シトロエンC5 2.0/V6エクスクルーシブ(4AT/4AT)【試乗記】
どっちもデキはイイ 2001.09.01 試乗記 シトロエンC5「2.0」/「V6エクスクルーシブ」(4AT/4AT) ……316.0/422.0万円 2000年のパリサロンで、7年ぶりのフルモデルチェンジを果たした中型シトロエン。「エグザンティア」から「C5」に、ひとまわり大きくなった“ハイドロ”モデルに、自動車ジャーナリストの森 慶太が乗った。躊躇なく推薦できる
新型が出るたび「フツーになっちゃった(あーあ)」という声がクルマ好き、ないしファンの人々の間らから聞こえてくるのは、このクラスのシトロエン車に関してはもはやオヤクソクみたいなものだ。思い起こせばGSがBXにかわったとき。BXがエグザンティアにかわったとき。今回も、「新型車=C5」の姿が雑誌その他で明らかになった頃から「旧型車=エグザンティア」の在庫がパタパタと勢いよくハケたようだし。
出た当初はかなり冷淡に受け止められるのに、ときとともに周囲の温度が上がる。で、なくなるとわかった途端に沸点に達する。そして新型が出るとガタンと落っこちる。日本におけるそういう状況というか推移を、私は「シトロエンにおける鋸歯状波の法則」(キョシジョウハ、とは要するにノコギリの歯のようなカタチの波)と呼んでるのだがいかがか。
例によって(?)今回もまた、クルマはイイ。『webCG』お得意の項目別評価をしたとしても、どこにおいてもほとんど文句はつかない。サイズ、特に高さ方向の拡大によってフランス車特有のネガである「後席頭上空間の余裕不足」が解消し、日本人の座高に対しても十分にオッケーなレベルに達したので、これはもう、誰にでも躊躇なく推薦することのできるアッパーミドル級サルーンだ。プジョーと違って、シートのかけ心地にコストダウンによるものと思われるシワ寄せが及んでいない、あるいは軽微である、という点もフランス車としては見逃せない。
ギョッとさせない
「トロケるような快適さ」と「高速ないし超高速でのコワくなさ」を独自の流儀でもって高い次元で両立しているのは基本的に変わらず。複雑怪奇なモノになってしまった機構をもう一度原点に戻した、というこの第三世代型にあってもハイドロニューマチック・サスペンションのありがたみはバッチリ健在だ。ちなみに、フォトグラファーのナンバちゃんは「揺れかたがイイんで(走行中の車内での撮影が)やりやすいです」といっていた。
カタいけど快適、というアシならまだしも珍しくないが、こういうキツネにつままれたような嬉しさを体験させてくれるのは、ほかにはベンツのABC(アクティブ・ボディ・コントロール:CLに採用)ぐらいしかない。ベンツABCの場合は、さながらジャガーXJのような優美な乗りアジを200km/h超の世界でも平気な顔でキープしてくれるところがスゴい。あと、キツネにつままれたような乗り味という意味では、ポルシェの911ターボとかもそうか。フル加速すると気絶しそうになるけど。
その一方で、新型ハイドロニューマチックは通常の使用で「5年間または20万kmの間、特別なメインテナンスを必要としない」だけの耐久性をもモノにした(『CarGraphic』誌の長期テストに期待しましょうかね)とプレス資料は豪語している。ナンでも、窒素ガスの漏れにくいスフィア(空気バネのガス室)と新型の「100%化学合成ハイドロリックフルード」を採用したそうで。
ブレーキ回路の形式が普通のクルマと同じになったのか、ペダルの踏み応えは、スイッチのようなものではなくなっていた。それもまた、初めて乗る人をギョッとさせないという意味で、小さからぬ改善だ。
316.0万円で買える嬉しさ
VWグループがやりだして競合他社が追従に精を出しているいわゆる質感方面の高級化は、これはハッキリいって遅れている。というか、あえて逆を行っている感すらある。室内の雰囲気の濃厚さに関しては、むしろクサラのほうが上だ。遅れているというよりは、強烈なマイペースぶり。「さすがはシトロエン!」と、マニアならそう考えてむしろ喜ばないといけない。
いやこれ、半分は冗談だが半分はマジである。1950年代や60年代に確立されたマニュアルとは違うナニモノかを編み出さないと、最近のクルマを面白がることはできない。あるいはできにくい。実際、時代とともにクルマそのものがツマラナくなっているなどとは必ずしも私は思っていない。 閑話休題。
日本仕様C5のセダンには、2リッター直4の「2.0」と3リッターV6の「V6エクスクルーシブ」があって、オススメはとりあえず2.0。パフォーマンスにまったく不足がないし、ナンといっても車体とのバランスがイイ。
じゃあV6はエンジンが勝ちすぎでダメだったかというと、そうでもない。エンジンルームの余裕を見てもこんどのモデルはV6搭載を当初から考えていたのが明白だし、それとエンジンじたいの音やトルク特性も排気量のわりにはサラッと系なので。さらに、V6はハンドルがめちゃめちゃカルかった。これはこれで、お好きなかたもいらっしゃるでしょう。
ただ、値段は直4とV6で約100万円ほど違う。V6の422.0万円はクルマのデキと照らし合わせてそれだけ見るとリーズナブルだけど、316.0万円で直4が買えてしまうことの嬉しさを思うと、いささかありがたみがウスい。どっちもデキはイイので、お金が有り余ってる人は高いほうを買ってください。
いつものブリーフテストにならって★評価をすると、2車種まとめて★★★★★に近い★★★★。あと★1コは、なくなる寸前くらいに追加されることでしょう。
(文=森慶太/写真=難波ケンジ/2001年8月)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |

森 慶太
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。