日産フェアレディZ(6MT)【海外試乗記】
健康的な挑戦 2002.08.20 試乗記 日産フェアレディZ(6MT) 日米の、そして世界中のクルマ好きのココロを震わせた新しい「Z」。日産復活のシンポルカーとして、華々しくリリースされたフェアレディZに、webCGエグゼクティブディレクター、大川 悠が乗った。果たして、ニューフェアレディの走りはどうだったのか? “ズィーカー”のメイン市場となる、アメリカはカリフォルニアからリポートする。アメリカの恋人
新しい「日産フェアレディZ」は、本当の人気者だった。ロスアンゼルスでもカーメル、モントレーでもサンフランシスコでも、ちょっと停めると、必ず誰かが話しかけてきた。やがてそれが数人の人だかりとなる。面白いのは誰も基本的な質問をしないことだ。つまり「これは何?」「いくらぐらい?」「どこのクルマ?」などとは聞かない。
皆真っ先に口にするのは、「すごいじゃん」「かっこいいねえ」「欲しいなあ」という言葉であり、次に出てくる質問は、「どうして君たちもう乗っているの?」「一体いつから一般に手に入るのだったっけ?」「実際にどう? 雑誌に書いてあるようにいいクルマ?」ということである。
つまりみんな、Zを知っている。みんながニューZに興味を持っている。クルマ好きの多くが待っていたクルマがいま、実際に目の前にあることに感激しているということである。
うん、それはうれしい。別に僕は日産のシンパでも何でもないけれど、一人の日本の自動車メディアで仕事をしてきた人間にとって、それはとてもうれしいことだった。自分でつくったクルマではなくても、こういうクルマを再びアメリカ、いや世界への贈り物として実現させた国の人間であることがうれしかった。
とてもいいクルマだった。別に限界テストをしたわけでも、徹底的に試したわけでもない。数日カリフォルニアで過ごしただけだが、なんだか情が移ってしまった。そんな意味で愛すべきクルマだと思う。
素晴らしい外観と、いまひとつのインテリア
僕らに用意されていたのは「ツーリング」というスポーティ仕様だった。日本なら「Version ST」にだいたい相当するクルマで、6段MTに前「225/45」後「245/45」の18インチのブリヂストン・ポテンザRE040を履く。外装はスパークリングシルバーでバーントオレンジの革内装を持ち、BOSEのオーディオ・システムを備える。
さすがにアメリカでは適度にコンパクトに見える。というよりはスーパースポーツでも小型スポーツでもなく、ミディアム・クラス。今でこそオリジナルZはとても小さく見えるが、あの時代、アメリカでは今回のZもちょうどこのくらいのサイズに見えただろう。
地面に4本のタイヤをドーンと構え、低いスタンスでうずくまるそのフロント、高めのウェストラインと独特な形状のルーフ、そして適度に張りをもったホイールアーチからなるサイドスタイリングには、特に先代「Z32」のイメージをうまく残しているが、決してレトロに走っていない。特徴的なリアクォーターとテールランプがつくる斜め後ろの姿は、むしろ未来をめざしているように思える。“Z-car”のデザインキューやヘリティッジを残しながら、あくまでも前向きなのが個人的にもっとも評価したかった。
インテリアは、それに対してやや質感が落ちる。ことにシートの設計は、やはり3万ドル以下で売りたかったためか、それほどコストをかけられなかったのがよくわかる。メカニカルグレインを多用した内張りは、いまひとつフィッティングなどがきちんとしていなかった。室内のデザインは、初代「S30」のイメージを細部に意図的に残す。特に中央に3つの丸いメーターを置いてあの時代を再現しようとしている。そのうち一つが電圧計なのはちょっとおかしかったが、まあ、お遊びとしてはいいだろう。
広い間口と、多様な奥行き
最初、ロスアンゼルスの405号線にのり込んだときは、「うるさい、硬い」と一瞬思った。でも、ここの路面の悪さはよく知っている。確かにロードノイズは伝えるし、振動もあるが、ボディ剛性が高いのが全身で理解できる。
はたして一般道に降りた後は、スポーツカーとしてはとてもうまい着地点を見付けた、その乗り心地に感心した。そして、それほどきつくないカントリーロードをかなり高めの速度で流すと、いわゆるメーカーの主張する「フラットライド」が理解できた。
でも、何よりも気持ちがいいのは、クルマの中心付近にドライバーが座って、すべてをコントロールしている感覚である。ステアリングの応答性、それに対する四輪の挙動、何もかもが、あくまでドライバーを中央に据えて反応しているかのように感じさせられる。
ハンドリングの絶対限界はわからない。とはいえ、アメリカで気持ちのいい速度で流しているぶんには、単に“運転しやすい”という以上に、(それなりにだが)適度にエキサイティングだった。すくなくとも「ピュア・スポーツカー」として、ドライバーに何を訴えるべきかが明確だし、仮にATで流しても、男女を問わず通勤用のアシとして使える資質ももっていることがわかった。簡単にいえば、間口が広く、しかもそれぞれのユーザーが自分自身が求める奥行きを、それなりに楽しめるクルマである。
これには当然、3.5リッターV6「VQ」ユニットが貢献している。まず微低速のトルクがいい。6速でほぼアイドリングのまま20マイル/h(約32.2km/h)ほどで走ることさえ可能である。ただし2000rpmから上にトルクのフラットスポットがある。これはフィーリングのいい6速シフトでカバーできる。
ギアリングはアメリカのクルージングに最適で、現在のインターステイツの速いほうの流れ、つまり70マイル/h(約112.6km/h)だとトップで2500rpm。ここまで回せば、加速のためのスロットル操作をかなり受け付ける。この速度で5速に落とすと3000rpm、こうなると加速は強烈だ。そして4000rpmから上は豪快なパワーが出てくる。
ただしテスト車は、残念ながらこの領域から上はシフトリンケージからと思える振動音を発生していた。これは、おそらくプレス用車両として1万km以上あらっぽく使われたためだ。個体の疲労は、そうとう消耗したと思えるクラッチからも感じられた。
未来を向いたZ
ドライブ感覚を総括すると、まさに2シーターのスカイラインである。実際にプラットフォームがそうなっているのだから当たり前だが、前述したようにドライバーそれぞれが、自分の欲望や楽しみを引き出せるだけの広い間口を持っている。
まさにそれこそ代々「ズィーカー」がアメリカで築いてきた性格である。
だけど僕が何よりも気に入ったのは、このクルマが決して後ろを向いていなかったことだった。つまり過去の栄光や歴史を過度に引きずっていなかった。むしろ新しいニッサンを象徴するような、とても前向きで、とても健康的な挑戦姿勢に、何よりも喜びを感じた。
(文=webCG大川 悠/2002年8月)

大川 悠
1944年生まれ。自動車専門誌『CAR GRAPHIC』編集部に在籍後、自動車専門誌『NAVI』を編集長として創刊。『webCG』の立ち上げにも関わった。現在は隠居生活の傍ら、クルマや建築、都市、デザインなどの雑文書きを楽しんでいる。
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