ロールス・ロイス・ファントム・ドロップヘッド・クーペ(FR/6AT)【海外試乗記(前編)】
歴史と威厳(前編) 2007.08.21 試乗記 ロールス・ロイス・ファントム・ドロップヘッド・クーペ(FR/6AT)約2年ぶりの新モデルとなるロールス・ロイスのコンバーチブル「ファントム・ドロップヘッド・クーペ」。『CAR GRAPHIC』高平高輝がイタリアはトスカーナで試乗した。
ひとつの頂点
見上げれば、そこにはトスカーナの抜けるような蒼い空だけ。このクルマの上には何もない。ちょうどリバイバル・ミッレミリアが行なわれる週末、トスカーナの丘を走る「ロールス・ロイス・ファントム・ドロップヘッド・クーペ」は、贅沢この上ない陽光と風に祝福されているようだった。そう感じたのは値段やサイズゆえではない。このドロップヘッド・クーペが一般的なクラスやジャンルをはるかに超えたクルマだったからである。
かつてはトスカーナ大公レオポルド2世の狩猟の館だったというホテルは、ティレニア海からの潮風がかすかに感じられる丘陵地にあった。葡萄とオリーブの畑に囲まれた丘の上に立つそのヴィラの佇まいは16世紀の頃とほとんど変わらないように見えたが、落ち着いた雰囲気の部屋の中には高速インターネットのプラグが隠されているし、最新のスパ施設もある。ちなみにアラン・デュカスが共同経営者だから、グルメ派も文句はないはずだ。
ちょっと前からトスカーナではこのように古い建物を改装した上等なホテルや別荘が目につく。その場合、外観はできる限り昔どおりに維持するのが定法で、ホテルの案内看板にしても注意していないと見過ごしてしまうほど控えめだ。
それもこれもすべては雰囲気を壊さないため。まったく新しいものを一気に建てたほうが簡単で安上がりかもしれないが、それは法で規制されていなくても愚かで尊敬されない行為である。都会のアパートメントでも、煤けた外壁が信じられないほどモダーンで快適な室内を持つものが珍しくない。クラシックとモダンの融合は宣伝文句などではなく、ヨーロッパではごく当たり前に日常生活に溶け込んでいるのだ。
遠い昔の貴族の生活を髣髴とさせながら、現代的な設備を持つ高級ホテルは、新生ロールス・ロイスにとっての3番目のニューモデル、ファントム・ドロップヘッド・クーペの国際試乗会の舞台として真に相応しく思えた。
テクノロジーの使い方
ベントレーが市販型には結局「アズール」という名を与えたのに対して、ロールス・ロイスはファントムをベースとした超弩級コンバーチブルに、古風で英国的な「ドロップヘッド・クーペ」という名称を冠することにした。もっとも、現代のロールス・ロイスはその名前とは裏腹に最新テクノロジーの塊だ。
何しろエンジンはバルブトロニックとダブルVANOS付き6.75リッターV12、ボディ構造はアルミニウムのスペースフレーム、さらには電子制御エアサスペンションにランフラットタイヤ、iDriveまで備えているのだ。にもかかわらず、傍から見ればファントムにそんな“ハイテク臭”は感じられない。むしろ細かい部分まで徹底的に隠そうとしている。
たとえば、ナビゲーション用モニターは丸いアナログ時計が嵌め込まれたウッドパネルの背面に隠されており、必要な時にはクルリと回って現われる。そのスイッチのあしらいにしても、無粋な開閉ボタンが美しいウッドパネルに付いているわけではなく、ベンチレーション・アウトレット用のクロームのレバーがもう1本付いており、それを引くとパネルが回ってモニターが現われるという具合だ。
自慢のiDriveダイヤルや、シートとミラーの調整、さらにはソフトトップの開閉スイッチもセンターアームレストの中に収納され、雰囲気を殺ぐコントロール類はすべて、徹底的に隠してしまおうという意図が見て取れる。もちろん記号や文字はなし、わかる人だけわかれば、という潔さは英国的謙虚さというよりBMW流と言えるかもしれない。
ちなみにベンチレーションのエアフラップもノブによって直接動かすのではなく開閉は電動である。細部の滑らかさのためにそこまで手をかけられるのは、コストを言い訳にしなくて済む、あるいはその弁解が通用しないロールス・ロイスならではだ。
ダッシュボード周りはファントムとほぼ同じだが、ドロップヘッド・クーペでは多少の雨に濡れても構わないように、フロアマットは毛足の長いカーペットではなくサイザル麻のマットに代えられ、レザートリムにも耐候処理を施してあるという。(後編へつづく)
(文=高平高輝/写真=Rolls-Royce Motor Cars/『CAR GRAPHIC』2007年8月号)

高平 高輝
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