ベントレー・コンチネンタルGTC(4WD/6AT)【試乗記】
踏めば無敵、流せばステキ 2012.02.19 試乗記 ベントレー・コンチネンタルGTC(4WD/6AT)……2934万9900円
2代目に進化した「コンチネンタルGTC」が日本に上陸。ベントレーの最新オープンモデルに乗るリポーターは、あの法則を思い出していた。
偉い人はエバらない
こういう仕事をしているおかげでホントだったら絶対に会えないような方々にお会いすることができて、自分は誠に幸せ者です。
アスリートからアーティスト、研究者のみなさんなどにお話をうかがって、ひとつの法則が見つかった。それは、「偉い人ほどエバらないの法則」だ。もちろん例外もあるけれど、「あー、なんでも聞いてよ、なんならメシでも食いながら話そうよ」なんて、初対面のフリーライターに対してとってもフランクなのだ。しかも、「話はこれで足りてる? コーヒーお代わりもらおうか?」てな具合に、気配りが細やかで腰も軽い。
昨年日本に入ってきた2代目「ベントレー・コンチネンタルGT」に続いて登場したカブリオレ仕様「コンチネンタルGTC」にも、「偉い人ほどエバらないの法則」があてはまる。乗り込んだ瞬間スッと体になじんで、初対面なのに昔からの知り合いだったような気にさせるのだ。
車両本体価格2640万円、オプションだけで300万円に達しようとする超高級車にして、このとっつきやすさは何!?
乗り手に緊張感を与えない理由のひとつは、視界がよくてボディーの四隅が把握しやすいからだ。実際、バカでかいクルマじゃない。迫力ある顔つきとベントレーという名前のせいで大きく感じるけれど、全長は4806mmだから「レクサスGS」より4cm以上も短い。
インテリアのレザーやウッドは、見ても触ってもため息が出るものの、意匠やレイアウトそのものはオーソドックス。無理に新しく見せようとか、高く見せようとする恣意(しい)が感じられない。要はガンバった感じがしないから、リラックスできる。
センターコンソールのシフトセレクター左下のスターターボタンを押すと、6リッターW12ツインターボエンジンが「ボン」と低くて乾いた音とともに、始動する。
余裕あるパワーを、洗練の方向に使う
W12気筒ツインターボユニットが、従来型プラス15psの575psを発生するのは、先に導入された「コンチネンタルGT」と同じ。このスペックからはモンスターを想像するけれど、さらっと流す程度なら野蛮さとは無縁。実に繊細な印象のエンジンだ。アクセルペダルにそっと力を込めるだけで、トルクがきめ細やかに湧いてくる。
71.4kgmという強大なトルクをわずか1700rpmから生むという余裕を、「どないだー!」というベクトルにではなく、洗練させる方向に使っている。アクセルペダルを踏みながら感じるのは、速く走っているとか力強く走っているということではなく、軽やかに走っているという感覚だ。
ZF製の6段ATもいい仕事をしていて、変速のショックをまったく感じない。後でプレス資料をめくると、「シフトタイムをわずか200ミリ秒に半減する」とあった。200ミリ秒って何秒? という感じではあるけれど、ドライバーの実感としては気付かないうちにシフトしている。それだけ素早くてスムーズだ。
ただしシフトパドルに手を伸ばすと、アレっということになる。ステアリングホイールのグリップ部から遠く離れた場所にシフトパドルがあるので、操作しようとするたびに手のひらが「結〜んで〜、開い〜て♪」の動きになるからだ。だからマニュアルシフトは、シフトセレクターを前後して行う。
ステアリングホイールの手応えは、軽い部類に入る。しかもただ軽いだけでなく操舵(そうだ)感がナチュラル&スムーズで、しかもクルマとタイヤがいまどういう状態にあるのかをドライバーに逐一報告してくれる。
シフトパドルを除けば、ステアリングホイールを切るフィーリングとアクセルペダルを踏み込む感覚が、見事に統一されている。どちらも同じくらい細やかなタッチで、意識しなくても丁寧に操作するように作られている。
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お金で買える桃源郷
センターコンソールのスイッチを押すと、タッチスクリーンに4段階でダンパーの硬さが表示される。面白いというかすごいのは、1番スポーティーなポジションにセットしても乗り心地がまったく荒っぽくならないことだ。乗り心地はふんわりしなやかなまま、ロールだけが減る。不思議だ。
だったら1番スポーティーなセッティングだけでもいいのではないか。と、思ったので、試乗中はこのセッティングで通した。まあ、2時間の試乗だったからそう感じたけれど、ありとあらゆるシチュエーションを経験すれば、コンフォータブルなセッティングの出番もあるのかもしれない。
80km/h程度までのスピードなら風の巻き込みはまったく気にならない。「強・中・弱」の3段階で調節できる、首筋に温風を吹いてくれるネックウォーマーは強力で、寒風がぴゅーぴゅー吹きすさぶ中でも「強」だと強すぎるくらい。「弱」でも十分快適だ。
アクセルペダルを踏み込めば、フルタイム四駆システムが超絶パワーを1粒残らず地面にこすりつけて、地面に貼り付きながら強烈に加速するという得難(がた)い経験ができる。しかも曲がった道が不得手かといえばそんなことはなく、すーっと上品に向きを変えて、オン・ザ・レールでスムーズに旋回する。
間口が広くてとっつきやすいのに本気を出すとすごいというのも、「偉い人ほどエバらないの法則」の方々と同じだ。
エンジンからステアリングフィール、乗り心地までカシミヤみたいに軽くて柔らかくて暖かい。しかも首筋ぬくぬくのオープンエアが楽しめて、飛ばしたければお好きなように。
ひとことで言えばクルマ好きにとっての桃源郷だ。2000万円だろうが3000万円だろうが、桃源郷がカネで買えるのなら安いものだ。
(文=サトータケシ/写真=高橋信宏)
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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