三菱ランサーエボリューションVIIGSR(5MT)【試乗記】
『スピードの王』 2001.04.25 試乗記 三菱ランサーエボリューションVII GSR(5MT) ……309.8万円 厳しい環境に置かれた三菱自動車のピカイチモデル、ランサーエボリューション。7代目はベースがランサーセディアとなり、やや大型化。しかし、徹底した軽量化とニューテクノロジーで、さらなる進化を図った!
![]() |
![]() |
控え目な“エボ”モデル
私はスピードの王である。三菱ランサーエボリューションVII GSRのRECARO製フルバケットシートがあまりに本格的で、「尻」「腰」「肩」をガッチリ掴まれ抜けなくなったのだ。それ以来、私は、スピードの、王。MOMO社製3本スポークの本革ステアリングホイールを握って、ランエボVIIと一体化する。
「サテライトシルバー(メタリック塗装)」にペイントされたGSRを初めて目にしたときは、「オドロオドロしさが足りないんじゃあない?」と思ったものだ。前後左右のエアダムと、“エボ”にしては控え目なウィングがノーマルモデルとのめぼしい違い。フロント&リアフェンダーの張り出しも抑え気味。先代より115mm延びたホイールベースが、4ドアサルーンのプロポーションに落ち着いた雰囲気を醸し出す。
「従来より1.5倍の曲げ剛性」を謳う専用高剛性ボディ、軽量化のためのアルミ製ボンネット、そしてエンジンルーム下面のアンダーカバーが、エボVIIのジマンなのだが、私の目はフシ穴であった。ノーマル「Touring」系と選ぶところのないダッシュパネルに安心し、左端に鈍く輝く「EVOLUTION」のエンブレムに気が付いたときには、黒灰青の寒色シートに捕まっていた。タコメーターが中央に配された多連メーターが、赤く光って静かに笑う。
WRCの栄光
ボンネットの大きな放熱用アウトレットから、かげろうが立ちのぼる。
7代目の2リッター「4G63」型ターボは、給排気系、過給機にファインチューニングを受け、2750から5500rpmにわたる中回転域でのトルクが太くなり、エボVI比1kgmアップの最大トルク39.0kgm/3500rpmを発生する。ピークパワーは280ps/6500rpmと、いわゆる自主規制枠いっぱいだ。アウトプットのみならず、インタークーラー、オイルクーラーとも容量がアップされ、冷却性能にも抜かりはない。
「ロッカーカバーはマグネシウム製で、カムシャフトは中空なんだ」と思い出すと、ドライバーの口もとはほころぶ。回してもさして感興をもよおさない無機質なエンジンだけれど、タービン音に混じって、モンテカルロ、カタルニア、サンレモはじめ、世界各地のWRC(世界ラリー選手権)ステージでの歓声が聞こえる。……幻聴か?
私はスピードの王。RECAROシートに尻を挟まれた男。
低められたロウギアゆえ、エボVIIの出足は抜群。キーンと離陸せんばかりの加速力。ファーストで60km/h、セカンドで100km/h、サードで130km/hまでをカバーする。コンベンショナルな5段MTと、強化されたクラッチが頼もしい。
![]() |
津々浦々で
アウディ・クワトロに端を発する4WDシステムは、言うまでもなくいまやラリーウェポンの必須アイテム。新型ランサーエボリューションには、後輪左右の駆動力を制御するAYC(Active Yaw Control)に加え、前後輪間のトルクをも電子的にコントロールするACD(Active Center Differential)が採用された。全力加速・減速時には駆動力を前後ほぼ半々にしてトラクションを効率良く路面に伝え、コーナーではACDの差動制限を弱め、AYCが外輪のトルクを増やして回頭性を上げる。ちなみに、パーキングブレーキを引くと前後間がフリーになるので、スピンターンも可能だ。
ラリー好きにタマらないのが、タコメーターに表示されるACDモード。ダッシュボード右端にあるモード切替スイッチによって、「TARMAC」「GRAVEL」「SNOW」から選択できる。山道で試してみたところ、なるほど、後に行くほど前後の差動制限が強くなって、タイトコーナーでスライドしやすくなる……ような気がした。「街乗りランエボ」ことGSRを購入するうちの、いったい何割が切り替えスイッチに手を触れるのか? と考えるのは詮無いこと。伝家の宝刀は、抜かないからこそ宝刀なのだ。
私はスピードの王。夜の高速環状線で、人気のない峠道で、街はずれの直線道路で、津々浦々で小さな速度の王国を築く。トミ・マキンネンを想ってスロットルを開け、一方、ブレーキペダルを踏めば、brembo社製フロント17インチ対向4ポット、リア16インチ対向2ポットの制動システムが速度を絞め殺す。
(webCGアオキ/撮影=難波ケンジ/2001年4月)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
トヨタ・カローラ クロスZ(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.10 「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジモデルが登場。一目で分かるのはデザイン変更だが、真に注目すべきはその乗り味の進化だ。特に初期型オーナーは「まさかここまで」と驚くに違いない。最上級グレード「Z」の4WDモデルを試す。
-
ホンダ・レブル250 SエディションE-Clutch(6MT)【レビュー】 2025.9.9 クラッチ操作はバイクにお任せ! ホンダ自慢の「E-Clutch」を搭載した「レブル250」に試乗。和製クルーザーの不動の人気モデルは、先進の自動クラッチシステムを得て、どんなマシンに進化したのか? まさに「鬼に金棒」な一台の走りを報告する。
-
MINIジョンクーパーワークス コンバーチブル(FF/7AT)【試乗記】 2025.9.8 「MINIコンバーチブル」に「ジョンクーパーワークス」が登場。4人が乗れる小さなボディーにハイパワーエンジンを搭載。おまけ(ではないが)に屋根まで開く、まさに全部入りの豪華モデルだ。頭上に夏の終わりの空気を感じつつ、その仕上がりを試した。
-
ロイヤルエンフィールド・クラシック650(6MT)【レビュー】 2025.9.6 空冷2気筒エンジンを搭載した、名門ロイヤルエンフィールドの古くて新しいモーターサイクル「クラシック650」。ブランドのDNAを最も純粋に表現したという一台は、ゆっくり、ゆったり走って楽しい、余裕を持った大人のバイクに仕上がっていた。
-
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】 2025.9.4 24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。
-
NEW
新型スーパーカー「フェノメノ」に見る“ランボルギーニの今とこれから”
2025.9.12デイリーコラム新型スーパーカー「フェノメノ」の発表会で、旧知の仲でもあるランボルギーニのトップ4とモータージャーナリスト西川 淳が会談。特別な場だからこそ聞けた、“つくり手の思い”や同ブランドの今後の商品戦略を報告する。 -
NEW
思考するドライバー 山野哲也の“目”――BMW M5編
2025.9.11webCG Moviesシステム最高出力727PS、システム最大トルク1000N・mという新型「BMW M5」に試乗した、レーシングドライバー山野哲也。規格外のスペックを誇る、スーパーセダンの走りをどう評価する? -
NEW
日々の暮らしに寄り添う新型軽BEV 写真で見る「ホンダN-ONE e:」
2025.9.11画像・写真ホンダの軽電気自動車の第2弾「N-ONE e:(エヌワンイー)」の国内販売がいよいよスタート。シンプルさを極めた内外装に、普段使いには十分な航続可能距離、そして充実の安全装備と、ホンダらしい「ちょうどいい」が詰まったニューモデルだ。その姿を写真で紹介する。 -
オヤジ世代は感涙!? 新型「ホンダ・プレリュード」にまつわるアレやコレ
2025.9.11デイリーコラム何かと話題の新型「ホンダ・プレリュード」。24年の時を経た登場までには、ホンダの社内でもアレやコレやがあったもよう。ここではクルマの本筋からは少し離れて、開発時のこぼれ話や正式リリースにあたって耳にしたエピソードをいくつか。 -
ポルシェ911カレラT(前編)
2025.9.11谷口信輝の新車試乗製品の先鋭化に意欲的なポルシェが、あえてピュアな楽しさにこだわったというモデル「ポルシェ911カレラT」。さらなる改良を加えた最新型を走らせた谷口信輝は、その仕上がりにどんなことを思ったか? -
第927回:ちがうんだってば! 「日本仕様」を理解してもらう難しさ
2025.9.11マッキナ あらモーダ!欧州で大いに勘違いされている、日本というマーケットの特性や日本人の好み。かの地のメーカーやクリエイターがよかれと思って用意した製品が、“コレジャナイ感”を漂わすこととなるのはなぜか? イタリア在住の記者が、思い出のエピソードを振り返る。