第4回:新型3輪トラックにイタリア的準天然レトロを見た!(大矢アキオ)
2007.08.18 マッキナ あらモーダ!第4回:新型3輪トラックにイタリア的準天然レトロを見た!(大矢アキオ)
3輪トラック、健在
イタリアにおける商店街の風物詩といえば、3輪トラックである。
ミラノやトリノなど交通の激しい大都市で見かけることは少ないが、中部以南の街では今もどっこい健在だ。中世以来の狭い街路もドンと来い!の小まわりは、4輪にない大きなメリットなのである。さらに、50ccのガソリン仕様は、14歳になれば筆記試験の原付免許だけで運転でき、かつ税法上も原付扱いなので維持費は激安だ。
その3輪トラックを「アペ(Ape=働き蜂)」という名のもと、1948年以来製造しているのはピサ県にあるピアッジョ社である。あの「ヴェスパ・スクーター」と同じメーカーだ。
そもそもアペの誕生自体が、ヴェスパに荷台をくっ付けたものだった。今日までにピアッジョは、200万台を超えるアペを生産している。イタリアはフェラーリの国というより、アペの国なのである。
そのアペに、ちょっとした異変が起きている。そこで今回は、アペ研究の第一人者? である筆者が、その最新事情についてお伝えしよう。
リゾートの「足」仕様登場
先月、2007年7月に「アペ」をベースにした1台の特別仕様車が登場して、話題を呼んだ。どんな特別仕様かというと、ずばり、ハイヤー仕様である。
名前は「アペ・カレッシーノ」。カレッシーノ(calessino)とは、小型の2輪馬車の意味だ。
ベース車両は、700kg積みの「クラシック」と呼ばれるトラック仕様で、エンジンは単気筒の422ccディーゼルだ。
ちなみにこの「クラシック」は、アペ定番モデルのひとつでありながら、1990年代末に生産中止された「P501」の復活版である。昨年春に生産が再開された。一度は4輪トラックに乗り換えたものの、ここ数年の燃料高騰に悲鳴を上げた商店主たちの声が多かったのだろう。
しかしながら「アペ・クラシック」と聞いてボンカレーの復刻パッケージ「ボンカレー・クラシック」を思い出したのは、ボクだけだろうか。
今回の「カレッシーノ」は、とりあえず999台の限定生産だ。
各部にはクローム加工が施され、全体的にはヨットをイメージしたデザインで仕上げられている。
3輪でハイヤーというと、東南アジア諸国における3輪タクシーを思い出してしまうが、イタリアで予想される主な用途は、ビーチリゾートのホテルにおける送迎用なのである。
コレクションとしておひとついかが?
今日こうした送迎車の多くは、往年のフィアット製ワンボックスカー「850パノラマ」をベースに、屋根をぶった切ったものが使用されている。
だが昔の主流はアペ改であって、単気筒ディーゼルエンジンの振動にさらされながらも、風を感じて海辺のホテルに向かうのは、ある種の風物詩だったようだ。
事実、往年のアペの有名な広告には、ビーチにお忍びでやってきたスターのカップルが乗るのもアペ、追いかけるパパラッチが乗るのもアペ……というものがある。
ピアッジョは、タクシー用途だけでなく、「貴重なコレクションとしてもどうぞ」と謳っている。そんなこともあってこの夏、リヴィエラ海岸の有名なリゾート地、ポルトフィーノでは、ジャズセッションなどと合わせた「カレッシーノ」の展示イベントを展開している。
参考までに、価格は8600ユーロ(約138万円)だ。イタリアでは「フィアット・パンダ」の標準モデルの値段に限りなく近い。最高速56km/hでアウトストラーダ進入不可にもかかわらず、この値段はなんだヨ!と腹をたてるか、これだけ手の込んだカスタムカーなのに安いとみるか。見る人のクルマ観・人生観が問われるクルマといえよう。
イタリア人、恐るべし
かくも、「フィアット500」に始まったと思われるイタリア自動車界のレトロ潮流は、3輪トラックにまでジワジワと広まっている。悔しいのは、こうした面白く、かつ自社の歴史に裏付けられたレトログルマが、日本から登場しないことだ。
歴史の薄さ、今日の安全基準にそぐわない……と、理由はさまざまあろう。だが、たとえ造っても、トヨタ初代「クラウン」を模した2000年「オリジン」の如く、秀才の発した笑えない冗談になってしまうのも事実である。そもそも国際的に、何が面白いのかわかってもらえない。
ハイブリッドは造れても、人の笑いがとれない。日本人のマジ・キャラがちょっぴり悲しくなると同時に、日本メーカーが逆立ちしても真似できないイタリア自動車産業の準天然レトロ企画に脱帽する筆者であった。
(文=大矢アキオ Akio Lorenzo OYA/写真=大矢アキオ/ Piaggio)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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