第293回:スロットマシーンと健康診断!?
アウトストラーダの風景2013
2013.04.26
マッキナ あらモーダ!
第3車線の住人
イタリアの高速道路「アウトストラーダ」の、各車線の“住人”たちは、時代とともに変わる。アウトストラーダの制限速度は時速130kmである。この130kmという設定、クルマにとっては微妙な速度だ。なぜかというと、車齢が如実にわかるからである。
最新のクルマは、130km巡航を楽々とこなす。そのため、追い越し用である第3車線にたびたび姿を現す。しかし、いくら高性能・高級モデルであっても、経年劣化したクルマたちは、第2車線、第1車線と、無理のないレーンに居場所を変えていく。
例えば、5年ほど前まで第3車線で他車を蹴散らしながら走っていた「アルファ・ロメオ147」や「156」の多くは最近第2車線を走っているようになった。「アルファ164」などに至っては、もはや最も右側の第1車線を時速100km前後で走っていたりする。現在、第3車線は、ドイツ系ブランドとボルボによって独占されているといってよい。
先日「太陽の道」ことアウトストラーダ・デル・ソーレで、そうした彼らと互角に走る、見慣れぬクルマがあったので、「な、なんだ?」と思えば新型「ランチア・テーマ」、つまり「クライスラー300」の姉妹車であった。
空き店舗の傍らで
それと同じ日のことだ。モデナ周辺で、電光掲示板に不思議な表示を見た。「次のエリアで健康診断を受けられます」といった意味のイタリア語が記されている。ミラノからちょうど2時間走ったところだったので、ボクは次の西セッキア・サービスエリア(SA)で休憩をすることにした。
数年前改装された建物は、エスカレーターで導かれる2階デッキをもつ、モダンな造りだ。しかし1階には、ガランとした空きスペースがある。残された看板を見ると、以前あったアウトレットストアが撤退してしまったらしい。過去にもエリア内の別棟で営業していた店舗が撤退してしまったのは見たことがあるが、いわゆる本館で空き店舗が出てしまうとは。
その傍らで、おじさんたちが群がっている場所があるので見てみると、数台並んだビデオスロット(電子版スロットマシーン)だった。後日知ったのだが、このSAの売店では、2013年1月に500万ユーロ(約6億4000万円)の宝くじが出たという。ジャンルは違えど、運にあやかりたい向きは、少なくないのだろう。空き店舗と射幸心を煽(あお)るゲーム機。イタリアの今を端的に象徴している。
屋外に立つ、太陽の道の拡幅工事の無人解説コーナーは、なんとビデオ付きという豪華版であるが、誰からも相手にされていない。アウトストラーダは民営化されて11年になるが、やることといえば依然お役所仕事である。
唯一マシになったのは、SAレストランにおいてシェア・ナンバーワンを誇る「アウトグリル」が、近年トイレのチップ制度廃止に向かって動いていることくらいである。
トラックドライバー用だった
おっと、例の健康診断を忘れてはいけない。どこでやっているのかと見回せば、例の元アウトレットショップの隣、これまた以前は何かの店舗が入っていたと思われるスペースだった。のぞいてみると一人先客がいた。ソファで、パンフレットを読んで順番を待つことにした。
このサービスは太陽の道の2カ所、他のアウトストラーダの2カ所の合計4カ所で、イタリア赤十字の協力のもと実施しているという。
簡易健康診断の内容を紹介しよう。
まずは血圧、骨密度、呼気検査、心拍数だ。加えて、簡単な血液検査もあって、項目は血糖値、コレステロール値、動脈硬化などの目安となるトリアシルグリセロールと続く。「PSA」とはプジョー・シトロエンではなく、前立腺疾患発見の手がかりになるらしい。そのあと希望者は、設置されているモニター画面で、離れたところにいる医師と健康相談もできるという。ちなみに解説によると、血液検査は指先から少量の血液を採取するらしい。
以前、東京・お台場にある「大江戸温泉物語」を訪れたとき、類似の有料健康チェックをしてくれる屋台があって、その時は「痛いのかな、大丈夫かな」とビビり、断念したことを思いだしたが、タダでやってもらえるのだから、おとなしく受診してみようかな……。
と、そんなことを考えていると、赤十字隊員の赤いツナギを来たおばさんが、ボクに気づいてくれた。ところが、どうだ。彼女は「ここはカミオニスタ(トラックドライバー)向けよ」と言うでないか。
最初に発見した電光掲示版にも、コーナーの入り口にも、そんなことは明記していないぞ。唯一それを匂わせるのは、パンフレットに刷られているクルマの写真がトラックのみということだけだった。さらに続いたおばさんの言葉が傑作だった。
「アウティスタは対象外なのよ」。
“Autista”とは、イタリア語でタクシーやハイヤー、バスの運転手を示す。その直後、中国から来た人たちと思われる観光客をたくさん乗せたマイクロバスが、窓の外を通りすぎた。
アウトストラーダを通るクルマもヒトも、時代とともに刻々と変化しているのである。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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