三菱アウトランダーPHEV G ナビパッケージ(4WD)【試乗記】
これぞ本当の“SUV” 2013.03.04 試乗記 三菱アウトランダーPHEV G ナビパッケージ(4WD)……425万3100円
持続可能なクルマ社会に向けて、避けて通れないのが環境負荷の問題。独自のプラグインハイブリッドシステムを搭載した「三菱アウトランダーPHEV」は、そんな時代の要求に対する、三菱からの一つの回答だった。
これまでの常識を覆す
クルマ界の今とこれからは、どこまで燃費をよくできるか(CO2 排出量を減らせるか)が最大の目標。だったら、新しい「三菱アウトランダーPHEV」こそ、正義の味方ナンバーワンだ。
67.0km/リッター(!)にも達する低燃費ぶりは、これまでの常識では想像すらできない。
この途方もない数値は、国交省の定めるプラグイン専用の算出方式によるもので、普通のJC08モードでは18.6km/リッターだが、全長4.7m近く、重量ほぼ1.8トンで空気抵抗も大きいSUVとしては掟(おきて)破りの好成績(普通のガソリン仕様のアウトランダーは14.4〜15.2km/リッター)。それは、PHVなのにわざわざPH「E」Vと名乗るのと関係がある。エンジンも持ってはいるものの、実質的には純EVに近いのだ。
簡単に構造を紹介すると、好評のアウトランダー(4WD) の前後デフの代わりに2基の永久磁石型交流同期モーターを仕込んだのが基本。最高出力はともに82ps、最大トルクは前輪用が14.0kgm 、後輪用が19.9kgm(合計33.9kgm は普通のNAガソリンの3リッター級をしのぐ)。ここに床下のリチウムイオンバッテリーからの電力を電子制御で適切に配分する。4気筒2リッターエンジンは118psと控えめで、普段は駆動に参加せず、発電機を回すのが主な仕事だ。増殖めざましい電気駆動車の中では「発電機付き電気自動車(レンジエクステンダーEV)」に分類される。強い加速などのために深く踏めばエンジンも駆動するが、変速機がなく普通のトップギアに相当する単一レシオなので、60km/h以下では活躍できない。
工夫次第で燃費が伸びる
どんな感じかは、乗った瞬間すぐわかる。洗濯機より静かに思えるほどスイ〜ッと軽く出て、そのままぐいぐい加速する。いっさい段付きのない、EV特有の不思議な加速感だ。
12kWhというバッテリー容量は軽EVの「i-MiEV」(16kWh) より小さいが、穏やかなJC08的走行パターンなら60.2km、高速道路で追い越し車線のペースに合わせても35km以上は電力だけで走れてしまう(ただしヒーターを常用すると40%ほど減る)。そのうえでバッテリー残量が10%ほどまで減ると自動的にエンジンがかかり、ブ〜ンと発電を開始、それがバッテリーを経由して前後モーターに伝えられる。下り坂、惰力走行、減速時には回生機構が働き、路面から逆駆動されたモーターが発電機に変身、本来なら捨てるはずだったエネルギーをバッテリーに貯め込む。走行中、そういうパターンを巧みに使えるかどうかも、結果としての燃費に大きく影響する。
注目は、やはりプラグインとして外部から充電できること。「プリウスPHV」と違って、100V、200Vのコンセントだけでなく急速充電器も使えるのがアウトランダーPHEVの強み。空っぽから満充電までの充電時間は100Vで13時間、200Vで4時間が目安。急速充電(80%で自動停止)は30分。べつに満充電しなくても、注ぎ足すだけでけっこう走れるから、よくあるファミリーカーの使用状況(たまに遠出するが、普段は自宅を中心に近距離ばかり)だと、ちょっと出かけて帰るたびにコンセントに挿しておけば、ず〜っとEV走行のままで、エンジンが働くチャンスがない。今回のテストでも、それを基本として使ってみたところ、総平均で27km/リッターに届いた。ダッシュ中央部のECOボタンを押しておくと、さらに10%か15%は伸びそうだ。あまり長期間エンジンを眠らせたままだと不具合もありそうなので、3カ月ほどすると、走行中に少しだけ自動的にかかる。
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バッテリーの電気は使い方いろいろ
ほかにも電力の使い方には選択肢がある。シフトレバー(スイッチ?)の後ろにある「チャージ」と「セーブ」のボタンがそれ。チャージを選ぶと、まだバッテリー残量があるEV走行中にもエンジンが発電・充電する。道路状況などを見て、最もクルマの負荷が小さそうな時にこれをやると、次の燃料補給(はるかかなた)までの残り走行可能距離を大きく延ばせる。一方セーブを選ぶと、やはりエンジンが働いてバッテリーの消耗を食い止め、目的地に着いてからの静かなEV走行のために電力を温存できる。
また、ダッシュボード右端のボタンを押すと、荷室内のAC100Vコンセントが使える。許容使用電力1.5kWだから、電子レンジ(0.5〜0.6kW) はもちろん、中型の炊飯器(1.2〜1.5kW)やIHクッキングヒーターなども使用可能。レジャーの強力な相棒であるだけでなく、災害時に診療所の救援に駆けつけるなど、応用範囲は広い。
走りも文句の付けようがない。電気式S-AWDの制御は的確で、コーナリングなど、ガソリン仕様よりずっとスムーズで扱いやすい。ホイールベースの間、最も低い位置に重いバッテリーを積むから、重心の低さも際立つ。サスペンションアームが埋まるほど深い泥や砂や吹きだまりの、しかも急斜面でなければ、初心者でも不安なく乗り切れる。オンロードでの走りにも定評あるアウトランダーだけに、乗用車としての快適性も抜群。そのうえで超々々低燃費つまり地球に優しいとくれば、これぞ本当のSUV(sport utility vehicle)と呼ぶべきではないだろうか。
(文=熊倉重春/写真=小林俊樹)

熊倉 重春
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