第344回:コージの考察「新型GT-Rはなぜウケてるのか?」
それは“スーパーカー日本代表”だからである!
2007.12.06
小沢コージの勢いまかせ!
第344回:コージの考察「新型GT-Rはなぜウケてるのか?」それは“スーパーカー日本代表”だからである!
サッカーもスポーツカーも本質は似ている
「日産GT-R」、かなりキてます。
ごらんの通り、先日、前代未聞の“未完成の首都高山手トンネル”でのイベントが行われ、女優の米倉涼子ちゃんも来て盛り上がったわけだけど、そこで改めて思ったなぁ。「いいクルマには必ずストーリーがある」って。
正直言うとオレ、新型GT-Rに対しては冷めてた部分があるのね。たしかに最高出力480psでトランスアクスルのフルタイム4WD、最高速はオーバー300km/hで素晴らしく速くてデキがいいのはわかる。だけど、それが日本でどんな意味があるのかなぁと。良くてもその性能を引き出す場所がないじゃないか、と。
さらにいえば、2005年のモーターショーで発表された「GT-Rプロト」とほぼ変わらないままのエクステリアデザインにもあまりピンとこなかった。「これってホントにカッコいいの?」と。当初の「日本のスーパーカー」っていうフレーズも、あまり心に染みるものではなかった。
ところが今、だんだん染みてきてるんです。
それはまず東京モーターショーであれだけ熱い支持を得ていたことがきっかけ。最初はてっきり、一部のクルママニアにだけウケてると思ってたんだけど、まったく違うんだなぁ。会場で聞くとクルマ好きはもちろん、いまどきの大学生、それも男性のみならず女性にも支持されており、ことによっては子供にすら注目されてる。だから「なんなんだこの熱さは……」とずーっと考えていた。解せなかった。
しかしふと気付いたのだ。これは“サッカー日本代表に対する熱さ”と全く同じなのだと。
GT-R現象を、単に“世界に冠たるいいクルマが出た”と分析していてはいつまでたっても見えてこない。そうじゃない。“日本人が日本人だと誇れる強いクルマ”と考えるとすべてのツジツマがあうのだ。
スーパーカー日本代表は美しすぎてはいけない
日本人は今も昔もコンプレックスの塊である。おそらく人口の9割はろくに英語がしゃべれず、外国に行くと怖じ気づき、日本に戻ってくると「ダメなところもあるけどやっぱりいい国だなぁ」と落ち着く。和む。まさしく“島国”だ。徳川時代となんら変わらない。
つまり俺達日本人の変わらぬ最大のテーマは「日本って世界のどのへんにいるんだ?」「ホントはどのくらい強いんだ?」ってことで、だからこそ松坂大輔の一挙手一投足に注目するわけだし、野球のオリンピック代表に一喜一憂するんだし、イチローにも惜しみない喝采を送るわけである。
ようは、そういう世界に通用しそうな“日本代表的存在”に無意識的に、俺達は弱いわけだよね。老若男女かかわらず。
そう考えると、「GT-R」はスポーツカーの日本代表であり、イチローであり、中田であり、野茂であり、星野仙一であり、古くは輪島功一であり、水泳の古橋であり、力道山なんだよね。それは性能的にもスタイル的にも。
そもそもオレは“日本のスーパーカー”ってどうあるべきなのかをずっと考えていた。エンジンは12気筒であるべきか? スタイルはフェラーリ、ランボのような超スーパーカースタイルがいいのか? 駆動方式はミドシップ、それともFR? などなど。
その“日本のスーパーカーとはどうあるべきか?”の過程で「ホンダNSX」などもあったんだと思う。ところが正直オレ的にはいま一つだった。デキはいいが、スタイルは明らかにフェラーリルックだし、基本横置きFFをひっくり返しただけのレイアウト。感激が長持ちせず、強いシンパシーが得られない。
そこでGT-Rである。オレはモーターショーの時に日産デザイントップの中村史郎さんが言った言葉が忘れられない。「GT-Rは単にカッコいいでも美しいでもない。GT-Rにしかできないデザインなんですよ」と。
そうなのだ。GT-Rは批判を恐れずに言えば、“カッコよくも美しくもない、単に迫力があるだけ”のデザインである。でもだからこそオレたちはGT-Rに感動し、シビれるわけで、それこそがGT-Rの魅力なのだ。
GT-Rの起源は“コンプレックス”
そもそもGT-Rは最初っからそうだった。ようするにGT-Rの起源は“コンプレックス”にあるのである。
GT-R神話の最初、1964年の日本グランプリで登場した「スカイラインGT」は、スカイラインセダンのボンネットを無理やり延ばし、上級車「グロリア」の2リッター直6をゴーインにぶち込んだ奇形だった。ワイルドで魅力的だったが、ポルシェやフェラーリなどの海外の本格スポーツカーに比べて美しくもカッコよくもなかった。ところがそいつが一瞬とはいえ「ポルシェ904」を抜いた。戦争で負けたばかりでコンプレックスの頂点にいた日本人の血が一瞬燃えたぎったのだ。
それはまさしくブラジルに中村俊輔がゴールを一発決めた瞬間と同じであり、古くは輪島功一がカエル跳びで外人選手を破り、世界チャンピオンに輝いた瞬間と全く同じである。
つまり、日本のチャンピオンは美しすぎてはいけないし、本格的すぎてもいけないのだ。というか“アングロサクソン”っぽかったり、“ゲルマン”っぽくてはいけない。アジア人特有の体格不足、パワー不足というハンディを乗り越え、技術とテクニックで世界を看破していく。そこにこそエクスタシーがあり、カタルシスがあるのである。
そういう魂のストーリーからいくと、GT-Rはやはり日本のスーパーカーとしてふさわしい。よくあるクサビ型でも流線型でもなく、V12はおろか、V10エンジンすら積まない。基本3.8リッターV6エンジンのFRで、それをターボと4WD技術で練り上げ、世界に相対していく。そういう存在こそが“日本人らしい”スーパーカーなのだ。
そういう意味では米倉涼子ちゃんを「スーパーカーなオンナ」として評するのは正しい気がした。どうやらモーターショーだかどこかでのアンケート結果らしいが、本当にそう思う。
彼女は美しいし、スタイルも良い。でも、欧米のスーパーモデルと比べるとどうか。正直、見劣りするはずだ。
だが、彼女には芯に秘めたる強さがある。ある意味、日本の女子バレーボール選手にも共通する“強い日本女性”のイメージだ。だからこそGT-Rがよく似合うんだと思う。
ってなわけで新型GT-Rには確実にストーリーがある。それも1960年代から繋がるストーリーがある。だからこそシビれるのだ。
一瞬、数年前にスカイラインが直6エンジンからV6エンジンに変わった時、その神話は途絶えたような気もしたが、GT-Rを見てやっぱり繋がってると確信した。
いいクルマには性能だけじゃない。ストーリーが必要だ。そうでなければ存在する意味も作る意味もない。改めてそう思いましたね。
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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