。最高出力は元の145.2psからアップして190ps/10500rpmと驚異的な数値を誇る。高回転型であり(二輪では特別なことではないが)、車重もZZR1200の236kgに対してSR4は490kgと2倍強に増しているため、その加速は11000rpmまで記されたタコメーターのバーグラフが半分を超すまでは、とくに瞠目すべき点はない。1600ccのユーノス・ロードスターと同程度だろうか。
ところが8000rpmを境にすべては一変する。小さなフェアリングしか備えないため、風圧がもろに顔面に当たって、ものすごいスピード感! それだけではない。8000rpmを超えた途端、エンジンは火が点いたロケットのように二次曲線的な鋭い加速を始め、圧搾空気式ポンプとアクチュエーターで変速を行なうステアリングのパドルシフトを3回引く間に、途方もないスピードに達してしまった。2速11000rpmで132km/hを確認した後、3速では速度計を見る余裕すらない。
ZZR1200の6段ドグミッションを流用しているので、クラッチペダルを踏まなくてもシフトアップが可能だし、パドルシフトは100ミリ秒の素早さで完了するから、加速Gはまったく途切れない。さらにギア比は非常にクロースしているため、タコメーターのバーが10000rpmあたりを指したまま(回転数の上下がほとんど見られない)、息をつく暇もなくシフトアップが繰り返され、速度だけがグングンと増していくという不気味な現象が起こる。
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比類なき存在
それにしても、これほど剛性感に溢れた鋼管スペースフレーム車に乗ったのは初めてである。不整路を通過してもミシリともいわないので、一部にカーボンモノコックを使っているのでは? と勘ぐりたくなったほどだが、とにかく認識を新たにさせられた。
SR4はレーシングカーであるから、サスペンション設定の自由度は高く、車高、ダンパー(12段階調整式)、スタビライザーはすべて調整可能だ。だから登録ナンバー取得のため便宜的に、最低地上高が100mmもの高さにセットされた状態でクルマのハンドリングを語ることは、憚れる部分がある。それでもあえて述べてしまうと、車高の件に加えてダンパーも最弱にセットされていたため、潤沢なサスペンション・ストロークと執拗に路面を捉える優れたロードホールディングが印象的だった。荒れた路面でグリップを断続的に失うような野蛮さは微塵も見られない。
コーナリングスピードが増すにつれて慣性でわずかに後輪が流れ始めたが、そこでスロットルを踏み込めばすぐにグリップを取り戻し、あとは前後方向の荷重の掛け方いかんでプッシュ・アンダーにも、軽いテールスライドにも転じる。とにかく適度に姿勢変化が起こるので挙動がつかみやすく、セミウェット路面に出会ったとしても自信を持ってラインを維持していられるのだ。1箇所だけ存在した大きなうねりではバンプステアを意識させられたが、これとて両手の力を抜いてステアリングを遊ばせてやれば、自然に安定を取り戻す方向へ収斂していく。この点からもシャシー・スタビリティの高さが垣間見えるではないか。
試乗車はいわゆるSタイヤ(ヨコハマ・アドバンA048)を履くためコーナリング中の横Gが高く、短時間の試乗でも首に軽い負担を覚えたし、ステアリングを切り込んだ途端にグッと操舵力が増すという、まるでレーシングカーがサーキットで見せるような経験をした。いや、もうすべてが本格的なのだ。果たしてこんな経験を公道上で味わわせてくれるクルマが、これまで他にあっただろうか。
(文=大谷秀雄/写真=荒川正幸/『CAR GRAPHIC』2007年10月号)

大谷 達也
自動車ライター。大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌『CAR GRAPHIC』の編集部員へと転身。同誌副編集長に就任した後、2010年に退職し、フリーランスの自動車ライターとなる。現在はラグジュアリーカーを中心に軽自動車まで幅広く取材。先端技術やモータースポーツ関連の原稿執筆も数多く手がける。2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー選考員、日本自動車ジャーナリスト協会会員、日本モータースポーツ記者会会員。
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