第56回:自宅で楽しめる日米欧中の特選映画をセレクト!
夏休みに観たいクルマ映画DVD
2013.07.30
読んでますカー、観てますカー
カメラは車内固定でカーチェイス
この欄でも紹介した『ワイルド・スピード EURO MISSION』が大ヒット中のようで、大変めでたい。クルマや人がバンバン飛んでぶつかる映像を見て大騒ぎするという、アメリカンな楽しみ方が日本人にも身についてきたのだろう。少々の無理や疑問点はやり過ごして、ド派手なクラッシュと男筋や女尻がいっぱいあればOKというわけだ。
ただ、今回の作品はポール・ウォーカー好きにとっては物足りないかもしれない。彼が演じるブライアンの活躍が、これまでに比べると乏しいのだ。登場するクルマが日本のスポーツコンパクトからアメリカンマッスルに移っていったのに並行して、人間もヴィン・ディーゼルやロック様の巨大な筋肉ばかりが強調されるようになってきた。ポール・ウォーカーの細マッチョなカラダは、その中では日陰の存在になりつつある。
でも大丈夫。全編にわたってポール・ウォーカーが映り続ける映画があるのだ。『逃走車』はカメラが終始クルマの中にあり、ずっと車載映像を見せられる。極端にアップになった時を除き、ドライバーがフレームから外れることはない。主人公のマイケル(ポール・ウォーカー)が南アフリカの空港でレンタカーをピックアップするところから物語は始まる。しかし、最初からトラブルだ。セダンを頼んであったのに、駐車場に用意されていたのはミニバンだったのだ。元妻に会うために急いでいる彼はそのままミニバンに乗っていくが、それが面倒を引き起こす。
ダッシュボードには携帯電話が置いてあり、「間違いなく始末しろ」と謎のメッセージが届く。足元には、ピストルがある。さらにトランクから両手両足を縛られた女が出てきた。わけがわからないまま彼は指名手配され、パトカーから追い回されるハメになる。相手は「BMW」や「メルセデス・ベンツ」といった高性能車だが、こちらはミニバンだ。しかも、アメリカから来たマイケルは、右ハンドル・左側通行という南アフリカの交通状況に慣れていない。絶体絶命の状況をどう切り抜けるのか。視点が車内に固定されているから、観客はどうしたって同乗している気分になり、緊迫感から逃れることはできない。
ということは、乗っているクルマの外観を見られないということでもある。最後の最後でカメラが外に出て、ようやく正体がわかった。「クライスラー・グランドボイジャー」である。緊迫のカーチェイスを演じたのは、ごくごく平凡なファミリーカーだったのだ。
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名車に乗ったテロリストたち
ヨーロッパからは『カルロス』を紹介しよう。3部作で合計上映時間が5時間26分に及ぶ大作である。主人公のカルロスは、実在の国際テロリストだ。ベネズエラ人で本名はイリイチだが、革命家だからコードネームで呼ばれている。14件のテロ事件に関与し、殺害人数は83人にのぼるというから大変な大物だ。演じているエドガー・ラミレスは『チェ 28歳の革命』ではゲバラの部下役だったから、そういう顔なんだろう。
カルロスは1974年から83年にかけて活動していて、映画の描写を見る限りテロの手口は乱暴で雑である。空港の展望台にバズーカ砲を持ち込んで、離陸しようとする旅客機を撃ったりしているのだ。なんとも牧歌的な時代だが、そういうことがあったせいで今の面倒くさい空港でのチェックが始まったわけだから迷惑な話だ。
このカルロスという男、革命家を名乗ってはいるものの、目立ちたがり屋の兵器オタクでしかないようにも見える。しかも、女にだらしなくて飲んだくれ。闘争が暇な時は“酒→女→酒→女”の繰り返しで食っちゃ寝しているものだから、おなかまわりに肉がついてとても戦士には見えないみっともないカラダになり果てる。時代が流れてベルリンの壁が崩壊し冷戦が終わると、彼は何の役にも立たない人間だ。
彼の政治的主張はともかく、事件が起きるヨーロッパの街角に60年代70年代の名車が並ぶ風景は楽しめる。ロンドンでは「シトロエン」の「アミ」や「DS」が行き交い、ブダペストを走るのは「トラバント」や「シュコダ」「タトラ」だ。ハーグでは、日本赤軍が「フォード・タウヌス」でフランス大使館を襲撃していた。カルロスが乗っていたのは「オースティン・アレグロ」や「シムカ1100」である。実際にこれらのクルマが血なまぐさいテロに使われたとしたら、不幸なことだ。
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300Cに乗った“殺し屋”が記憶喪失に
日本代表は『鍵泥棒のメソッド』。予告編がちょっとアレだったのでノーマークだったのだが、劇場で観たらクルマが重要な小道具になっている映画でびっくり。役者陣がスゴい。売れない役者で貧乏のあまり自殺しようとしていた桜井を演じるのは、堺雅人。顔面迫力の強い切れ者の“殺し屋”コンドウは香川照之だ。演技派で知られるふたりが顔を合わせるのだから、期待は高まる。そこに笑顔を封印した広末涼子が絡み、『あまちゃん』の副駅長・荒川良々がヤクザ役で登場する。
そして、監督は『運命じゃない人』『アフタースクール』の内田けんじだ。今回も脚本の練り上げ方が尋常でなく、昨年の日本映画ではナンバーワンだろう(ちなみに今年の一番は今のところ『中学生円山』)。銭湯でコンドウが石鹸を踏んで転び、頭を打って記憶喪失になる。ちょうどその場に居合わせた桜井が鍵をすり替えて立場を交換するという筋立ては安直でダメダメ感を漂わせるが、さにあらず。この映画は脱力系『ボーン・アイデンティティ』だったのだ。
桜井はヨレヨレのジーンズにTシャツで、ボロアパートの中は汚れ放題。一方のコンドウはピシッとダークスーツを着こなし、整理の行き届いた高級マンションに住む。愛車は「クライスラー300C」である。このクルマを選んだセンスが、まず驚きだ。ハードボイルドだがきちょうめんな性格で、常識にこだわらずいいものを選ぶ目を持つコンドウの設定にピッタリなのだ。実はこのあたりをおろそかにしている映画がとても多く、クルマのチョイスを見るだけで興ざめになってしまうことがしばしばある。
撮影のために、300Cは2台用意したそうだ。なぜなら、物語が進むに従って、だんだん壊れていくからである。コンドウは生真面目な性格だから、散らかっていた桜井のアパートはきれいに整頓されていく。対して、桜井は何事も中途半端でいい加減なのだ。300Cはあちこちがぶつかり、凹んで変形していく。前のほうの場面を後で撮ることもあるので、1台では困るのだ。
ラストシーンでは、300Cのリアウィンドウ越しに素敵な情景を見せてくれる。これもありえないようなベタな描写なのだが、内田監督のだましのテクニックにすっかりやられてしまうのだ。
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新旧サンタナのカーチェイス
最後に紹介するのは、“中華女性自動車レース映画”とも言うべきニッチなジャンルの作品である。『スピード・エンジェルス』は原題が『極速天使』で、女子レーサーの話なのだ。でも、なぜかウエディングドレス姿の女が日本の銀座通りを走っているというトンデモな場面から始まる。あの伝説のドラマ『101回目のプロポーズ』を思い起こしてしまった。その女はレーサーでチームのコーチと婚約していたのだが、こともあろうに親友で同僚の女に寝取られてしまったのだ。
コーチ役は、北村一輝。彼の属する「チーム桜」は、勝つためには手段を選ばない。陰湿で卑劣な男をこれ以上ないほど濃い演技で表現していて、やり過ぎ感があるほどだ。日本人が完全な悪役の中国映画というのは時節柄いかがなものかと思うが、そういうこともあって劇場公開されずにDVDでの発売となったのかもしれない。
舞台は代わって香港である。レースチーム「スピード・エンジェル」のコーチであるガオがひったくりに遭い、近くにいた「フォルクスワーゲン・サンタナ」のタクシーに乗って悪党を追いかける。運転手は若い女性で、類まれな運転テクニックを持っていた。相手は旧型のサンタナで、市街地でのサンタナvsサンタナのカーチェイスがなかなか楽しい。ゲリラ撮影のような生々しさがあった。
腕を見込んで、ガオは運転手をスカウトする。レースに出ろというわけだ。おやおやという展開だが、そんなことにめげてはいけない。この運転手シャオイを演じているのは、タン・ウェイなのだ。『ラスト、コーション』での役が超エロかった彼女である。『捜査官X』の若妻役もよかった。彼女が活躍するのだから、少々のキズには目をつぶらなければいけない。
部品が盗まれたりシャオイの乗るクルマが襲撃されたりいろいろあるのだが、最後はレースで勝負だ。レースシーンのCGがプレステ並みのレベルだが、もちろんそんな細かいことを気にしてはいけない。ヘルメットを脱いだタン・ウェイのかわいらしさがすべてをチャラにする。猛暑の中で観るDVDは、そんなおおらかさが必要なのだ。
(文=鈴木真人)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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