アストン・マーティンV8ヴァンテージ(FR/2ペダル6MT)【試乗記】
格闘あるのみ 2007.11.26 試乗記 アストン・マーティンV8ヴァンテージ(FR/2ペダル6MT)……1624万4450円
MTのみだった「アストン・マーティンV8ヴァンテージ」に、オートマ感覚で運転できる2ペダルMTモデルが追加された。“ベイビー・アストン”たる2座スポーツモデルとの相性を検証した。
まさに王道
「アストン・マーティンV8ヴァンテージ」は、このクラスのスポーツカーを選ぶ時に、絶対に外せない候補車の1台である。
1.6トンの軽量アルミボディ、大排気量で自然吸気のV8エンジン、トランスアクスルによる前後重量配分など、スペックだけ見てもFRスポーツカーの王道をゆく。
過去、某自動車専門雑誌の長距離テストで1500kmほどを一気に走ったことがあり、繊細にして豪快な走りを大いに堪能した。その記憶は今も鮮明に残っている。今回のクルマは2ペダル式MT車ということで、さらなる拡販が予想されるが……。気軽にサインして1500万円が払える人を対象とするならば、「マセラティ」にしても「ポルシェ911」にしても、セールスマンは、さして内容を気にすることなく高価なほうのATを勧めるだろうな、とは思う。
でも、ヴァンテージはMTを選んだ方がいい。クラッチミートの繊細な感覚は、このスポーツカーを操る快感を、より味わい深くするからだ。
機械まかせにしたくない
今回の試乗車では、車庫入れやUターンの際など、微速で動かす際に何度かクラッチフェーシングの焼ける臭いを経験した。この手の油圧で制御する自動クラッチの場合、微小に滑らせる半クラッチ状態にすることは、機械にとって過酷なことだ。
この個体に限った調整不足であるのかも知れないが、少なくともフェラーリやマセラティでは経験したことがない。ギアボックスが後方にあって、クラッチに対する負荷が大きい構造であるから、他はもっと巧くやっているのかもしれない。この点、ドライバー自らクラッチ操作をするMTならば、何の問題もない。微小のミートを断続しつつ惰性を利用すればいい。
これは何もアストンのオートマ化が技術的に劣っていると非難するわけではない。多分、ユニットのサプライヤーは、どれも同じような出所だろうと思う。
筆者が言いたいのは、それほどクラッチミートが繊細であり、スムーズに転がすことが喜びでもあるということ。発進時のみならず、シフトアップ&ダウンの際にも、それは言える。
この楽しみを機械なんかに任せてなるものか……という気がする。
この発進時の微妙な部分を除けば、あとはもう普通の2ペダルMT車と同じく気楽に過ごせる。だからスタイリングに惚れ、英国車の趣味性が気に入り、ドイツやイタリアの風土が肌にあわず、と言ってそれほどドライビングそのものに興味を示さない人であれば、ヴァンテージにATモードで乗ることを止めはしない。
MTで乗るべきクルマ
1.6トン級の軽量ボディと言えば、2リッタークラスの身軽さを想像すればいい。そこに380psが伝えられ、駆動輪荷重も前輪より40kgほど大きいとなれば、めったにホイールスピンすることなく、パワーは有効に路面に伝えられる。駆動力が勝ってプッシュアンダーになりにくいのは、もちろんフロントノーズにエンジンがあるからで、操舵輪荷重と駆動輪荷重のバランスは絶妙といえる。
とはいえ、ステア特性として完全にニュートラルなわけではなく、最終的にはアンダーステアに躾けられている。
くどいようだが、MTとATの違いは、単にスロットルオン/オフによる前後Gの感覚だけではなく、クラッチミートの度にクンッ、クンッ、と節度のある“Gの段差”が感じられるか否かにある。滑らかな変速は、逆にパワーが伝わる快感をスポイルしている場合もあるということを知るべきだろう。
指先の動きひとつでパワーをスイッチするよりも、クラッチを放した瞬間に感じられるパワー断続の感触のほうが、大排気量NAエンジンの醍醐味として上等なもの。右足の踏み込む感触に対して、相応な数の“馬”を駆り立てているという実感があるのだ。
たとえば雪道などの低ミュー路では潔くESPをオフにして、瞬時にホイール・スピンを誘ってオーバーステアを楽しむにしても、あるいは危険回避するにしても、ATでは成しえないテクニックが使える。
スポーツカーに対して「スタイリングやスピードそのものを楽しむクルマ」という認識しかないとしたら、それは代価の半分も楽しみを享受していないことになる。スポーツカーは、両手両足を総動員して、クルマと格闘することが面白い。エンジンのパワーでタイヤをいじめてこそ面白いのだ。
「アストン・マーティンV8ヴァンテージ」は、絶対MTで乗るべきクルマである、と思う。
(文=笹目二朗/写真=峰昌宏)

笹目 二朗
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