プジョー208GTi(FF/6MT)/208XY(FF/6MT)
骨太なホットハッチ 2013.07.12 試乗記 「205GTi」のデビューから30年、「208」にもスポーツモデルの「GTi」が追加された。同時に発売された「208XY」とともに、箱根で試乗した。落ち着いた“おてんば娘”
「プジョー208GTi」をして、軽やかに駆け抜け、足先の力加減ひとつで瞬時に向きを変える“おてんば娘”(死語)を期待すると、少々裏切られる。姿カタチをガラリと変え、100kgほども軽量化されたとはいえ、基本となるシャシーは先代「207」のそれを活用したもの。頼りがいのある乗り心地、安定したハンドリング、落ち着きある振る舞い。そうした特徴を、208も引き継いでいる。
2012年の末から、わが国でも販売が開始されたプジョー最新のコンパクトモデル、208。1.6リッター直4(120ps、16.3kgm)と4段ATを組み合わせた5ドアモデル。同ターボ(156ps、24.5kgm)搭載の3ドア(6MT)。そして新開発の1.2リッター直列3気筒(82ps、12.0kgm)を採用した3ドア(5MT)が、追ってラインナップに加わった。今回の、ハイチューンド版1.6リッターターボ(200ps、28.1kgm)を積んだGTi(6MT)の導入で、208のモデル構成はひとまず完成ということになる。
208の輸入開始時に、日本市場において必須のオートマ車が、4段ATの5ドアだけということで苦戦を予想する向きもあったが、プジョー・ジャポンのマーケティング担当者によると、「予定通りの出足」とのこと。「207がちょっと大きくなったため、買い換えを控えていた『206』ユーザーが、208に興味を示している」という。なるほど。地方の客を中心に、3ペダルのマニュアル車も根強い需要があり、プジョー車全体で5~8%を占める。MT車を用意しない上級モデルを含んでのパーセンテージだから、無視できないボリュームだ。
さて、「レジェンド・イズ・バック」といささか大仰なキャッチフレーズを掲げてリリースされた208GTi。落ち着き気味だったプジョーのイメージを、「よりスポーティーに振っていきたい」との意図が込められる。プレス試乗会場では早速、米コロラド州で行われたパイクスピーク・ヒルクライムで、「プジョー208T16PP」が、見事! 優勝したことが伝えられた。ドライバーは、セバスチャン・ローブ。クラスは、「アンリミテッド」である。
「205」へのオマージュも
試乗車の208GTiは、「カラド・ブルー」という、紫がかったメタリックの色。そのほか「ビアンカ・ホワイト」「ペルラ・ネラ・ブラック」「シャーク・グレー」「リオハ・レッド」と凝った名前のやや複雑なボディーカラーが用意される。会場に展示された1980年代の名車「205GTi」を懐かしく眺めながら、ソリッドの赤や黄色、「106」シリーズにあったブルーといった、「もっとシンプルな色があってもいいのに」と思う。
ホッテスト208の差し色は「赤」。フロントグリル下部に赤いアクセントラインが入り、PEUGEOTの文字も赤く塗られる。17インチホイールの陰からは、赤いキャリパーがのぞく。Cピラーには205へのオマージュたる「GTi」エンブレムが付き、リアのエキゾーストパイプは、ダブルの台形デザインで決める。
ハイスペックを予感させるのが、控えめながら前後に与えられたオーバーフェンダー。GTiは、前後のトレッドが、それぞれ10mm、20mm広げられた。ルーフエンドのストップライト内蔵型のスポイラーも見逃せない。
ドアを開ければ、そこかしこに「赤」がちりばめられる。ファブリックシートのサイドサポート内側、革巻きステアリングホイールの頂部、シフトノブのサイド、パーキングブレーキのステッチ、メーターナセルの縁取り、アームレスト前部にセンターコンソールのエアコン吹きだし口……。「ちょっとやり過ぎじゃあ、ありませんかい?」と苦笑しながら、エンジンのキーをひねる。
208GTiの1.6リッターターボは、最高出力200ps/6000rpm、最大トルク28.1kgm/1700rpmという大きなアウトプットを発生する。基本的に同じエンジンを使うMINIのクーパーSが184psと24.5kgm。ジョンクーパーワークスが211psと26.6kgmだから、そのハイチューンぶりがわかろうというもの。
クラッチをつないで、走り始める。
「ESC」のセッティングに感心
ニヒャクバリキのGTiには、もちろん専用スポーツサスペンションが奢(おご)られる。硬めだが、路面が悪い場所でも、ガツンガツンと突き上げられるようなことはない。助手席から不満が出ることもないだろう。いい案配だ。「205/45R17」という、スポーティーなサイズのタイヤを無理なく履きこなす。
208GTiのドライブフィールを性格付けるのが、低回転域から湧き上がる太いトルクである。アクセルペダルに載せた足に少し重みを加えるだけで、1.6リッターターボは1200kgのボディーをグイグイと進ませる。エンジンをフルスケール回してレーシーにシフトアップすると、なんと! ホイールスピンしながら加速した。
プジョー208GTiの6段MTは、通常の6MTモデルとファイナルは同じながら、2速から上をローギアード化するという、ずいぶん凝った仕様を採る。「せっかくのハイパワーを存分に堪能してもらいましょう!」というエンジニアの心意気、だろうか。
峠道で、右へ、左へ。ボディーはもとより、ステアリングの剛性感も高く、手応えがしっかりしている。コーナリング中にスロットルを抜いてもタックインは極少で、かつてのオシリが軽い、トリッキーな(だけど楽しい)コンパクトプジョーの特性は、影を潜めた。トコロテンのようなトルクの出方と相まって、208GTi、愛嬌(あいきょう)のある外観とは裏腹に、なかなか骨太な走りを見せる。細マッチョというか、可愛マッチョな感じ!?
感心したのが、乱れた挙動を正す「ESC」のセッティング。高めの速度で強引にカーブに入ってプッシングアンダーを出しても(恥ずかしいことです)、ESCが穏やかに運転者をいさめて、自然に次の加速に備えてくれる。タイトなカーブでは、ときどきESCの作動を示す赤い警告灯がつくが、運転の楽しさがスポイルされることが一切ない。「開発者も運転好きなんだろうなぁ」と思わせるスタビリティーコントロールだ。
GTiを返却して、同時に発売された208のオシャレバージョン「XY」に乗り換える。通常版の1.6リッターターボ(156ps/6000rpm、24.5kgm/1400-3500rpm)に6段MTのトランスミッション。GTiと同じコースをたどると、アレッ!? コッチの方が、試乗前に想像していたGTiのイメージに近い?
大きなグラフルーフを付けたボディーを、穏やかにロールさせながら、山道を登っていく。エンジンのチューンも(相対的に)抑えられるので、むしろ「回す楽しみ」があって、6MTの生かしがいがある。惜しむらくは、タイヤサイズがGTiと同じことで、もうひとまわり小さく、細くした方が「ドライブフィールがスッキリする」と感じた。その方が、本格派のGTi、軽やかさのXYとすみ分けが明確化して、いいんじゃないでしょうか。
プジョー208GTiの価格は、まあ、あまり迷う人はいないだろうが、くしくもデビューしたばかりの「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の「ハイライン」と同じ299万円。XYは269万円である。
(文=青木禎之/写真=郡大二郎)
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テスト車のデータ
プジョー208GTi
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3960×1740×1470mm
ホイールベース:2540mm
車重:1200kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:200ps(147kW)/6000rpm
最大トルク:28.0kgm(275Nm)/1700rpm
タイヤ:(前)205/45R17 88V/(後)205/45R17 88V(ミシュラン・パイロット エグザルトPE2)
燃費:13.8km/リッター(JC08モード)
価格:299万円/テスト車=299万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:2040km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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プジョー208XY
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3960×1740×1470mm
ホイールベース:2540mm
車重:1200kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:156ps(115kW)/6000rpm
最大トルク:24.5kgm(240Nm)/1400-3500rpm
タイヤ:(前)205/45R17 88V/(後)205/45R17 88V(ブリヂストン・ポテンザRE050A)
燃費:15.2km/リッター(JC08モード)
価格:269万円/テスト車=269万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2013年型
テスト車の走行距離:1353km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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