シトロエンDS3カブリオ(FF/6MT)【海外試乗記】
これぞベスト「DS3」 2013.02.17 試乗記 シトロエンDS3カブリオ(FF/6MT)ただルーフが開くだけではない。「シトロエンDS3」ファミリーに加わった「カブリオ」は、風を味方に、DS3ならではの“エスプリ”を最大限に開放したモデルなのだ。ファッション的にも遊び心でも、もしかしてベストDS3?
小粋さはそのままに
今やシトロエンの世界販売の18%を占めるまでに成長した「DS」ラインの第1弾として2009年9月にワールドデビューした「DS3」は、登場以来これまでに20万台の販売を達成したという。そのDS3の新たなラインナップとして2012年9月のパリサロンで発表された「DS3カブリオ」に、スペインはバレンシアで試乗した。
DS3カブリオのオープントップは、ウエストラインより上すべてをソフトトップとするのではなく、オープン時にもBピラー/Cピラーとルーフフレームまでが残り、開くのは純粋にルーフからリアウィンドウまでの部分というタイプのもの。「フィアット500C」と同様のタイプと言えば分かりやすいだろうか。
このタイプのオープントップのメリットとしては、まず美しいスタイリングが挙げられる。クローズ時にはベース車とほぼ変わらないフォルムを描き、オープン時にもフォルムが崩れることはない。開けても閉めても小粋な印象が変わらないのだ。
また、ボディー構造の多くがベース車から引き継がれるため剛性面で有利で、補強が最低限で済むため重量増も少なくて済む。DS3カブリオの場合、ベース車に対してはわずか25kg重くなっているだけである。
一方でデメリットとしては、ラゲッジスペースの開口部の小ささが指摘できる。中身は容量245リッターと十分に広く、望むなら後席背もたれを倒せば相当な容量を確保できるのだが、入り口は機内持ち込みサイズのスーツケースを通すのがギリギリ。かさ張るものはフロントドアを開け、前席背もたれを倒して滑り込ませるしかない。とはいえ、入らないわけではないのだから致命的というほどの問題ではないだろう。
外観の美しさに関してはもう一点、ソフトトップを含むルーフカラーを3色から選択できることも特筆しておきたい。用意されるのはブラック、ブルー、そしてDSモノグラムの3パターン。ボディーや内装の各部もカラーコーディネートされる。特にDSのロゴマークを使ったモノグラムカラーは特徴的だ。日本仕様はボディーカラーとの組み合わせが4パターン設定される予定である。ルージュルビ(赤)とジョーヌペガス(黄)にはブラック、ブランバンキーズ(白)にはブルー、そしてノアールペルラネラ(黒)にはDSモノグラムのルーフが、それぞれセットされる。
走りと快適性に遜色なし
ルーフは電動開閉式で、操作はスイッチひとつ。途中まで開くかルーフ全体まで開くか、さらにはリアウィンドウ部分まで完全にオープンにするかの3段階に調整できる。120km/hまでなら走行中でも開閉可能だ。
空気の流れを整えて風の巻き込みを抑えるウインドディフレクターも標準で装備され、必要な時には直接手を伸ばして簡単に引き出すことができる。引き出した状態のままルーフを閉じた場合には自動的に折り畳まれて、またオープンにすれば再び自動で起き上がる。
ひと通り動作を確かめ、まずはルーフを閉じた状態で走りを試したのだが、驚いたのは走りの印象、もしかしたら以前に乗ったDS3よりも好ましいとすら感じられたことだった。ボディーの剛性感には不足している部分は見当たらず、ブルブル、ワナワナした感触は微塵(みじん)も感じられないし、ステアリングフィールもしっとり滑らかで、フットワークも軽快。乗り心地も洗練されていて、とても気持ち良く走らせることができた。
試乗車のパワートレインは最高出力156psの1.6リッター直噴ターボエンジンと6段MTを組み合わせた、日本仕様と同じものだったのだが、25kg程度の重量増では動力性能の差を感じ取ることもできず、つまり不満を覚えることはなかった。MTのシフトフィールもバッチリである。
デビュー当初のDS3は、もう少し乗り心地などには粗っぽい部分もあったように記憶している。おそらくカブリオだからというより、DS3自体も熟成されてきているということなのだろうし、オープン化が確かにそれを損なっていないのだ。
静粛性の高さにも驚かされた。「プレミアムカー用の素材だ」と開発陣が胸を張るソフトトップは、なるほどバタつくこともなくビシッとしていて、掛け値なしにクローズドルーフのモデルに遜色ない快適性を実現している。閉じている時は、完全にオープンカーであることを、忘れて使うことができそうである。
何も失わないカブリオ
続いては、いよいよルーフを開け放ってみる。まずはルーフ全体を開けて、ディフレクターを立ててみたが、それでも風は適度に入ってくる。気になるのは車室後方でこもったような音を発していること。正直、今ひとつヌケが悪いという感じだ。
いろいろ試してみたのだが、そこで見つけたお薦めは、リアウィンドウまで完全にオープンにしてしまうこと。この時、ディフレクターはしまったままでいい。
こうすると頭上を撫(な)でた風は後方にすっきり抜けてしまうため、音環境はがぜんクリアになるし、巻き込み感も前席にいる限りはほとんど変わらず、爽快なオープンエアドライビングを満喫できるのだ。ただし、本来ならリアウィンドウの高さの部分に折り畳まれたソフトトップが重なるため、ルームミラーを通した後方視界が期待できなくなることだけは要注意である。
もしも後席に人を乗せた状態ならば、ルーフだけ開けてディフレクターは立てておくのがいい。後席への風の巻き込みは、この状態がもっとも抑えられるようだ。
走りっぷりにしても快適性にしても、ほとんど何も失うことなく、まさに魅力を純増させているDS3カブリオ。それでいて、シャークフィンのようなBピラーがアクセントのDS3の個性的なスタイリングの魅力は変わらず、またブルーやDSモノグラムのルーフは、そこに強烈な個性を付け加えてもいる。そうそう、先に特別仕様車の「DS3 ウルトラマリン」に使われた3D LEDリアコンビランプも目を引きつける。外観のアピール度はひと際高い。
そうなると、DS3を買うなら、せっかくだからカブリオこそ選ぶべきでは? という結論に至る。率直に言って個人的に素のDS3は、悪くないけれど欲しいとまでは感じていなかったのだが、DS3カブリオにはファッション面でも走りの爽快感の面でも一発で魅了されてしまった。
日本には、今回試乗した1.6リッターターボの6段MT仕様が導入される。気になる発売時期は、夏ごろを予定しているとのことである。
(文=島下泰久/写真=プジョー・シトロエン・ジャポン)

島下 泰久
モータージャーナリスト。乗って、書いて、最近ではしゃべる機会も激増中。『間違いだらけのクルマ選び』(草思社)、『クルマの未来で日本はどう戦うのか?』(星海社)など著書多数。YouTubeチャンネル『RIDE NOW』主宰。所有(する不動)車は「ホンダ・ビート」「スバル・サンバー」など。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
アウディS6スポーツバックe-tron(4WD)【試乗記】 2025.12.8 アウディの最新電気自動車「A6 e-tron」シリーズのなかでも、サルーンボディーの高性能モデルである「S6スポーツバックe-tron」に試乗。ベーシックな「A6スポーツバックe-tron」とのちがいを、両車を試した佐野弘宗が報告する。
-
トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
-
NEW
ホンダ・プレリュード(前編)
2025.12.14思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「ホンダ・プレリュード」に試乗。ホンダ党にとっては待ち望んだビッグネームの復活であり、長い休眠期間を経て最新のテクノロジーを満載したスポーツクーペへと進化している。山野のジャッジやいかに!? -
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】
2025.12.13試乗記「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。 -
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】
2025.12.12試乗記「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。 -
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ
2025.12.12デイリーコラム日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。 -
第940回:宮川秀之氏を悼む ―在イタリア日本人の誇るべき先達―
2025.12.11マッキナ あらモーダ!イタリアを拠点に実業家として活躍し、かのイタルデザインの設立にも貢献した宮川秀之氏が逝去。日本とイタリアの架け橋となり、美しいイタリアンデザインを日本に広めた故人の功績を、イタリア在住の大矢アキオが懐かしい思い出とともに振り返る。 -
走るほどにCO2を減らす? マツダが発表した「モバイルカーボンキャプチャー」の可能性を探る
2025.12.11デイリーコラムマツダがジャパンモビリティショー2025で発表した「モバイルカーボンキャプチャー」は、走るほどにCO2を減らすという車両搭載用のCO2回収装置だ。この装置の仕組みと、低炭素社会の実現に向けたマツダの取り組みに迫る。






























