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第233回:メーターのデザイン「保守反動化傾向」に渇―ッ!

2012.02.24 マッキナ あらモーダ! 大矢 アキオ
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第233回:メーターのデザイン「保守反動化傾向」に渇―ッ!

メーターの数が高級車の証

バイオリニスト葉加瀬太郎氏がまだクライズラー&カンパニー(KRYZLER & KOMPANY)のメンバーとしてバンド活動していた頃、コンサートの合間ネタに「宇宙戦艦ヤマト」というのがあった。要は、同アニメにおける登場人物のセリフだけでなく擬音まで忠実に口で再現しながら、波動砲発射までを演じるというものであった。

葉加瀬氏は1968年生まれ。同世代ゆえ、ボク同様「ヤマト」に熱中したのは想像に難くない。そのヤマトのビジュアル的魅力のひとつに「操舵(そうだ)室」があった。巨大なディスプレイが頭上に広がる下、さまざまな電子計器が並び、宇宙の中で光を発していた。そのハイテク感にしびれ、夢見た少年は少なくないはずである。

多くの男子は、計器類を好む。ということで、今回はメーターのお話である。クルマの世界には長年、「高級車ほどメーター類が多い」という、いわば法則があった。それは戦前の高級車を見れば明らかで、高度計まで備えたモデルも数々あった。1960〜70年代にも、メーターに関するちょっとしたお約束といえるものがあった。

デラックス仕様は、速度計、回転計、そして燃料計やオドメーターを包括したコンビネーションメーターなどが並んでいたのに対して、スタンダード仕様は、回転計がなく、かわりに巨大な時計が収まっていたり、黒いフタがはまっていたものだ。
ちなみにフタはカメラのレンズキャップ以上に貧弱で、車名や意味不明の星型マークが刻まれていた。「ほーら、高いグレードを買わないから、こういうことになるんだよ」と無言の仕打ちをしている感じだった。

つまりメーターの数を見れば、そのクルマのグレードがわかったのである。特にスポーツカーは、コンビネーションメーターのひとつひとつを独立させたり、油圧計や時計を加えたりして、ずらりと並んでいるメーターが高性能の証しだった。

「ベルトーネ・ランチア・ストラトスHFゼロ」(1970年)の計器類。42年前の作品とは思えない未来感覚を見よ。
「ベルトーネ・ランチア・ストラトスHFゼロ」(1970年)の計器類。42年前の作品とは思えない未来感覚を見よ。 拡大
「イタルデザイン・カプスラ」(1982年)。メーターをステアリングコラムの中に包括してしまう画期的アイデア。
「イタルデザイン・カプスラ」(1982年)。メーターをステアリングコラムの中に包括してしまう画期的アイデア。 拡大
「ベルトーネ・ランボルギーニ・アトン」(1980年)。
「ベルトーネ・ランボルギーニ・アトン」(1980年)。 拡大
「シトロエンCXプレスティージュ」(1975年)
「シトロエンCXプレスティージュ」(1975年) 拡大
「シトロエンBX 14 RE」(1982年)。プラスチックをプラスチックとして見せる潔さよ。
「シトロエンBX 14 RE」(1982年)。プラスチックをプラスチックとして見せる潔さよ。 拡大
市販日本車初のデジタルメーターを装備した初代「トヨタ・ソアラ」。
市販日本車初のデジタルメーターを装備した初代「トヨタ・ソアラ」。 拡大

路上を走る「ヤマト」

ただしぶっちゃけた話をすると、ボク自身は少年時代、メーターの「数」には興味がなかった。それは回転計はおろか水温計や油圧計の存在意義がわからなかったことに加え、メーターが多数あることは「このクルマは常時監視していないと危ないですよ」と言っているようなものに感じたのだ。
それよりも、イタリアのカロッツェリアがコンセプトカーで試みた、グラフィックを使った斬新なメーターや、数字が記された円筒がクルクルまわるシトロエンの「CX」や「BX」のメーターデザインに魅力と未来を感じたものだ。

そうしたところに登場してきたのが、1980年代の電子計器ブームである。単純なボクだ、特に1981年に登場した初代「トヨタ・ソアラ」や「いすゞ・ピアッツァ」のデジタルメーターは、「路上を走るヤマト」だと思った。
だから欧州ブランドのカタログで、いくら従来型メーターが視認性に優れていると説かれていても、免許をとったらデジタルメーターのクルマに乗ろうと、心に誓っていた。
また、たとえアナログ式でも、初代「ホンダ・プレリュード」や2代目「シビック」の「同軸ターゲットメーター」といった意欲的な試みに興味を抱いたものだ。

やがて大人になると初代「ルノー・トゥインゴ」のメーターに引かれた。ダッシュボード中央に開けられたホール(穴)にデジタルメーターと燃料計、オドメーターがシンプルに配されているものだった。ここまでシンプルにできるものかと、ボクはうなったものである。

近年ではヘッドアップディスプレイが面白い。現在では車速だけでなく、ナビゲーション表示なども虚像として映し出せるものもある。業界で世界シェア1位という日系サプライヤーの方に話を伺ったことがあるが、虚像が鮮明に映るようフロントガラスの断面をくさび型にしたり、ユニット自体をより小さく、ダッシュボード内に収まるサイズにするなど、従来以上に自動車メーカーとの連携が求められていることを感じた。
また焦点距離の設定には、搭載車=高級車に多い高齢ユーザーも想定しているという。これからは、運転中の視線移動が少なくて済むヘッドアップディスプレイが、高級車だけでなく一般モデルにも普及してほしいところである。

スピードメーターと回転計を同軸上に配置した初代「ホンダ・プレリュード」や2代目「シビック」(写真)に採用された同軸ターゲットメーター。
スピードメーターと回転計を同軸上に配置した初代「ホンダ・プレリュード」や2代目「シビック」(写真)に採用された同軸ターゲットメーター。 拡大
「ルノー・トゥインゴ」(2004年)。
「ルノー・トゥインゴ」(2004年)。 拡大

ムードは70年代

そのいっぽうで、“メーターの保守反動化”といえる現象も起きているとボクは察する。代表例はアルファ・ロメオである。
「164」の頃はモダンさを優先したメーターだったが、「156」以降は縁取りやサンバイザーで強調されるようになって現在の「ミト」や「ジュリエッタ」に至っている。明らかにデザイナーは1970年代のアルファを意識している。
日本の「日産フェアレディZ」も、現行型のメーターまわりは、3代目や4代目あたりと比べて、より初代「Z」のムードを漂わせている。

もちろん現代風解釈のためにデザイナーは持てるセンスをすべて傾注しているのだろう。その苦心は、スタンダードナンバーをいかに新しく解釈するかを模索するジャズミュージシャンに匹敵するものに違いない。さらにマスのターゲットに据えた顧客が「カッケー!」と評価するならば、それでよい。加えて、リストウオッチのデザインが周期的に繰り返されるのを見れば、決して誤った方向性ではなかろう。

しかし個人的には、何か過去のアルバムを開いてしみじみしているようで歯がゆい。クルマとは絶えず進歩し、提案すべきツールであってほしい。「しきたり」に縛られ始めると、高級オーディオのごとくある時点で行き場を失ってしまうようで怖い。

アップルのプロダクトが成功したのは、ユーザーに選択させる操作を極力少なくしたからである。クルマのメーターも、よりシンプルを目指すのが、これからの方向であると感じるのである。
だからメーター担当のデザイナーさんには回帰志向を現代的解釈するセンスとともに、未来も模索してほしいと願い、あえて「渇―ッ!」と叫ばせていただくのである。

「アルファ・ロメオ ジュリエッタ」
「アルファ・ロメオ ジュリエッタ」 拡大
「アルファ・ロメオ モントリオール」(1970年)
「アルファ・ロメオ モントリオール」(1970年) 拡大

EVに期待

そうしたなかボクが希望を託しているのは、電気自動車(EV)である。内燃機関のクルマに付いていた計器がずいぶんと省略できるわけだから、メーターデザインの自由度が向上するはずだ。大胆な試みを期待したい。

あわせて、最近のコンセプトカーやバイクで時折試みられている、スマートフォンやタブレットPCをメーターに使う試みも面白い。PCの壁紙を変えるがごとく、ディスプレイ上のメーターのデザインを変えられれば、これは愉快だろう。
ただし、新車を買ったら「お客さん、このクルマ、最新のタブレットPCじゃないと始動できないですよ」と諭され、ちょっと古いクルマを手に入れたら「このクルマ古いから、以前のドック形状のスマートフォンをつながないと」と言われ、さらにクルマが止まれば、「ちゃんとメーターをアップデートしとかないから、クルマまでフリーズしちゃうんですよ」と説教されるようになるのは御免である。

(文=大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA/写真=大矢アキオ、Citroen、FIAT、Daimler)

「スマートeバイク コンセプト」。市販型では通常の液晶式メーターが装着されている。
「スマートeバイク コンセプト」。市販型では通常の液晶式メーターが装着されている。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。

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