BMW X5 3.0si(4WD/6AT)【ブリーフテスト】
BMW X5 3.0si(4WD/6AT) 2007.09.11 試乗記 ……895万1000円総合評価……★★★
7年の歳月を経てフルモデルチェンジした「X5」。ボディが拡大された新型はどんな走りをみせるのか。3リッターのベースグレードを島下泰久が試す。
得たモノ、失ったモノ
思えば初代「X5」のデビューは衝撃的だった。そのたたずまいはクールだったしフットワークもキレ味抜群で、この手のクルマで初めて「欲しい!」と強く思ったのを覚えている。
その初代モデルが大ヒットとなっただけに、新型X5のエクステリアは従来とそれほどイメージを変えていない。しかし近づいていくにつれて、その質量の大きさが醸し出す迫力に圧倒されることになる。何しろ、そのボディは全長で195mm、全幅で65mmも拡大されているのである。張り出したフェンダーや盛り上がったボンネット、鋭い目つき等々のディテールも相まって、威圧感は物凄い。
このサイズアップは、アメリカ市場の要望に応えて3列シートを成立させるためのものだ。ミニバンが衰退したアメリカでは、今や3列シートSUVがホット。この分野の先駆者であるBMWは、それを見越して「X3」を先代X5並みのサイズで出しておき、そしてX5の大型化を図ったというわけだ。しかし、それは日本のユーザーにとってはあまり嬉しい話ではない。ここまで来ると、もはや使い勝手に関してはネガな部分の方が目立ってしまうだろう。
一方、走りっぷりに関しての印象は、良くも悪くも先代と大きくは変わらなかった。相変わらずSUVとは思えないほどよく走り、よく曲がる。しかし、率直に言って初代のような驚きはないのも事実。これだけ大きくなっても変わらないのは見事ともいえるが、今や「アウディQ7」や「ポルシェ・カイエン」など、負けずにスポーティで、なおかつ快適性にも秀でたライバルも存在している。端的に言えば、それらに対する“後発ならではの優位性”には乏しい、ということである。
僕があの時、勢いで先代モデルを本当に手に入れていたなら、そして3列シートの必要性がなかったなら、新型にはきっと買い替えないと思う。少なくとも日本の街での使い勝手に優れ、それでいて得られるものにほとんど違いはないからだ。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
「X5」は、1999年のデトロイトショーでデビューしたBMWのSUV。BMWは、SAV(スポーツ・アクティビティ・ヴィークル)だと主張する。日本に導入されたのは、4.4リッターV8モデル。2001年に3リッター直6モデルが追加された。
2007年6月21日、フルモデルチェンジされ2代目に進化した。最も大きな変更点は、全長が19cm延びたことにより、5人乗り以外にもオプションで3列シートを装着することにより7人乗りも選択できるようになった点。エッジを強調したボディは、全長4860(4665)mm、全幅1935(1870)mm、全高1765(1705)mmと、ふたまわり大型化した(カッコ内は先代モデルの日本仕様の値)。
トランクルームは100リッター以上増え、620リッターになり、2列目をたたんだ状態でも従来より200リッター以上多い1750リッターの容量を確保した。
エンジンは、3リッター直6(272ps/6650rpm、32.1kgm/2750rpm)と4.8リッターV8(355ps/6300rpm、48.5kgm/3400-3800rpm)の2種類。それぞれステップトロニック付きの6段ATを組み合わせ、4輪を駆動する。 左右両ハンドルをラインナップする。
(グレード概要)
テスト車は、シルキーシックスことBMW伝統の直列6気筒エンジンを搭載するベースグレード。上級グレード「4.8i」と較べると、メタリックペイントがオプション扱いになる程度で、エンジン以外に仕様の大きな差異はない。
スポーツサスペンション、運転席&助手席スポーツシート、19インチアルミホイールなどがセットになった「スポーツパッケージ」や電動パノラマガラスサンルーフ、フロントベンチレーションシート、リアシートヒーティングなどを組み合わせた「コンフォートパッケージ」は両モデルにオプション設定される。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★★
乗り込んだ瞬間、「広いなぁ……」と嘆息させるのは、特に幅方向に実際に広々とした空間であることに加えて、ゆるやかな曲線で構成されたインストルメントパネルの造形がワイド感を演出しているから。スイッチ類の配置は、iDriveやプッシュボタン式のエンジンスタートスイッチを含めて、最近のBMWの文法に従ったもので、これも違和感なく、すぐに使いこなすことができるだろう。
唯一、引っ掛かるのは「5シリーズ」などにも採用されている新形状のATセレクター。ある程度乗れば慣れるのかもしれないが、皆が今の形式に慣れ親しんでいるものに、独断であまり大きな操作方法の変更を行なわなくてもいいのではないか。段違いに使いやすい、というほどの違いがあるわけでもないわけだし。
(前席)……★★★★
地上高があるうえにサイドシルの幅が大きいため、フツウのクルマのようにドアを開けて左足を突っ込んで……とやって乗り込むのはちょっとキツい。よほど大柄な人でもない限り、サイドシル下のステップを使うのはマスト。男の僕でこうなのだから、小柄な女性はかなり大変だろう。ナビシートに初めての人を誘う時には、助手席側に回ってエスコートしてさしあげる必要があるかもしれない。
その分、乗り込んでしまえばスペースは余裕。シートは大きなサイズで身体を包み込んでくれるし、ドアトリムとの距離もあるので、とても開放的だ。
(2列目シート)……★★★★
サイズアップの恩恵を一番受けられるのが、この2列目かもしれない。特に横方向には余裕があり、2名乗車ならとても寛げるし、3名乗車の際も中央席の住人含め、窮屈な思いをすることはないだろう。肩まわり、前席シートバックとの間のスペースもゆったりとしている。シート自体は、座面のちょうどお尻の下の辺りが硬く盛り上がっているのが気になるものの、やはりサイズが大きく安心感がある。オプションでシートヒーターが選べるのも嬉しい。
(3列目シート)……★
試乗車はオプションとなるサードローシート装着車。しかし、身長170cmまでなら快適に過ごせるという触れ込みから想像できる通り、やはりこの3列目は緊急用と思っていた方がよさそうだ。身長177cmの筆者の場合、2列目シートを相当前に出さないと膝が当たるし、両足の爪先が座面の下にきちんと入らないから、自ずと窮屈な姿勢を強いられる。座面が2列目より高いのはいいが、代わりに頭頂部がルーフに触れてしまうのも難点。というわけで、ここは基本的に子供の送迎用と思っていた方がいいだろう。ただし、ヘッドレストと3点式シートベルトはきちんと備わる。
(荷室)……★★★★
リアゲートは上下に分かれて開くタイプ。下段のアオリを開くと、ちょうどラゲッジフロアとフラットに繋がる。スクエアな形状のフロアには左右にフックなどを自由に配置できるレールが備わり、サードローシート装着車でも床下にそれなりの深さがある収納が用意されるなど、使い勝手も良さそう。容量は7名乗車時には200リッターでしかないが、5名乗車時で525リッター、ワンタッチで倒れる2列目シートを収納すれば1750リッターと巨大。しかも各シートは折り畳むと座面が下がるため、完全にフラットな空間を生み出すことができる。問題があるとすれば、2列目バックレストに装着するトノカバーとパーティションネットを、3列目に人を乗せる際、どこに置くかくらいだ。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
いかに最高出力272psを発生するBMW自慢のストレート6と言えども、車重が2100kgにも達するとなれば、さすがに加速は鋭いとまでは言えない。しかしアクセル操作に対してナチュラルにレスポンスし、常に欲しいだけのトルクを発生する特性はドライバビリティに優れ、実際には動力性能に関して不満を感じさせることはないと言っていい。それなりに高い回転域まで使う頻度は高くとも、このまわすほどに芯が出てくるかのように精度を増していくエンジンにとっては、それはむしろ歓びである。
絶対的なパワーのなさは、6段ATのこまめな、そして迅速かつショックを抑えた変速ぶりでも、よくカバーされている。この好印象のドライブフィールには、その貢献度も小さくないはずだ。そうそう、クルマを編集部に返却する際、オンボードコンピューターの累積平均燃費は6.9km/リッターと表示されていた。今回257km走った結果8.42km/リッター。決して大人しく走ったつもりはないから、この体躯を考えれば優秀な数値と言っていいのではないだろうか。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★
何とランフラットタイヤを標準装着するX5。スポーツサスペンションと前後異サイズの大径19インチタイヤを装備した試乗車は、やはりそれなりに硬めの乗り心地を示す。特に首都高速などの路面のギャップを超えた時などはガツンッと硬質なショックが襲い、その上ブワーンと煽られる感もあって、あまり快適とは言えない。
そんな印象が一変するのは、高速道路に入ってペースを上げていった時。スーッと、まるで路面に貼り付いていくかのように、みるみる安定感が高まっていくのだ。乗り心地も、この領域では快適とすら評せるほど改善される。
全車に標準装備とされるアクティブステアリングは、もはやそれが付いていることの違和感はほぼ皆無。普段は、街なかなどで切り返す際などにやけに操舵量が少なくて済むことで、それが付いていることを思い出すくらいだ。
しかし追い込んだ時には、やはり2100kgもの車重を意識させられることも。タイヤは切れているがボディの反応は一瞬遅れる。そんな微妙な気配に今ひとつ一体感を得にくいのだ。アダプティブドライブと称する可変スタビライザーを装着するか、もしくはスポーツパッケージではない細いタイヤのモデルを選んだ方が、絶対的なコーナリング性能はともかく、一体感に富んだ気持ち良い走りを楽しめるに違いない。
(写真=高橋信宏、BMWジャパン)
【テストデータ】
報告者:島下泰久
テスト日:2007年8月1日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2007年型
テスト車の走行距離:2903km
タイヤ:(前)255/50R19(後)285/45R19(いずれも、ブリヂストンDUELER H/P SPORT)
オプション装備:メタリックカラー・モナコブルー(8万5000円)/スポーツパッケージ(33万円)/アルミニウム・ランニング・ボード(5万4000円)/クライメート・コンフォート・ウインドスクリーン(4万円)/サードロー・シート(31万円)/電動パノラマガラスサンルーフ(23万2000円)/スキーバッグ(4万円)/ストレージ・コンパートメント・パッケージ(4万5000円)/リアシートヒーティング(6万5000円)/ヘッドアップディスプレイ(22万円)
走行状態:市街地(2):高速道路(8)
テスト距離:257.3km
使用燃料:30.53リッター
参考燃費:8.42km/リッター

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
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