トヨタ・アルファードG MS 8人乗り(FF/5AT)【ブリーフテスト】
トヨタ・アルファードG MS 8人乗り(FF/5AT) 2005.07.28 試乗記 ……440万8950円 総合評価……★★★ マイナーチェンジを受け、内外装、装備ともにリフレッシュされた、トヨタのミニバン「アルファード」。3リッターのスポーティグレード「MS」の8人乗り仕様に試乗した。「ヘコタレナイ」ファミリーカー
最近の日本製ミニバンに乗っていちばん印象的なのは、走りの良さだ。「ミニバンは走りが楽しめない」と自動車雑誌がさんざん書いたためかどうかはわからないが、重くて背が高い車体からは想像できないほど、不安なしにコーナーを曲がれる。
このアルファードもそうだ。今年のマイナーチェンジには、サスペンションのチューニングの見直しが含まれていた。簡単にいえば、飛ばしてもヘコタレナイ足にしたという。その効果がしっかり結果に出ている。少し前に乗った2.4リッター4気筒モデルも、今回乗った3リッターV6もそうだった。箱根の山道をけっこうなペースで走りながら、うーんと唸ってしまった。
こうなると、ミニバンにもう死角はない。ファミリーカーの定番としての道を、今まで以上に驀進していくのかもしれない。それはそれでいいことなのかもしれないけれど、だからこそ、さらなる一歩を望みたくなる。
たとえばアルファードは、エクステリアもインテリアも、演歌調と揶揄されることもある、旧来からのトヨタテイストでまとめられている。現在の顧客の好みに合わせた結果かもしれないが、このままではそのうち、時代にそぐわなくなりそうな気がする。クラウンやランドクルーザーを卒業したお客さんが輸入車に流れてしまったような現象が、アルファードでも起こらないとは限らない。
だからこそ、たとえばレクサスのような、従来のトヨタ路線とは違う、新しいプレミアムイメージを持ったビッグミニバンを、そろそろ出してもいいのではないだろうかという気がする。幸いなことに、現在輸入車には、アルファードを卒業してまで乗り換えるような輸入車ミニバンは、ほとんどない。手を打つならいまのうち、という感じがする。
【概要】どんなクルマ?
(シリーズ概要)
2002年にデビューしたトヨタの7/8人乗りのミニバンが「アルファード」。プラットフォームやパワートレインは、多くを「エスティマ」と共用するが、広い室内に「もてなし感」をプラスして「最上級ミニバン」に仕立てている。「アルファードG」はトヨペット店、「アルファードV」はネッツ店で販売される。
2003年7月からハイブリッドモデルが登場した。「エスティマ・ハイブリッド」に採用されたTHS-C(Toyota Hybrid System-CVT)を発展させたもので、リッター17.2kmの燃費を誇る。リアにも回生機能を備えたモーターを配し、4WDとして機能する。
2005年4月にマイナーチェンジし、内外装および装備をリフレッシュするとともに、3リッターV6に組み合わせるトランスミッションを1段増やし5段ATとした。また情報ネットワークサービス「G-BOOK」のバージョンアップ版「G-BOOK ALPHA」を初搭載した。
(グレード概要)
「MS」は、アルファード3リッターモデルのスポーティグレード。スポーティ装備として、エアロバンパー、サイドマッドガードが装着され、フロントフォグランプ、コンビネーションメーターなどがスポーツタイプとなる。スエード調ニットのシートに、センターパネルが黒木目調となる内装は、このグレード(2.4リッターモデルは「AS」)のみ。
【車内&荷室空間】乗ってみると?
(インパネ+装備)……★★
試乗したMSグレードの価格は約350万円。それを考えると質感は物足りない。たとえばセンターパネルなどのブラックウッドは、テカテカしていて安っぽい。ブルーのリングがかかるメーター照明は、プレミアムなイメージもあるのだが。デザインそのものもありふれていて、トヨタのお客さんには安心感を与えるのだろうが、新鮮さは感じられない。運転席まわりの収納スペースが下のほうにしかなく、ほとんどがリッド付きなので、運転中に使うには安全性の点で不安を残すという不満もある。
(前席)……★★★★
モケットの柄は今風とはいえないが、座り心地はフカフカではなく、むしろ硬め。座面の厚み感はないものの、左右のサポート性能は満足のいくレベルにある。高級感はあまり伝わってこないものの、シートとしての機能は満足できる。フロアやシートはかなり高めで、乗り降りはステップのお世話になる必要があるが、高めのアイポイントがもたらす開放感は気持ちいい。
(2列目シート)……★★★
スライドをもっとも後ろにセットすれば、足をまっすぐ伸ばしても前席の背もたれに届かないほどのスペースを誇る。ただしこの位置では、シートベルトのショルダー部分が機能しなくなる。折り畳みを重視したためか、座面の傾きはあまりなく、背もたれともども形状は平板で、座り心地は硬め。仕立てもほかの部分と変わらず、空間は広いが高級感は薄い。ピラーの上端に埋め込まれた間接照明だけが浮いている感じだ。リア用エアコンやAVシステムのスイッチは整理されていて、見た目はすっきりしているし、操作もしやすかった。乗り心地は前席とそんなに差はない。
(3列目シート)……★★★★
2列目のスライドをいちばん後方にしてもレッグスペースはしっかり確保される。背もたれはやや短めだが、形状は2列目ほど平板ではなく、体をしっかり位置決めしてくれるし、ある程度のサポート性能も確保できる。乗り心地は、ミニバンの3列目にありがちなゴツゴツ感がほとんどなく、意外にまろやかで快適だった。
(荷室)……★★★
3列目をいちばん後ろまでスライドさせた場合のスペースは限られるが、前方にスライドさせることで広げることは可能。さらにシートを両脇に跳ね上げれば、同クラスのワゴンを越える奥行きが手に入る。天地は大人でも少しかがめば歩けるほどで、こちらもたっぷりしている。ただしサードシートの跳ね上げが、スライドの中間位置の一点でしかできないのは不便。壁に控えめなマーキングがしてあるが、スライドの前端あるいは後端で跳ね上げるようにしたほうが、はるかに操作しやすいだろう。
【ドライブフィール】運転すると?
(エンジン+トランスミッション)……★★★★
試乗したMSグレードの車両重量は1860?だが、2トン以上が当たり前のプレミアムSUVに比べれば断然軽いわけで、1、2名乗車で走る限り、3リッターV6による加速性能は余裕さえ感じるほどだった。これには、マイナーチェンジで4速から5速になったATも大きく貢献している。エンジンは6気筒らしくスムーズに回るが、音はそんなに静かというわけではない。ATの仕事ぶりはトヨタらしく、存在を忘れてしまうほど模範的。シフトレバーはマニュアルモードを持たない一世代前のタイプだが、ジグザグ式ゲートのタッチはカチッとしていて、操作するのが心地よい。
(乗り心地+ハンドリング)……★★★★
乗り心地は、少し前に乗った4気筒モデルよりもソフトに感じた。上級グレードらしいラクシャリーテイストだが、ダンピングはしっかり効いているので、フワつくようなことはない。コーナリングは見た目から想像するより、はるかに安定している。V6エンジンをフロントに横置きしたことによる前の重さはあまり感じられず、ロールもうまく抑えられており、背の高さを考えればかなりのペースでコーナーの連続をこなしていける。ステアリングの切れ味が素直なことも、好感が持てる。
(写真=峰昌宏)
【テストデータ】
報告者:森口将之
テスト日:2005年7月5日
テスト車の形態:広報車
テスト車の年式:2005年型
テスト車の走行距離:1534km
タイヤ:(前)225/55R17(後)同じ
オプション装備:H∞-TEMS(7万3500円)/デュアルパワースライドドア(13万2300円)/SRSサイドエアバッグ(フロントシート)&SRSカーテンシールドエアバッグ(フロント・セカンドシート)(7万3500円)/HDDナビゲーションシステム+後席9型ワイドディスプレイ+レーンモニタリングシステム+音声ガイダンス機能付きカラーバックガイドモニター+ブラインドコーナーモニター+アクセサリーコネクター(60万2700円)/G-BOOK ALPHA専用DCM(6万3000円)/ETC(4万950円)
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:高速道路(6):山岳路(4)
テスト距離:338.1km
使用燃料:50.2リッター
参考燃費:6.7km/リッター

森口 将之
モータージャーナリスト&モビリティジャーナリスト。ヒストリックカーから自動運転車まで、さらにはモーターサイクルに自転車、公共交通、そして道路と、モビリティーにまつわる全般を分け隔てなく取材し、さまざまなメディアを通して発信する。グッドデザイン賞の審査委員を長年務めている関係もあり、デザインへの造詣も深い。プライベートではフランスおよびフランス車をこよなく愛しており、現在の所有車はルノーの「アヴァンタイム」と「トゥインゴ」。
-
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】 2025.9.17 最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。
-
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.16 人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。
-
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】 2025.9.15 フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。
-
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.13 「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”【試乗記】 2025.9.12 レースやラリーで鍛えられた4WDスポーツ「トヨタGRヤリス」が、2025年モデルに進化。強化されたシャシーや新しいパワートレイン制御、新設定のエアロパーツは、その走りにどのような変化をもたらしたのか? クローズドコースで遠慮なく確かめた。
-
NEW
ロレンツォ視点の「IAAモビリティー2025」 ―未来と不安、ふたつミュンヘンにあり―
2025.9.18画像・写真欧州在住のコラムニスト、大矢アキオが、ドイツの自動車ショー「IAAモビリティー」を写真でリポート。注目の展示車両や盛況な会場内はもちろんのこと、会場の外にも、欧州の今を感じさせる興味深い景色が広がっていた。 -
NEW
第845回:「ノイエクラッセ」を名乗るだけある 新型「iX3」はBMWの歴史的転換点だ
2025.9.18エディターから一言BMWがドイツ国際モーターショー(IAA)で新型「iX3」を披露した。ざっくりといえば新型のSUVタイプの電気自動車だが、豪華なブースをしつらえたほか、関係者の鼻息も妙に荒い。BMWにとっての「ノイエクラッセ」の重要度とはいかほどのものなのだろうか。 -
NEW
建て替えから一転 ホンダの東京・八重洲への本社移転で旧・青山本社ビル跡地はどうなる?
2025.9.18デイリーコラム本田技研工業は東京・青山一丁目の本社ビル建て替え計画を変更し、東京・八重洲への本社移転を発表した。計画変更に至った背景と理由、そして多くのファンに親しまれた「Hondaウエルカムプラザ青山」の今後を考えてみた。 -
NEW
第4回:個性派「ゴアン クラシック350」で“バイク本来の楽しさ”を満喫する
2025.9.18ロイヤルエンフィールド日常劇場ROYAL ENFIELD(ロイヤルエンフィールド)の注目車種をピックアップし、“ふだん乗り”のなかで、その走りや使い勝手を検証する4回シリーズ。ラストに登場するのは、発売されたばかりの中排気量モデル「ゴアン クラシック350」だ。 -
NEW
第928回:「IAAモビリティー2025」見聞録 ―新デザイン言語、現実派、そしてチャイナパワー―
2025.9.18マッキナ あらモーダ!ドイツ・ミュンヘンで開催された「IAAモビリティー」を、コラムニストの大矢アキオが取材。欧州屈指の規模を誇る自動車ショーで感じた、トレンドの変化と新たな潮流とは? 進出を強める中国勢の動向は? 会場で感じた欧州の今をリポートする。 -
NEW
ポルシェ911カレラT(後編)
2025.9.18谷口信輝の新車試乗レーシングドライバー谷口信輝が、ピュアなドライビングプレジャーが味わえるという「ポルシェ911カレラT」に試乗。走りのプロは、その走りをどのように評価する?