クライスラー300C 5.7 HEMI(FR/5AT)【試乗記】
「格好こそイノチ」が気持ちいい! 2005.02.28 試乗記 クライスラー300C 5.7 HEMI(FR/5AT) ……567万円 二玄社編集顧問大川悠が昨年試乗したクルマの中で、いちばん強い印象を受けたのが「クライスラー300C」だった。「新開発のOHV」を心臓に持ち、メルセデス・ベンツのコンポーネントを流用するモデルの魅力は、デザインによるところも大きかった。混血ゆえの価値
去年1年間で乗ったクルマの中で、もっとも印象が強かったのが「クライスラー300C」である。伝統の「HEMIヘッド」を持ったV8ユニットと、1950〜60年代のアメリカン・カスタムカーを彷彿させるマッチョなボディ、そして先代のメルセデスE用コンポーネントを使いながらも、それを見事に大型アメリカ車として消化していた足まわり。まさに「ダイムラー・ベンツ」と「クライスラー」という独米合併がもたらした最良の成果だと、試乗会が行われたポールリカールを中心とした南フランスの路上で、心底から感心した。
したがって、このJAIA試乗会でもっとも楽しみにしていたクルマだったのだが、大磯で乗り出した瞬間は、一回だけ首を傾げた。ボディがゆるくなり、エンジンもやや回転落ちが悪くて、全体的にほんのわずか、洗練性に欠けているように感じたのである。このクルマは、クライスラーとしては珍しくヨーロッパ市場も狙っており、それゆえにアメリカ版と足まわりのセッティングが異なるから、ひょっとしたらアメリカ仕様ではないかと疑った。
結局ヨーロッパ向け仕様であることが確認されたが、印象の違いは乗った環境で大きく影響されたからだろう。特にホテル敷地内の舗装は一部、かなり荒れているから、こういうところでは足回りのバタつきがどうしても強調される。しばらく周囲の道を軽く流してみると、基本的にはソフトだがダンピングは効いて、大型アメリカ車としてはボディもかなりしっかりしていることが理解された。特にいいのがステアリングで、これはメルセデス的な適度の重みとフィールを備えているし、やはりメルセデスからの贈り物としてよく切れるから、大きなボディは意外と小回りがきく。
マッチョなアメリカ車がもつ繊細さ
5.7リッターOHVのHEMIヘッド・エンジンの最大の特徴は「MDS」、つまり可変容積システムであり、低負荷時にはV型4気筒で動く。しかもプッシュロッドがロッカーアームを空振りさせるだけであり、「ホンダ・インスパイア」のような複雑な振動対策など一切していないのだ。それにも関わらず、切り替えはほとんど感知できず、またその気で回せば、大排気量のOHVユニットならではの豪快な音とともに、重厚なトルクを出す。
伝統のエッグクレート・グリルを強調し、眼光鋭いヘッドライトで囲んだフロントエンドや、チョップドルーフのように薄い屋根と高いショルダー、3050mmの長いホイールベースと切りつめられた前後オーバーハングなど、デザイナーが思うがままに遊んでしまったようなプロフィールからなるスタイリングも、まさに「格好こそイノチ」という最近のクライスラーならではの開き直りがあって気持がいい。だから多少品質感に欠けるダッシュのデザインや、広いけれど低く座らされ、あまりありがたく思えないリアシートなど、多少の欠点はどうでもよく思える。
とはいいながらも、どうしても変えることができない、気になる要素が寸法だ。たしかに、5020mmの全長、1890mmの全幅の数値を前にすると、567万円(V6なら462万円)という正札はかなりバーゲンに感じられる。大きさもアメリカンサルーンならではの魅力であるとはいえ、二の足を踏む人も少なくないと思う。ふた回り小さければ、本当に欲しいクルマなのである。
(文=大川悠/写真=荒川正幸/2005年2月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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