ポルシェ911GT3(6MT)【海外試乗記】
シリーズきってのアスリート 2003.03.19 試乗記 ポルシェ911GT3(6MT) ボディのみならず、エンジン可動部の軽量化も推進した新型「ポルシェ911GT3」。“ノーマル”比61psアップの3.6リッターフラット6が生み出す動力性能やいかに? 自動車ジャーナリストの河村康彦が、イタリアはベネチアで乗った。
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最もサーキットに近い
2002年の末から先行受注が開始されていた新型「ポルシェ911GT3」が、ついに2003年のジュネーブショーを舞台に、お披露目となった。今年の同ショーにおけるポルシェスタンドの花形が「カレラGT」であることは間違いない。が、その陰でひっそり(?)デビューを飾った新型GT3のルックスも、よく見れば相当にアグレッシブなものだ。
全幅にわたる上下長40mmのリップを加えた、エアダム一体の専用デザインを持つフロントバンパー。“2枚羽”式の、やはり専用デザインによるリアスポイラー。そしてサイドスポイラーなど、オリジナルの911カレラよりはるかにこだわりの強い各種空力アイテムが、まずは新しいGT3ルックス上の特徴。
そんなGT3は、実際「旧型と同等の0.30という抵抗係数をキープしながら、ゼロリフトを達成させた」のが自慢のひとつ。足まわりを硬めたことで実現させた、カレラ比30mm低い“ローダウン・シャシー”も、見た目の迫力アップに一役かっている。難しいことはヌキにして、バリエーションを大きく拡充させた911シリーズのなかで「最もサーキットに近い」といわれる新型GT3は、“かくもカッコイイ”クルマなのだ。
エアコンもロールケージも
国際試乗会は、イタリアはベネチアの近郊で開催された。どういうわけかポルシェは、“速いモデル”のテストイベントはこの周辺で行うのが最近の傾向。「GT2」や「カレラ4S」のイベントでも、この付近を西へ東へと疾走したことを思い出す……。
ドアハンドルを引いてレザーシートに腰を降ろす。軽量化にも腐心をしたGT3の場合、フロントシートはリクライニング機構を持たないシンプルなバケットタイプ。「およそ20kgの軽量化に貢献した」というこのシートは、幸いにして、ぼくの身体にはピッタリとフィットした。ちなみにリアシート廃止による軽量化分は、およそ8kg。
一方で、サーキットユースばかりに焦点を当てたわけではないこのモデル、「パワーウィンドウ」や「オーディオ類」「4エアバッグ」や「リモコン・ロックシステム」など、最低限の快適装備は標準となる。空調は、標準ではエアコンレス仕様だが、希望があれば「無償で装着を行う」というのがGT3流儀。そして、よりスパルタンな仕様がお望みとあれば、やはり同価格の設定でレザーの代わりに難燃性繊維が用いられたバケットシートやロールケージなどを標準装着した「クラブスポーツ」モデルも選択できる。
思いしらされる
ベースとなったホテルを出てしばらくは、アウトストラーダのインターチェンジを目指す“トランスポート区間”。アクセルペダルを大きく開けるわけにはいかない、こうしたシーンでのGT3の心臓が発する印象は、率直にいって最高出力が60ps以上も小さい“ノーマル”カレラのそれと、さして変わらないように思えた。動弁系を含んで徹底した可動部分の軽量化を行ない、8200rpmという高いレブリミットを達成させた新型GT3の心臓も、さすがにこのようなシチュエーションでは、その実力をすべて発揮するわけにはいかない。
一方で、1000rpm付近でもトコトコと普通に走れてしまうそのフレキシビリティの高さにも驚嘆。ハイスペックモデルながら、オリジナル911との違いは、クラッチ踏力が多少重い程度に過ぎない。いまでも自分のボクスター(2.5リッター)で“エンストの恐怖”にかられるボクには、ニューGT3の柔軟性が、何とも羨ましいものに思えた。
すいた3車線のアウトストラーダに乗り入れ、アクセルペダルを深く踏み込む。と、このクルマの心臓は、たちどころに真の威力を見せつけてくれる。通常のカレラなら、そろそろアップシフトの準備をしたくなる6000rpm。が、そんな回転数に達しても、タコメーターの針の上昇は一向に衰えを示さない。それどころか、6800rpmを過ぎるあたり、背後から届くフラット6の大きな咆哮は、その鼓動を一段と強め、回転の伸び感はさらなる上昇カーブを描く。ここから8000rpm付近までの2000rpmプラスのゾーンは「まさにパラダイス!」だ。アクセル操作に対するレスポンス、パワー感、そして前述のサウンドなど、どちらかと言えばターボチャージングを含む“排気量依存型”と思えていたポルシェのエンジンが、実は圧倒的な高回転・高出力技術に裏打ちされたものであったことを、改めて思い知らされることになったのである。
さらなる欲求が……
強靭なブレーキングパワーとハンドリングのシャープさも印象に残るものだった。実は今回のテスト車には、すべてオプションの「PCCB」(ポルシェ・セラミック・コンポジット・ブレーキ)が装着されていた。オーバー250km/hからのハードブレーキングの繰り返しでもフィーリングの変化をまったく見せず、しかも一切の鳴きを示さない。そのうえ、せっかくの美しいホイールに醜いダストを残すこともないこのブレーキの実力は、前述のエンジン以上にスーパーな存在とぼくには思えた。
そんな“911シリーズきってのアスリート”といえる新型GT3だが、さらなる欲をいうならば、ぼくはこんな心臓を「カレラ4シャシー」との組み合わせで乗ってみたいと思った。もちろん、軽量化を進めアンチスピンデバイス「PSM」(ポルシェ・スタビリティ・マネジメント)まで取り去ったGT3は、ストイックなスポーツ魂がウリの1台。が、そんな事柄を理解をしたうえで、その珠玉のパワーフィールを、もう一段上の高速安定性を味わわせてくれるに違いないカレラ4シャシーと組み合わせた「GT“4”」で試してみたいと感じた。
(文=河村康彦/写真=ポルシェジャパン/2003年3月)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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