プジョー208アリュール(FF/5MT)
帰ってきた「いいクルマ」 2013.05.13 試乗記 シリーズ唯一の3気筒エンジンに、3ペダルの5段MT。プジョーが放つ、こだわりのコンパクトハッチバック「208アリュール」の走りを試した。“実”のある個性
「208」は、全長が4mを切るコンパクトサイズでありながら、プジョーの最も重要なモデル、いわゆる基幹モデルである。ご先祖の「205」が大成功をおさめ今のプジョーの礎を築いたという歴史を引き継ぐ最新型であり、小さいからといって安易に手抜きをすることのないクルマづくりが見て取れる。これこそ、プジョーの信条であり、良心である。
208の3ドアモデルとしては、「アリュール」と「GT」の2車種が用意されるが、立派なスポーツシートは、ともに同じものが使われている。それも手伝って、先代「207」より幅が広がった室内にいると、上位モデルの「308」や「508」とさほど変わらぬ居住感覚が得られる。この辺は、「ヴィッツ」や「フィット」など国内事情を反映した小型車とは異なるところで、しかも輸入車にして199万円という価格設定を考えるならば、望外のお買い得と言えるだろう。
ステアリングホイールの頭越しに眺める特徴的な計器類も、視認性はよろしい。運転中の前方視界から目を移した際もピント合わせは容易で、視覚的な速度と計器上の数値を頭の中で管理しやすい。おかげで、肩をシートバックに預けて理想的な運転姿勢を維持できるから、正確な操舵(そうだ)も可能となる。
また相対的にステアリングホイールが下方にあるおかげで、腕の位置も下がり、疲れが軽減される。実際に長時間運転してみても、疲れにくいことは実感できた。
新しい1.2リッター3気筒エンジンは、音質こそ4気筒とは異なるが、振動については、教えられなければ3気筒とは分からないほど抑えられている。パワーの出方は、この排気量にしてはトルク感に満ちたもので、きちんと回して使えばそれなりに速いが、上り坂でハイパフォーマンスカーを追い回せるほどではない。
3速、4速で高回転域に入る速度帯ともなれば、結構小気味よいレスポンスも得られる。ただ、そうした絶対的な速さではなく、純粋な走行感覚として――あえて上位モデルの「GT」を選ばずとも――スポーティーな運転を楽しめるレベルにある。
乗って驚く3気筒
普通の市街地で多用する2000rpm前後の低速域もトルク感十分で、ことさら回さずとも早めに上のギアに入れて、静かに走行することが可能だ。
最近の高性能エンジンは、持てる力を出し切るチャンスがないばかりか、トラクションコントロールで規制されたり、あえて出し切ろうとすれば途方もない速度に達してしまったりと、ストレスのたまることが多い。
その点、この1.2リッターエンジンは、ひとまとまりの大きなパワーを感じさせるタイプではないが、シリンダー内の1爆発ごとにその活気ある息吹を感じさせてくれる。ロングストローク型エンジン(ボア×ストローク=75.0×90.5mm)らしく、低回転でも執拗(しつよう)に粘る。そして、回すほどに滑らかさを増す。
「アイドリング状態では、あるいは3気筒のウイークポイントを見いだせるか……?」と意地悪く観察しても、振動などのマイナス点はまったく目に付くことがない。資料で確認することなしに、ボア×ストロークの比率などを推測するのも難しい。
例えとしてふさわしくないかもしれないが、それはオートバイのエンジンに似ている。低回転で高いギアに入れたまま、トットット……と進んでいく、そんな感覚。最近では珍しい、個性的なエンジンである。
また、最近のプジョーの1.6リッター4気筒とは違って、エンジンブレーキを多用するような、4000rpm以上の高回転域で連続して上げ下げさせるシチュエーションでも、不安を覚えることがない。「回したところでとても壊れそうにない」というこの堅牢な印象は、その昔「406」などのエンジンで強く感じられたものだ。今の4気筒はやや線が細くきゃしゃな感じもする。その点、エンジンについては「昔のプジョーらしさが戻った」とも言える。
「MTのみ」も喜ばしい
今回の試乗は箱根のターンパイクや伊豆スカイラインを経由していて、しかも取材の道中はスーパーカーも伴っていたから、たびたび急な加速を余儀なくされた。
しかし、都内に戻って給油してみれば、トータル338kmの総平均で15.2km/リッターも走っていてビックリ! 意識的に回して使ったときには、燃料もそれなりに消費していたはずだが、その後の高速クルーズや都内での低速運転で回復したと思われる。燃費に貢献するアイドリングストップ機構などを持たずともこの数値が得られるのだから、通常の観光ドライブやより実用的な走行では、さらなる好燃費も期待できるだろう。
このエンジンは、5段MTとしか組み合わせられていない。しかし、これはマニュアルトランスミッションの良さを見直すいいチャンスだ。“キカイに乗せられて”我慢を強いられているという、痛痒(つうよう)感を払拭(ふっしょく)するにちょうどいい。
どんなによくできた自動変速機であれ、ドライバーの意思とは少なからずズレが生じてしまうことはご承知のとおり。ショックが少なければそれでいい、というものでもない。変速作業こそ「運転する楽しさ」の神髄であり、その楽しみを自動変速機に代用されてなるものか、と思える。「オートマ(AT)は片足だけで運転できるから楽」という人もいるが、両足を駆使して3つのペダルを操作することは、われわれのようなシニアには老化防止にもなろう。
「いまさら、クラッチミートは難しいし……」などと心配することもない。今や踏力は小さくて済むのだし、クラッチそのものの耐久性も向上している。25万kmは問題のないことはメーカーでも確認できている、というのが通説である。それに、クラッチペダルを踏めばたちどころに動力を完全に断つことができるというのも、MT車のいいところだ。アクセルを戻してもズルズルと転がっている、AT車のルーズな動きとは無縁である。
これぞ真のスポーツハッチ
昔のプジョーは、ただの4ドアの実用車でも“スポーツセダン”と評された。それはスポーティーな運転操作に耐えるだけのレスポンスなり強健な手応えがあったからだ。
スポーティーという言葉は販売上の宣伝文句としては好都合で、太いタイヤや低い車体、奇妙なほど盛り上がったボディーパネル、そして大馬力のエンジンなどで表現することも可能だ。しかし、それはクルマが“そうできている”だけのこと。運転そのものがスポーティーにできなければ、意味をなさないのだ。
大パワーエンジンを積めば、速いのは当たり前。誤解を恐れずに言えば、速いことがスポーティーなわけではない。それは、レースなど競技会での話だ。パワーが必要な時は、スロットルを開ければいい。ゆっくり開けるか素早く開けるかによって、自分の意思を通すことができる。ドライバーの意思と無関係に速いのは、余計なお世話というものだ。
ステアリングのレスポンスもまた、操舵の速度に見合ったヨーなり横Gの発生の仕方が望ましい。ギア比だけがやたら“速く”なっていて、ちょっと切ってもビックリするほどノーズが動くクルマもあるが、多くはタイム的な遅れが気になるものだ。そのままスッと素直に動きだせばそれほど切らずに済むところを、遅れるから切り過ぎるわけだ。
例えば、かつての「プジョー505」などは、手首の動きだけで1車線移動できた。ギア比的にはさほど速くはないが、レスポンスがいいので、まるで曲がろうとする意思が手に伝わると同時に動きだしているような感覚だった。現在よく見られる太いタイヤを履くモデルなどは、一見するとレスポンスに優れる印象だが、初期の微舵領域で遅れるから、グイッと大きく切った時に遅れ分が加わる。それで、あたかもグリップがいいように感じられるのだ。
自然なレスポンスこそ、ドライバーの意思に通ずる。スポーティーに操ろうと思うとき、それができるかどうかが問題だ。速く走りたければ、そのように操作をすればよい。
このプジョー208に乗ると、そんな、昔からなじんできた性格のクルマが戻ってきたような気がする。堕落した運転スタイルを改めさせてくれるクルマ、自動車が持つ本来の楽しみ方を味わわせてくれるクルマは、いいクルマだと思う。
(文=笹目二朗/写真=田村弥)
テスト車のデータ
プジョー208アリュール
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3960×1740×1470mm
ホイールベース:2540mm
車重:1070kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:5段MT
最高出力:82ps(60kW)/5750rpm
最大トルク:12.0kgm(118Nm)/2750rpm
タイヤ:(前)195/55R16(後)195/55R16(ミシュラン・エナジーセイバー)
燃費:19.0km/リッター(JC08モード)
価格:199万円/テスト車=199万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:3408km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:338.0km
使用燃料:22.2リッター
参考燃費:15.2km/リッター

笹目 二朗
-
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】 2026.1.17 BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。
-
マツダCX-60 XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ(4WD/8AT)【試乗記】 2026.1.14 「マツダCX-60」に新グレードの「XDドライブエディション ナッパレザーパッケージ」が登場。スポーティーさと力強さ、上質さを追求したというその中身を精査するとともに、国内デビューから3年を経た“ラージ商品群第1弾”の成熟度をチェックした。
-
カワサキKLX230シェルパS(6MT)【レビュー】 2026.1.13 その出来には“セロー乗り”も太鼓判!? カワサキのトレイルバイク「KLX230シェルパ」に、ローダウン仕様の「シェルパS」が登場。安心の足つき性で間口を広げた一台だが、実際に走らせてみると、ストリートでも楽しめるオールラウンダーに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツC220dラグジュアリー(FR/9AT)【試乗記】 2026.1.12 輸入車における定番の人気モデル「メルセデス・ベンツCクラス」。モデルライフ中にも年次改良で進化し続けるこのクルマの、現在の実力はいかほどか? ディーゼルエンジンと充実装備が魅力のグレード「C220dラグジュアリー」で確かめた。
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション(FF/CVT)【試乗記】 2026.1.10 日産の軽スーパーハイトワゴン「ルークス」がフルモデルチェンジ。「見えない危険が……」のテレビCMでお茶の間をにぎわせているが、走る、曲がる、止まるをはじめとしたクルマ全体としての仕上がりはどうか。最上級グレードをテストした。
-
NEW
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
NEW
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
NEW
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。































