キャデラックCTS 3.6(FR/5AT)【短評(前編)】
挑みたくなる新OS(前編) 2005.10.08 試乗記 キャデラックCTS 3.6(FR/5AT) ……618万円 “新しいキャデラック”の先鋒たるスポーティミドルサルーン「CTS」。2005年モデルから加わった、新型3.6リッターV6を積む上級グレードに乗った。何ににも似ていない
CTSに久しぶりに乗って、このクルマの狙いを誤解していたことがわかった。乗ったのは新しい3.6リッター・ユニットを搭載する、新しい上級グレードである。
キャデラック・ルネッサンスの尖兵として登場したこのCTS、当然ヨーロッパのプレミアム・ミディアムや同クラスの日本車を仮想敵に、これらを徹底研究して開発されたクルマである。ここまでの解釈は間違いないが、結果としてできあがったクルマは、ライバルとなるBMW3シリーズやインフィニティG35(アメリカ版スカイライン)のアメリカ製ではなかった。では何なのかといえば、ヨーロッパや日本車の動向も、これまでのキャデラックの伝統も一応忘れ、今のアメリカ人エンジニアが理想と考える中型サルーンを、ゼロイメージから作り上げたクルマなのだった。
そのレイアウトが似ているのと、デビュー時期が同時になったことからG35と比較されたり、アメリカ車としては初めてニュルブルクリンクを舞台に、ハンドリング開発が行われたなどという話が先行していたために、どうしてもライバルとどう似て、どう違うか、などという話になりやすい。
でも改めて今回確認したのは、CTSは何にも似ていなということだった。ということは、直接のライバルもない孤高の存在でもある。だから他のクルマと比較しても、本当は意味がない。
デジタルキッズが設計したようなクルマ
キャデラック伝統のデザイン・キューを生かしたといわれるが、頭から尻尾まで、大きな面から細かな線まで、まるで無機質な造形表現の塊のようなスタイルが、このクルマのすべてを語る。これは文字通りの“デジタル・スタイリング”であり、メーカーもそれを意図して造形している。これは従来のキャデラックはおろか、他のクルマとの関連のうえにあるのではなく、新中型車のまったく新しい解釈であると、まず形で主張する。
乗り込んでみると、さらに理解できる。アメリカ車とはまったく違うが、ヨーロッパ車とも日本車ともイメージが異なるブラックのプラスチックを多用したコックピットは、SFX的で、かなり硬質なデザイン表現を見せる。3年前にデビューした頃は、そのプラスチックの仕上げが安っぽく、エアコンのレバーなど動きも渋かったものだが、最新モデルは造形はそのままながら、仕上げ水準は随分よくなった。
でも、事前の知識がないと、運転以外の操作系について「何がナンだかわからない」ということは、依然として変わっていない。無論エンジンを回して、ギアを入れ、サイドブレーキを外してアクセルを踏めば走り出すことができる。そういった意味で戦前のクルマや昔のシトロエンのように、ゼロから操作言語を学ばないとスタートすらできないというわけではない。だけど、それから先、たとえばシートポジションを自分にあわせて設定するとか、オートライトの調整をしようと思っても、直感的に再設定するのが難しい。まったく新しい外国語を習うまでは要求しないが、少なくとも完全にOSが異なるパソコンと付き合うぐらいの心構えを要求する。
たしかにこれは、クルマのベースにあるOSそのものが違うクルマだと理解すべきなのである。しかもシリコンバレーあたりからデトロイトにやってきた、頭の中は100ギガバイトぐらいあるけれど、一般常識はほとんどないような、デジタルキッズが設計したのじゃないか? と疑わせるようなクルマでもある。(後編につづく)
(文=大川 悠/写真=荒川正幸/2005年10月)
・キャデラックCTS 3.6(FR/5AT)【短評(後編)】
http://www.webcg.net/WEBCG/impressions/000017211.html

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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