第22回:ドイツ車ファンに究極のママチャリ、ここにアリ!
2007.12.22 マッキナ あらモーダ!第22回:ドイツ車ファンに究極のママチャリ、ここにアリ!
シボレーと寺尾聰の関係
今やクルマのブランドネームを付けた自転車が多数ある。その始まりは、1990年代中盤のメルセデス・ベンツあたりからだったと記憶している。
ブームは、フェラーリとコルナゴのコラボレーションによるMTBとロードサイクルで頂点に達した。その“100万円マウンバ”は、ブランド好き日本人のツボを、故・波越徳治郎のごとく見事に刺激したのだ。エンスージアストの方ならご記憶のとおりである。
いっぽうで「シボレー」の折り畳み自転車は、ここ数年コンビニや銭湯前の一風景になった。おかげで、シボレーは自転車のブランドと信じている人もけっこう多いのではないだろうか。そうした人の増殖ペースは、俳優・寺尾聰が「ルビーの指環」で大ヒットした歌手であることを知らない人が増えているのと同じに違いない。
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今やお宝
ところで欧州の自動車メーカーには歴史上、先に自転車を製造していたところが多い。
代表的なものは、ご存知のとおりプジョーである。初めてプジョーの名を冠した最初の自動車は1889年であるのに対し、自転車はその7年前、1882年に誕生している(量産は1886年)。
しかし、前身が自転車メーカーであるクルマブランドの宝庫はゲルマン系である。オペルは創業時の製品こそミシンだが、1882年から自転車の製造を開始している。
また戦後に「アウトウニオン(アウディの前身)」に統合される「NSU」も同じで、1886年の「ジェルマニア号」自転車の製造が、そもそもの始まりだ。同社はやがてオートバイ、4輪へとステップアップしてゆくが、そのかたわらで自転車も戦後まで造り続けた。
面白いのはオペルやNSUの自転車は、ドイツで今もコレクターズアイテムとして珍重されていることだ。写真は今年6月、テュービンゲンにある「ボクセンシュトップ自動車&おもちゃ博物館」のイベントに乗りつけられた、クルマブランドの自転車たちである。
トリビアな知識としては、ダイムラーも戦前にベルリンの工場で自転車を手がけていたことである。1924年から1926年という短期間だが、メーカー資料によれば2万5000台が造られたという。シュトゥットガルトのメルセデス・ベンツ・ミュージアムに1台展示されているが、個人で所有している人がいれば、それこそお宝ものである。
これさえ乗れば、あなたも真正ゲルマン
今日、メルセデス、BMW、そしてアウディは、いずれもMTBをアクセサリーカタログに載せていて誰でも買い求めることができる。
だが、もう一発ひねった通な「はじめにチャリありき」系を求める向きには、こんな選択もあるというのが、ここからの話だ。
ひとつは「ヴァンダラー」である。簡単にいうと、これまたアウディのご先祖のひとつだ。現在のアウディは1932年に4つの会社が合併してできた「アウトウニオン」に遡ることができる。ちなみに今日まで続く4輪マークが、それを象徴するものであることは、ドイツ車ファンには今更説明する必要はなかろう。その4社のうちの1社がヴァンダラーだった。ヴァンダラーも自転車の製造が会社の始まりだった。
なお、現在販売されているヴァンダラー自転車はアウディとは関係ない。また、自動車部門をアウトウニオンに売却したあと、今日まで続く総合機械グループのヴァンダラーとも繋がりはない。1998年に大手通販会社との共同企画で復活した商品で、現在ケルンの会社によってオーガナイズしている。製品は、歴史に相応しいハイクオリティがセールスポイントである。
もうひとつの選択肢は、オーストリアの「プフ」だ。
「プフ」は戦前はダイムラーと手を組んでアウストロ・ダイムラーを製造、戦後はフィアットとともに「500」のオーストリア版も製造した。4駆のエキスパートでもあり、先代「フィアット・パンダ4×4」のテールゲートに「STEYER-PUCH」のバッジが付いていたのをご記憶の方も多いだろう。
こちらも現在そのブランドで自転車を製造しているのは、クルマとは関係ないフランスの専業メーカーであるが、やはりプフも創業者が19世紀末に最初に手がけたのは自転車であった。したがって、これも紛うことなき「はじめにチャリありき」系なのである。
ヴァンダラー、プフともに共通なのは、フレームデザインといい色使いといい、漂う骨太ムードは、同じ自動車系でもメルセデス、BMWのものとは一線を画すということだ。伝統的なエンブレムも嬉しい。この自転車に乗って買い物に行ってライ麦パンを買えば、誰でもゲルマンなおばちゃんになれること間違いなしだ。
遂にご当地ブランド登場?
ところでボクが住むイタリアの街シエナのショーウインドウに数年前、黄色い自転車が飾られていた。フレームには「コンソルツィオ・アグラリオ・ディ・シエナ」と書いてある。イタリア語でシエナ農協のことだ。見上げれば、そこは農協直営のスーパーマーケットだった。
その自転車はしばらくディスプレイされていたが、ある日忽然と消えた。街で走っている姿も見たことがない。農協に勤める知人ルカ氏に、あれはその後どうなったのか、引き合いがあったのか尋ねたが、本人はノーコメントを決め込んだ。
ブランドもの自転車だからといって、何でもかんでも良いというわけではない、ということだ。今年の年末あたり、行き場のなくなった黄色い自転車が、職場のクリスマス会でルカ氏に当たってしまうことを密かに期待している。
(文=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA/写真=大矢アキオ、Zwei plus zwei)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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