第274回:「メルセデス・ベンツAクラス」×「アニメ」で思い出した、わがCMオタク人生
2012.12.07 マッキナ あらモーダ!第274回:「メルセデス・ベンツAクラス」×「アニメ」で思い出した、わがCMオタク人生
メルセデスのトランスポーターがラーメン屋台!?
東京郊外で育ったボクにとって、憧れのひとつに「号外」があった。ブレイキングニュースがあるとき、新聞社が都心の街頭で配布する、あれである。先日の東京滞在中、生まれて初めて「号外で〜す!」の声を聞いた。秋葉原でのことである。興奮のあまり配布係の若者から、むしり取るようにして1部を手に入れた。ところが読んでみると、ユーミンこと松任谷由実の新アルバム発売の告知だった。こうしたタイプの号外を「PR号外」というらしい。
実はもうひとつのPR号外に遭遇した。2013年1月から販売がスタートする「メルセデス・ベンツAクラス」の新型の予告である。
すでにご覧になった方も多いと思うが、なんとアニメーションだ。キャラクターデザインを手がけているのは、『新世紀エヴァンゲリオン』などを手がけている貞本義行。制作は『攻殻機動隊』などで知られるProduction I.Gという、豪華作品だ。若年ユーザーへの訴求を狙った大胆な手法だが、実は従来のクルマ好きもうならせる仕掛けがスペシャルムービーに登場する。
ラーメン屋台が、なんと1950年代中期の「メルセデス・ベンツ ウーレンハウト トランスポーター」なのである。それも何の注釈もなく登場させているところが粋といえる。ボクは、自動車のパブリシティーが新しい時代に突入したのに立ち会った興奮を感じた。
ということで、今回は自動車CMのお話である。
スターが続々、フィアット系CM
イタリアブランドの自動車のテレビCMといえば、最近でこそ経営環境の悪化から経費抑えめだが、少し前まで大物スターをたびたび起用していた。
1999年にランチアの中型車「リブラ」が登場したとき、イメージキャラクターは、俳優のハリソン・フォードだった。CMは、枯れた盆栽を助手席に載せて走りだすと、いつの間にか花が咲いている、というストーリーである。当時このクラスには珍しかった左右独立温度調節エアコンが装備されていることを、さりげなくアピールしていた。
2004年には俳優ジョージ・クルーニーがフィアット製ミニMPV「イデア」のCMに出演した。ジョギング途中に見かけたイデアの広大な室内に興味をもって車内に侵入、シートに寝転がってしまう。するとオーナーの女性が帰ってきて……という筋だった。
クルーニーは、コモ湖に別荘を持つ親伊派、かつイタリア人に人気のハリウッド俳優である。起用には、そのあたりを加味したことは間違いない。
ちなみに、彼の元ガールフレンドであるイタリア人タレント、エリザベッタ・カナリスは後年「ランチア・ムーザ」のCMに出演している。ムーザといえば、カナリスの前には、イタリア系フランス人女優&歌手のカーラ・ブルーニがキャラクターを務めていた。結婚してニコラ・サルコジ前フランス大統領の夫人になる前後の2007-2008年という、絶妙なタイミングだった。
2008年には、ランチア新「デルタ」のCMに俳優のリチャード・ギアが、チベットの若い僧たちと出演した。チベットの自治権問題で国際社会が揺れていたことと、一般的にあらゆる批判リスクを避ける自動車メーカーが社会問題と関連した題材を採り上げたことで話題となった。
空中録音していた、あの頃
日本の自動車CMに話を移そう。1966年生まれのボクが物心ついた1970年代、国内各メーカーにはブランドごとにほぼ固定したイメージキャラクターが存在したものだ。ここにすべては網羅しないが、トヨタでいえば「パブリカ」−石坂浩二、「カローラ」−ジェリー藤尾、「カリーナ」−千葉真一、「コロナ」−田宮二郎、「マークII」−三橋達也、「クラウン」−山村聰+吉永小百合といったところだ。日産では「ブルーバード」−加山雄三、「セドリック」−二谷英明夫妻、日産全体のPRがロイ・ジェームスだった。
わが家には年末になると、トヨペットのセールスマンが持ってきた、山村+吉永組とクラウンが印刷されたカレンダーが転がっていたものである。
小中学生時代のボクはよくCMを録音していた。わが家にビデオが来たのはずっと後のことだったので、カセットテープにクルマCMの音声だけを吹き込んでは楽しんでいた。特に最初のうちは、テレビのイヤホン端子とテープレコーダーの入力端子をコードでつなぐことなど知らなかったから、空中録音であった。録音中は親に頼んで無言でいてもらった。番組提供がトヨタだった日本テレビの「知られざる世界」やTBSテレビ「寺内貫太郎一家」は、エアチェックの狙い目だった。
ラジオでは、TBSラジオで夕方放送される「小沢昭一的こころ」が、東京ではトヨタ勝又グループの提供だったので、前後のCMをよく録音したものだ。父の帰省で毎夏長野に行ったときも、録音を欠かさなかった。なぜなら、在京のテレビやラジオでは放送されないCMソングの2番が、地元ディーラーのCMにちゃっかり挿入されていたりしたからだ。
いっぽうCMソング全曲は、色とりどりの風船で飾られた週末のディーラー発表展示会に行くと、営業所内にエンドレステープで流れていたものだ。ボクは前述のジェリー藤尾が歌っていた「今日はファミリーだヨ、カローラ〜」というメロディーを今も鮮明に覚えている。
CMソングでもうひとつ話すと、中学生の頃、東京モーターショー会場で日産がマイクロバス「シビリアン」の各シートにヘッドホンを装着し、各モデルのCMソング全曲を聴かせていた年があった。クルマCMおたくとして、あれほど感激した企画はなかった。
AKBファンの30年先をいっている
ところで、そうしたイメージキャラクターには「昇進」とでもいうべき動きもあった。例を挙げると、当初パブリカの宣伝に出演していた石坂浩二は、1973年に上級車種「パブリカ スターレット」が発表されると、そのキャラクターに“出世”した。さらに後年、当時の低公害エンジン「TTC」のキャンペーンでもナレーションを務めた。
日産ブルーバードの加山雄三は、ボクをハラハラさせた。1979年に6代目「910系」が誕生すると、イメージキャラクターは歌手の沢田研二に取って代わられてしまった。ボクとしては「出かけよう、初めての美しさに会いに。ブルーバード〜」という先代「810系」のCMソングが耳から離れなかっただけに、その“退役”に一抹の寂しさを感じたものだ。
ところがどうだ。翌1980年にデビューした新型車「レパード」のキャラクターに、「パワーエリート」というキャッチとともに加山雄三が起用されていた。レパードはブルーバードより上級のスペシャルティーカーであった。ボクが胸をなで下ろしたのは、言うまでもない。
当世AKB48ファンの楽しみとして「育てる感覚」という言葉がよく使われる。せんえつながら、ボクはその30年以上も前に、石坂浩二や若大将を育てる感覚を味わっていたのである。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=フィアット、日産自動車、Akio Lorenzo OYA)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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