アウディA6アバント 2.8FSIクワトロ(4WD/6AT)【ブリーフテスト】
アウディA6アバント 2.8FSIクワトロ(4WD/6AT) 2007.12.03 試乗記 ……781.0万円総合評価……★★★★
ミドルクラスワゴン「アウディA6アバント」の4WDモデルに、2.8リッターモデルが追加された。ただし、エンジンは最新型。
一体、どんな走りを見せるのか?
ふところに新兵器
ドイツ車といってもいろいろある。個人的な感想を述べれば、アウディとBMWは他と違う部分が多いように思えてならない。だから最近この2ブランドを出すとき「南ドイツ車」という表現を使うようにしている。
たとえば新技術を導入したときも、北のブランドは「これでもか!」とアピールしまくるのに、南の2社はまるでフランス車のように、あっさりアナウンスするにとどめることがある。
今回乗った「A6アバント 2.8FSIクワトロ」もそうだった。「アウディ・バルブリフトシステム」と呼ばれる同社初のメカニズムが投入されているのだが、それよりも「A6に2.8リッターのクワトロが追加された」というメッセージのほうが強く響いてくる。しかも乗ったのは発表前。僕は2段階可変のバルブリフト機構が搭載されていることに気づかぬまま、試乗を終えてしまった。でも裏を返せば、存在に気づかないのはテクノロジーの完成度が高い証拠でもある。
A6アバントに、3リッター以下のクワトロ、700万円以下のクワトロが加わったことは、メルセデス・ベンツやBMWなどのライバルとの比較で、大きな武器になる。そこにさりげなく新兵器を仕込む。南独生まれらしいインテリジェンスが感じられるニューモデルである。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
「A6」は、1997年にデビューした、ミドルクラスのアウディ。現行モデルは6代目にあたるモデルで、2004年7月(ワゴン版「アヴァント」は2005年6月)から日本で発売された。
台形の「シングルフレームグリル」を特徴とするスタイリングは、日本人デザイナー和田智氏の手によるもの。従来よりアグレッシブにスポーティを主張する一方で、人間性を盛り込んだと謳われる。
現在のラインナップは、2.4リッターV6を搭載するFFの「2.4」、4WDの2.8リッターV6モデル「2.8 FSIクワトロ」、3.2リッターV6モデル「3.2 FSIクワトロ」、4.2リッターV8モデル「4.2 FSIクワトロ」の4種類。トランスミッションは「2.4」のみCVTで、その他は6速ティプトロニック仕様となる。
(グレード概要)
試乗車「A6アバント 2.8FSIクワトロ」は、現行モデルのデビューから3年後の2007年8月に追加された、A6ファミリーの中間モデル。新型の2.8リッターV6直噴エンジンは、バルブコントロール技術「アウディバルブリフトシステム」を搭載し、210ps、28.6kgmを発生する。
さらに、摩擦抵抗を減らしたことで、燃費は従来型の2.8リッターV6エンジンに比べ10%向上したという。タイヤは、245/45R17に15スポークアルミホイールが備わる。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★★
ウッドパネルをアルミの細い枠で囲むなど、アウディならではの超緻密な仕立ては、ひとつ上の3.2FSIクワトロと同じ。装備も資料を見た限り大差はない。明るいベージュの2トーンはさわやかな印象。しかも上品で落ち着いている。このあたりは他のジャーマンプレミアムブランドには出せない味だ。センターコンソールのスイッチ群は、ブラインドタッチには慣れが必要だった。
(前席)……★★★★★
試乗車はオプションのSEパッケージを装備していて、スタンダードではファブリックのシートが、ミラノレザーと呼ばれる本革張りになっていた。低めのヒップポイント、ドイツ車としてはやさしい着座感は他のアウディに共通する。上半身のサポートがルーズなことを除けば、座り心地に不満はない。個人的にはメルセデスやBMWのシートより心地いいと思う。
(後席)……★★★★★
こちらも他のアウディがそうであるように、低く座らせる。ただし座面も背もたれも傾きを大きくとってあるので、ももの裏が浮くことはなく、くつろいだ姿勢がとれる。ボディサイズに余裕があるから当然だが、身長170cmの自分が前後に座ったとき、ひざの前には15cm以上ものたっぷりした空間が残る。欲をいえば、後席専用のエアコンスイッチが欲しいところ。
(荷室)……★★★
アウディのアバントは容積重視のワゴンではない。現行A6もそうで、奥行きはたっぷりしているがフロアの高さや左右の幅はそれなり。トノカバーは手動の巻き取り式で、「BMW550iツーリング」など電動のライバルに比べると見劣りする。フロア左右にレールを埋め込み、フックやバーやストラップを自在に固定できるのはA6アバントの特徴のひとつ。見た目はスタイリッシュだが、移動にはややコツが必要で、小柄で手の短い日本人は奥に設置するのがタイヘン。大柄なヨーロッパ人が作ったクルマであることを痛感する。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★★
2.8リッターV6エンジンは、210ps、28.6kgmという数字でわかるように、ことさら高性能を求めたものではない。しかも試乗車は1860kgもあるから、力に余裕があるわけではなく、キックダウンやフルスロットルの機会は多い。それが不満というわけではなく、むしろ限られた力を効率的に使っている点で好感が持てる。最初に書いたように、新技術である「アウディ・バルブリフトシステム」の作動は、存在に気づかないほど自然だった。
3.2リッター版と比べると吹け上がりは軽やかで、上までよどみなく回る。音は緻密で、しかも押さえ込まれており、聞きほれるタイプではないが、アウディっぽいし、ワゴンにはふさわしい。100km/hはDレンジで2000rpm。6速ATはスムーズではあるが、反応はおだやかで、先を急ごうという気にさせないのがドイツ車としては異例だった。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
低速では245/45R17サイズのタイヤによると思われるゴツゴツ感が気になる。50〜60km/hあたりまで上げるとそれが消え、まろやかになるが、2.8リッターの4WDにここまで太いタイヤが必要なのだろうか。細いほうが走行抵抗を低減し、環境性能を向上させるのでスマートだと思う。試乗車は、オプションの「アダプティブエアサスペンション」を装着。以前コイルスプリング+細いタイヤのA6アバントに乗った経験からいえば、そちらでも不満はなかった。
ステアリングはやや人工的な重みを持つ。切ったときの車体の動きはおだやかだが、車格を考えれば妥当な反応だろう。その後はクワトロならではの磐石のスタビリティに支配されるけれど、曲がりを拒むわけではなく、アクセルを踏むと後輪駆動車のように旋回を強めながら脱出していく。4WDのデメリットは感じさせず、メリットだけを享受できるハンドリングである。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:森口将之
テスト日:2007年8月24日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2007年型
テスト車の走行距離:1617km
タイヤ:(前)245/45R17(後)同じ(いずれも、ダンロップ SP SPORT MAXX)
オプション装備:SEパッケージ(ミラノレザー本革シート、前後席シートヒーター、電動サンブラインド、アウディパーキングシステム)(35.0万円)/リアビュー付きAPS(20.0万円)/アダプティブクルーズコントロール(28.0万円)/アダプティブエアサスペンション(32.0万円)/オートマチックテールゲート(9.0万円)/オプションカラー(パールエフェクト/3.0万円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1):高速道路(8):山岳路(1)
テスト距離:528.6km
使用燃料:71.1リッター
参考燃費:7.43km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
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