フィアット500(FF/6MT)【海外試乗記(前編)】
後から前へ(前編) 2007.10.08 試乗記 フィアット50050年ぶりのフルモデルチェンジとなる「フィアット500」。2007年7月4日、ちょうど50年が経つその日に執り行われたワールドプレミアは、その長い歴史に引けをとらないものだった。
壮大なスケールのワールド・プレミア
ポー川ほとりのトリノ・ムラッツィ地区、ヴィットリオ・エマヌエーレI世とウンベルトI世というふたつの橋の中間地点に、川の流れを遮断するように浮き輪を使って設置された巨大な架設ステージ。ヌオーヴァ・チンクェチェントの発表からピタリ50年がたった、1957年のあの日と同じ7月4日を選び、現代のフィアット500のワールドプレミアが開かれた。
夜10時30分、ステージに現われた旧500ジャルディニエラの消防車の中から司会者が降りてくると、そこからは驚きの連続の、まさに“ショー”と呼ぶに相応しい発表会の始まりであった。
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まるで祭りのよう
2004年のジュネーヴショーでフィアットが世に問うた「トレピウーノ」が、ようやく日の目を見た!このワールドプレミアは、昨年冬季トリノ・オリンピックの開会式と閉会式を演出したマルコ・バリチが演出するだけあって、映画「甘い生活」あり、マリリン・モンローの歌う「ハッピーバースデイMr.プレジデント」ならぬ“チンクェチェント”あり、ビートルズあり、グラミー賞受賞歌手のローリン・ヒルのコンサートあり、といった水上劇と盛大な花火が織り成すスペクタクルで、集まった約1万2000人の観客も度肝を抜かれた様子だ。むろん甘い生活やモンローなどは旧500時代の世相を回想してのこと。そして午前0時を過ぎた頃、突如、日本人の感覚からするとあまりにも至近距離の頭上で花火がえんえんと鳴り響き、ついに新生500がお披露目となった。
この日は日中から、ヴィットリオ・ヴェネートやカステッロ、サンカルロなど計5ヵ所の広場に、各地からチンクェチェントが大挙して集まって500の誕生を祝い、そこではコンサートや写真展、画家アントニオ・アイモネが1968年に描いた500Fのイラストを用いた記念切手の販売と消印スタンプ会(記念切手セットは14ユーロもした)などが催されて、夜のワールドプレミアを待ちわびていたのである。
“カワイイ”をきわめた
明けて7月5日の朝9時30分、オリンピック・スタジアムのパライソザキへ出向き、内部にあるアイスリンク上にステージを組んで催されたプレスコンファレンスに参加する。間近で見るフィアット500は、見る人誰をもニヤリとさせる不思議なオーラを発しており、それにやられて、こちらの気持ちも和んできた。
ポケモンやキティなど“カワイイ”を武器に世界を席巻するのは日本人の専売特許かと思っていたら、イタリア人もなかなかやるじゃないか(500のウェブサイトの中に出てくるダンテと名付けられた、500のフロントマスクをカリカチュアしたキャラクターも同系列のものだ)。デザイナーのロベルト・ジォリットはトレピウーノも手がけた人物で、44歳といま脂の乗った時期にある。
そのトレピウーノは、助手席を前進させれば後席にも1名が座れる“3+1コンセプト”を売り物としていたが、もちろん今回の500では見送られ、通常の4座となる。500は、プラットフォームを共有するパンダとホイールベースも同じ2300mmで、5:5分割のシングルフォールディングの後席や、前席の座面を跳ね上げると収納ボックスが現われるなどシートアレンジも踏襲している。全長3546×全幅1627×全高1488mmというボディサイズは、パンダよりも11mm長く、37mm広く、47mm低い。乗車定員もやはりパンダと同じく4名である。
3モデル、3エンジン
フィアットS.p.A.のCEO、セルジオ・マルキオンネがプレスコンファレンスで「日本車を凌ぐ製品クォリティを達成した」と自信のほどを窺わせただけあって、インテリアの仕上げは上々で、オリジナルのチンクェチェントのモチーフが取り入れられているのも嬉しい。
外周にスピード、内周にタコメーターを同軸上に据えた大径メーター、またダッシュボードをボディと共色のパネルで覆う手法などが、それである(もっとも旧500にはタコメーターは備わらず、シフトアップを推奨する速度目盛りの内側に1、2、3速とポイントを印していた)。いっぽう現代的な機能に“Blue&Me”があり、Bluetooth通信によるハンズフリー、音声認識機能のほか、センターコンソールに備わるUSBポートを使ってMP3プレーヤーや日本ではすでに廃れてしまったSMS(ショートメッセージサービス)を接続できる。これがさらに上級の“Blue&Me”Navになるとテレマチック・システムが加わる。
設定されるモデルはベーシックな「ポップ」、スポーティな「スポーツ」、豪華仕様の「ラウンジ」の3種。しかしボディカラーが12色、ホイールが9種、ボディデカールが19種も用意されるうえ、他に100種のアクセサリーまでも含めると、その組み合わせは54万9336通りにも達するというから、まさに元祖“国民のためのクルマ”の面目躍如といったところである。
おっと、紹介が遅れたが、フロントに搭載される直列4気筒ユニットにも3種あり、ガソリンが1.2リッターと1.4リッターのファイア・エンジン、ディーゼルターボが1.3リッターのマルチジェットとなる。日本に導入される予定のガソリン・エンジンに焦点を絞って述べると、1.2リッターSOHC 8Vはパンダで、1.4リッターDOHC 16Vはグランデプント・スポーツ16Vですでにお馴染みの存在ながら、新たに電子制御スロットルや、タイミングギア系の軽量化と低荷重タイプのバルブスプリングを採用してフリクションの低減に努めている。
とくに1.2リッターは燃焼室形状の見直しと連続可変バルブタイミング、高圧縮化(9.8→11.1)によって69ps/5500rpm、10.4kgm/3000rpmを得ている。そして1.4リッターのほうは100ps/6000rpm、13.4kgm/4250rpmを発生しており、前者はパンダから9ps、後者はグランデプントから5psアップに当たる。3エンジンともユーロ5基準に準拠するエミッションを達成していることも、新生500の自慢のひとつだ。(後編に続く)
(文=CG大谷秀雄/写真=Fiat Auto Japan/『CAR GRAPHIC』2007年9月号)
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