BMW X3 2.5i/3.0i(5AT/5AT)【試乗記】
プレミアムの哀しさ 2004.06.25 試乗記 BMW X3 2.5i/3.0i(5AT/5AT) ……532万9500円/636万円 順当な成功を収めたBMW初のSUV「X5」。その弟分「X3」の日本上陸が果たされた。ストレート6を積むプレミアムSUVならぬ“SAV”に、『webCG』コンテンツエディターのアオキが乗った。体格差の少ない兄弟
クロカンとくれば、マッチョなオトコたちが道なき道を行き、「ファイトォオオオオ!」と叫び、ときに谷底に転がったりする汗くさい4輪駆動車……ってな認識は、SUVという言葉の浸透とともにすっかり薄まった、と思う。北米市場での強い需要を受け、アメリカでの稼ぎを重視する世界の主要メーカーが、SUV“風”モデルを含め、あの手この手で新しいクルマを捻り出すなか、汗どころかオーデコロンの香りをただよわせそうなクルマは、「レンジローバー」。「むしろシーブリーズかしらん?」なスポーツマンタイプのニューモデルが、「BMW X3」である。
神奈川県大磯のホテルを基点に、ビーエムの新型SUV(Sports Utility Vehicle)ならぬSAV(Sports Activity Vehicle)のプレス試乗会が開催された。
X3は、同社初のSAV「X5」に遅れること約4年、2003年のデトロイトショーでコンセプトモデル「Xアクティビティ」として、そして同年のジュネーブショーで「X3」として姿をあらわした。ボディサイズは、全長×全幅×全高=4565(−100)×1855(−15)×1675(−65)mm(カッコ内はX5との比較)。X5の弟分であることは間違いないが、意外に体格差の小さい兄弟である。
日本には、2.5リッター(192ps)と3リッター(231ps)の直6モデルが入る。いずれもトランスミッションは、ステップトロニック付き5段AT。価格は、前者が513万円、後者が573万円。ステアリングホイールの位置は、「2.5i」が右、「3.0i」は左右から選ぶことができる。
クラス初のプレミアムSAV
試乗会場に並ぶX3は、まごうことなき「ビー・エム・ダブリュ」だ。「7シリーズ」「Z4」、まもなくリリースされる「1シリーズ」ほか、従来のいわゆる乗用車カテゴリーのBMW車が、カッコいいかどうかは判断保留にして、しかし驚くほど斬新なスタイルを纏うのと対照的に、X5、X3のデザインアプローチはずいぶん保守的だ。
いうまでもなく、これまでパッセンジャーカー市場で築いてきた“プレミアム”なブランドイメージを、SUVというBMWにとっての新しい分野で、最大限活用するためである。
実際、この戦略は成功を収めており、米国サウスカロライナ州スパータンバーグで生産される兄貴分X5は、「MINI」を含む全BMW生産台数の1割を占めるまでになったという。新顔X3のウリ文句は、「クラス初のプレミアムSAV」。
試乗会場に色とりどりのX3が並ぶ。プレスブリーフィングを前に、峰カメラマンが「あと2、3年早く出したらバカ売れしたろうに……」と、勢い込むリポーターの出鼻をくじく。たしかにアメリカのイラク侵攻によって原油が高騰しているいま、一時的かもしれないけれど、SUVマーケットからかつての勢いが失われた感がある。BMWは「今後10年でSUV市場は約50%増加する」と予想しているのだが……。
なお、北米製のX5に対し、X3は欧州製。オーストリアはグラーツにある「マグナシュタイヤー・フォールツォイク・テクニーク(MSF)」の工場でつくられる。ここからは、1日300台以上のクルマを送り出せるという。
BMWそのもの
無塗装の樹脂製バンパーとホイールアーチが、ワイルドさを強調するBMW X3。「マイナーチェンジか特別仕様車で、“カラード”モデルが出るに違いない」とヘソ曲がりな想像をしつつ、2.5リッターモデルのドライバーズシートに収まる。
キャビンスペースはたっぷりしている。X3は、全長がX5より100mm短いけれど、ホールベースの短縮は25mmにとどまる2795mm。室内空間を大きくとり、また結果的に前後オーバーハングが切りつめられることで、現代的なスポーティさが強調された。
インストゥルメントパネルはじめ、インテリアのつくりは−−個々の部分がやや大味になってはいるが−−BMWそのもの。X3は、グレードを問わず布製のクロスシート(手動)と、アルミニウムトリムが標準となる。
走り出しても“BMWそのもの”の印象は変わらない。意図的にか否か、ガスペダルは軽く設定され、1760kgのウェイトを感じさせず、スムーズにSAVは動き始める。そして、最初のひと切りからわかる滑らかなステアリングフィール。ビーエム好きのドライバーをして「これ、これ」と喜ばせる上質な運転感覚だ。
舗装の継ぎ目が厳しい西湘バイパスでは、ときにボディが上下に揺すられ、「足まわりにいま一歩の詰めが必要……」と思わせる場面もあったが、総じて“SUV”の鈍重さを感じさせることがない。あ、X3はSAVでしたね。
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意識しないヨンク
3リッターのX3 3.0iに乗り換える。オプションのレザーシートが奢られ、グッと贅沢な雰囲気。しかし、お値段600万円超のクルマにして、なぜかドライビングポジションの調整は手動なのであった(「レザーアンビエンテシート」と「電動フロントシート」は別オプション)。
足まわりは、2.5リッターモデルの17インチから「235/50R18」にグレードアップする。車重は30kg増しの1790kgになるが、ストレート6のアウトプットは、それを補ってあまりある最高出力231ps/5900rpmと最大トルク30.6kgm/3500rpmを発生。X3 3.0iは、箱根ターンパイクを豪快に駆け上がっていく。
X3には、「xDrive」と名付けられた4WDシステムが搭載される。トランスファーに内蔵された電制多板クラッチが、前後輪にトルクを配分する。LSDは備えず、スリップして空転した車輪にブレーキをかけることで、これに替える仕組みだ。xDriveは、アンチスピンデバイス「DSC」とも連携をとり、たとえばアンダーステアが強い場合には、リアに100%の駆動力を送り、それでも十分でないときに、DSCが介入する。
そのほか、急な下り坂で自動的にABSを利かせつつブレーキをかけて、安全にX3を運ぶ「ヒルディセントコントロール(HDC)」も標準で装備される。
この日の試乗会では、オフロードコースは用意されなかったのでHDCを試す機会はなかったが、というか、そもそも4WDを意識することがなかった。高い視点をのぞけば、普通のFRサルーンのよう。
カーブでのロールは大きめだが、それでも強靱な足のバネを感じさせ、スポーティさは損なわれない。BMWのSAVは、高い車高ながら重心をできるだけ上げない工夫として、ドライブシャフト(右のコネクションシャフト)をオイルパンに通し、エンジンの搭載位置を下げている。
見かけのイメージ、内装、そしてドライブフィールとも、どれもが“ビーエムそのもの”。それなら、「そもそもSUVである必要があるのか」と根元的な疑問が浮かぶが、なにはともあれ、気まぐれなリッチピープルが流行に流されれば、遅かれ早かれそれに追従せざるをえないのが、プレミアムブランドの哀しさなのだろう。
(文=webCGアオキ/写真=峰昌宏/2004年6月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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